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 【甘棠の愛】 (かんとうのあい)
 人民がりっぱな為政者を心から慕うこと。出典『詩経 召南』

  蔽芾(へいひ)たる甘棠
  翦(き)る勿(なか)れ伐(き)る勿れ
  召伯のやどりし所

  蔽芾たる甘棠
  翦る勿れ敗る勿れ
  召伯の憩ひし所
    ・
    ・

 甘棠(かんとう)とは、ヤマナシ、あるいは小リンゴの類の木だそうです。
 周王朝創業期の名臣、召伯はその領地を巡視する際に、この木を見つけると
 その下に座って、そこで地域の住民の訴えや訴訟事を裁いたそうです。

 召伯の裁きは道理をそなえ、公平であるばかりでなく、訴えた人一人一人の
 気持ちまでくみ取るりっぱなものであったため、召伯がこうして領地を巡る
 内に、領内の風紀は高まり、人々の生活も安定したといいます。

 召伯が亡くなったあとも人々はその徳を慕い、甘棠の木を見れば召伯の善政
 を思い出して、懐かしみました。
 採り上げた詩は、その領地の人々がうたったものだといわれます。
 
 こんもりと茂った甘棠の木。
 枝が茂り過ぎ邪魔になるから、切り払ってしまおうか。
 いやいや、枝を剪らないでおくれ。幹を伐らないでおくれ。
 召伯様がやどられた思い出の木だから。
 召伯様が憩われた思い出の木だから。

 そんな内容の詩です。
 詩経の国風に記録された詩は、詩というより民謡。
 民謡に謡われ、長く記憶される程の領主がいたと言うことはその地の人々に
 とっては、幸せなことでなのでしょう。

 でも、裏を返せば、そんな為政者が現れるというのが、奇跡に近いほど希な
 ことだということでもあるのでしょう。
 今の政治は・・・何ていう気はさらさら無いのですが、甘棠の愛をうたった
 この詩が私は大好きです。

 梨や林檎の花の咲く時期になり、「甘棠」のことを思い出したので、大好き
 なこの話を書いてしまいました。


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