かわうそ日記 ( 2005年11月 ) こよみのページ こよみのページ
シオンのこと  (2005.11.29[火])

冬の初めに、シオンが死んだ。
転覆病のようだ。

転覆病は水温が低下する時期に発生しやすい病気だそうだ。
浮き袋の異常により、金魚がお腹を上にしてひっくり返ってしまう病気だが、餌の食べ過ぎと運動不足による腸満が原因になることもあるという。シオンの場合、後者の可能性が高い。

同じ水槽の他の金魚よりずっと元気にしていたのに、ある日気がつくと弱ってひっくり返っていた。
いつも元気で人一倍よく食べるシオンには、ついつい多めに餌を与えてしまったのが良くなかったようだ。

墓標ひっくり返ったシオンをすくい取って、薄い塩水の入ったバケツに移し水温も上げてみた。すると持ち直したようにバケツの中をしばし泳ぎ回るのだが、いつの間にかまたグッタリしてしまう。
普段は上しか見えない目を持った頂天眼のシオンが、グッタリとバケツの底を見つめている様は哀れだ。

こんなことの繰り返しで三日が過ぎ、四日目の夜にシオンは動かなくなった。
上しか見えない滑稽な目をしたシオンが家の水槽に来てから10ヶ月。来たときに比べると見違えるほど大きくなっていたが、その一生は短かった。

翌朝、綿を敷いたストロベリーチョコレートの空き箱にシオンを納めて埋めた。
赤い鳥居の脇に咲いた石蕗の下に。
いつも真上を向いていたあの目の先に、黄色い石蕗の花が見えるだろう。
フグの毒さえ消すという石蕗の葉の力で、病気もきっと治るだろう。
何時か元気になったなら、家の水槽に戻っておいで。


よみがえる「ことわざの世界」?  (2005.11.19[土])

バサッ

音とともに目の前を焦げ茶の物体が通り過ぎていった。
通り過ぎる一瞬に、ギロリとにらむ鋭い目が見えた。
鳶だ。

鳶は上から下に向かって高速で滑空していた。
通り過ぎる瞬間、鳶の足からつかんでいた何かの種が飛び散って行くのが見えた。

 大事にしていたものを不意に横取りされること

鳶に油揚げをさらわれるを辞書で引くとこんな風に書かれている。
「鳶に油揚げ」と聞くと、脳裏には最後に食べようと丼の端に大切にとっておいたきつねうどんの油揚げを、食べようとした直前にかっさらわれるうっかり八平の姿が浮かぶ。

油揚げをさらって、悠々と舞い上がる鳶を見上げて地団駄を踏む八平と、周囲で大笑いする水戸黄門様御一行の姿までありありと想像してしまう。

「鳶に油揚げ」は大切なものを横取りされてしまうという深刻な状況を表す言葉のはずなのに、一向深刻さを感じ無いのは、こんな映像が浮かぶためだろうか。

ある休日の昼下がり、家族四人で階段状に整えられた河の護岸に腰掛けておにぎりを食べた。
私が一番左端。その右には次男のタツ、家内、そして反対側の端には長男のトモと並んで腰掛けていた。左から3人まではおにぎりを頬張り、右端のトモだけは焼きそばパン。通り道で寄ったコンビニで見かけて急に食べたくなって買ってきたものだ。
まだ小さいタツが、おにぎりを両手でつかんで、

 「デッカイネ」

と言いながらかじりついていた。

風のない小春日、河の水音だけが聞こえるのどかな午後。突然に鳶がやってきた。
一瞬の出来事にあっけにとられて、何が起こったのか解らなかった。
気がついてみると4m先まで飛び散った焼きそばとちぎれたパン。そして左手をまじまじと見つめるトモの姿。

一連の出来事をつなぎ合わせてみると、トモがお茶を取ろうと右手を伸ばした瞬間に、左手に持っていた焼きそばパンを鳶がかっさらっていったのだ。
この時、家内とトモは並んで座っていた。たまたま家内は左の方を向き、トモが右に体を傾けた時ではあったが、それでも二人の間隔は50cmも無かったはず。どうやってあの大きな鳶が二人にふれもせず、その隙間を通り抜けていったのか今もって解らない。
ただ、その狭い隙間を通り抜け、一瞬の隙にトモの焼きそばパンをつかんでもぎ取ったことだけは解る。

鳶の足から、何かの種が飛び散ったように見えたのは、焼きそばパンから飛び散った焼きそばだった。
こうして、私の家族は「鳶に油揚げをさらわれる」ということわざが、決して絵空事ではなかったことを知った。現代によみがえることわざの世界である。

楽しみにしていた焼きそばパンを鳶にさらわれてしまったトモではあるが、「すごいね、鳶に焼きそばパン取られたことのある人なんて、日本中探したって何人もいないよ」とピントのずれた誉められ方を家内にされて、ちょっと得意そうな顔を見せた。

落ちた焼きそばパン追記.
焼きそばパンをもぎ取ることには成功したが、結局落としてしまった鳶。

しかし、数分後やってきたカラスが、漁夫の利よろしく落ちたパンに近づき、くわえて飛び始めると、鳶がすかさずやってきて、カラスの飛行経路と交差した。

と次の瞬間にはカラスから奪ったパンを足に握って、悠々と河の流れの上を飛び去る鳶が見えた。


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