かわうそ日記 ( 2010年03月 ) こよみのページ こよみのページ
日付のない春の日  (2010.3.29[月])

山中暦日無しという言葉があります。
時の流れを「月日の流れ」といういうことがありますが、時の流れと月日の流れ、つまり暦日の流れが等しいのは人間の社会においてだけのことです。
時の流れは万物に共通ですが、社会との関係のない山中においては暦日は意味がありません。
社会との関係の途絶えた場所では暦日、日付の流れは存在しないのです。

土曜日、花見の帰りに立ち寄ったのはかつて出合小学校であった場所でした。
道路から一段高くなった小学校の校庭には、老木となった数本の桜が花をつけていました。

今日は3/27。
この出合小学校がまだ人間の社会の中で小学校という役割をはたしていた時分であればこの日付の数日前には、中学校へと進む児童の卒業式が行われたはずであり、数日が過ぎて 4月になれば、新入生を迎えていたはずですが、小学校という役割を終えた校舎と校庭にとっては、3/27という日付は何の意味も持ってはいません。

出合小学校校舎と桜

廃校となって何度も四季は巡り、桜は何度も花を咲かせたはずですが、その花を見上げる卒業生の 3月も、 散った花の花びらを踏んで通う新入生の 4月も、ここにはありません。ただ、春という季節があるばかりです。

花咲く桜の下の破れた窓と壁板に囲まれた校舎の中は、廃校となった日から積もった埃に覆われているでしょう。その埃の厚さは廃校となってからも時が流れ続けた証です。

ただ時は流れ続けても、最後の人が去った日から日付は流れを止めました。誰もいない校舎の中を探せば、埃に覆われた何処かの教室に、出合小学校の日付の流れが止まった最後の日付が書き込まれた黒板が残っているのではないでしょうか。

今日は私にとっては3/27。明日は3/28。明後日は3/29。
日付の流れの止まった出合小学校にとっては、今日も明日も明後日も、日付のない春の日が続きます。


七不思議  (2010.3.28[日])

自慢じゃありませんが私、珍しい動物を目敏く見つける才能があると思っています。

「自慢じゃないが」と言って本当に自慢じゃない話は聞いたことがありませんが、私の場合もそう。この才能は結構自慢です。
しかしこの自慢の才能を持つ私も一目を置く能力の持ち主が家内です。
ただし、家内の能力は 5cm以下の生き物限定で、大きな生き物には発揮されないようです。

写真に写った生き物も、家内の特殊(?)能力によってあっさりとその擬態を見破られた生物です。
体長は 2cm(ただし、突起部除く?)。

 「ねぇねぇ、こんな所にナナフシおるよ」

昨日出かけた花見の場所で発見されたナナフシ(子供)です。
桜の花蘂に隠れているところをいともあっさりと家内に見破られました。

ナナフシ隠れ家を教えられてその場所を見たものの、ナナフシを見つけ出すまでは数秒を要しました。流石、擬態の名人ナナフシです。
(写真の何処にナナフシがいるか分かりますか?  3匹写っています。)

この名人ナナフシが隠れていた花は地上1.8m程の所に咲いていたものなので、見上げると見やすい位置にあった点と、ナナフシ達が鳥の眼を避けるために花の下側に隠れていたので見上げる人間の眼にはかえって見易い所に隠れてしまったという点の二つを割り引いても、一瞬でこの擬態を見破るとは。家内の能力はやはり確かのようです。

ただ不思議なのは、この能力が小さな生き物、昆虫や蛙といった生き物に限られているということ。それより大きな生き物は見落とすことが多いのに。
ナナフシもなんだか不思議な生き物ですが、なんな小さな生き物にのみ鋭敏な家内の能力もなんだか不思議。

我が家の「ナナフシギ」の一つです。


花とイモと雪  (2010.3.27[土])

1.5m/秒

桜の花びらが舞い落ちる早さだそうです。
三月も末、次の週には四月になるという週末に花見に出かけてきました。
場所は、昨年イモリの「イモ」を放した水路のある場所です。

その場所は両側に山が迫った谷の中腹、川が削り取った狭い段丘のような場所に桜の木が数十本植えられていています。桜の木の数、数十本は桜の名所としては少なすぎる数でしょうけれど、眺めているのが私と家族だけですから、一人あたりとしてはずいぶん贅沢な花見です。

桜の花は満開を過ぎたところで、風が吹くたびに花びらが舞い降りてきます。
1.5m/秒の速さで。
去年「イモ」を放した水路を流れる水の上にも。
水路の水の底には何匹もイモリがいましたが、「イモ」もこの仲間達の一匹になって頭上を流れる花びらを眺めているのでしょうか。

春の雪昼を過ぎ、わずかに太陽が西に傾くと谷間は早々と日陰となり、冷たい風が谷の底から吹き上げてきました。

さっきまで、地面に向かって舞い降りていた桜の花が、谷底から吹き上げた風にのって空へと舞い上がり、風が止むと今度は空からゆっくりと舞い落ちてきました。
深々と降る雪のように。

1.5m/秒

空か雪が降る速さ、確かそれもこの速さだった。

谷に降る桜を眺めながら、雪の降らないこの地方で、雪の降らない季節に、故郷の雪を思い出しました。


うぶ毛  (2010.3.16[火])

仕事場の西に、梅畑があります。
植えられている梅は八本。
梅林と言うには本数が少なすぎます。やはり梅の畑が適当な呼び名でしょう。

近所に出かける用事がありました。
うぶ毛外に出ると、よく晴れて陽射しが暖かでした。
何か良いことがありそうな気がします。
こんな日にはバックの中に入ったカメラに出番があるかもしれません。

用事を済ませて帰ってきましたが行き帰りの道ではバックの中のカメラの出番はありませんでした。この点については予想と違いました。残念です。

カメラの出番は、仕事場まであと10mの距離でやって来ました。
梅畑の梅の枝に子供のほっぺた色に色づいた実を見つけたからです。

近づいてカメラを向けると、梅の実には日の光に輝くうぶ毛がいっぱい。ほっぺたと梅の実は色以外にも共通点があると、出番を得たカメラのファインダー越しに気付きました。


支配者(+ハンター)  (2010.3.13[土])

最高級のカメの子タワシを彷彿とさせる毛皮、
他を圧する堂々たる身体、
その身体を支える、太くたくましく短い足(座ると見えない)、
危険な捕食者を見逃さない鋭い眼(案外と)、
戦略を立てる緻密なレモン大の頭脳(解剖しないと見えない)、
鳥に尻を突かれてもしたいようにさせておく鷹揚さ、
草原の支配者
どこから見ても、どこをとっても、
彼は支配者となるべくして生まれてきたのだ。

 草原の支配者 = カピバラ

それが彼の名前。
彼の姿を初めて見たのは、10年前の舞鶴の秋の川原。
畑の隅に積まれた、サツマイモ(多分小さすぎて放置されたイモ)をこっそり運び去る野生(野良?)カピバラの姿でした。

あの秋の朝から、ずっと気になっていたカピバラが、近頃注目されています。動物園でもカピバラがいるところが少しずつ増えてきました。写真集も何冊も出版されるようになりました(私も買わせて頂いています)。
そしてどうしても実物を見たくなり片道 6時間の時間をかけて拝謁した支配者様の写真がこれです。

草原の支配者は、笹の上にドッカと座ってその葉っぱを食べていました。とってものんびりと。佳いお姿です。
ただ、出かけた先には雌雄一体ずつのカピバラ様しかいらっしゃらないことが残念。一族郎党を従えた、威風堂々としたカピバラ様のお姿を拝見出来たなら・・・。

草原の支配者
それはそうと、カピバラ様拝謁のために出かけた私でしたが、同じ施設内に水陸両用のハンター、かわうそ様(どこかで聞いたことのある名前)もいらっしゃいましたので、ついでにこちら様の写真も写させて頂きました。

「ついで」なんて失礼な物言いの私にも愛想よく笑顔を向けてくれた、度量の広いハンターかわうそさんでした。

草原の支配者、カピバラ様と水陸両用のハンターかわうそ様にお会い出来た興奮で、家までの帰り道 6時間の車の運転も苦にならずに済みました。
私は幸せです。


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