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【鉄中の錚々】(てっちゅうの そうそう)
 《故事》鉄の中では、よい音のするもの。凡人の中で、少しすぐれている者
 のたとえ。
 「錚」は、金属が打ち当たる音の形容。
 「卿所謂鉄中錚錚、傭中佼佼者也」
   →卿は所謂鉄中の錚錚、傭中の佼佼たる者也 『後漢書・劉盆子』
   《学研漢和大辞典 「鉄中錚錚」より》

 「錚(そう)」はよく鍛えた鉄がたてる涼やかな音のことだそうです。
 現在では、「錚々たる人物」といった使い方でこの「錚々」を使います。
 多くの人の中で特に優れた人物という意味ですね。

  F内閣の閣僚には錚々たる人物が名を連ねた

 等のように使われるあの「錚々」です。
 鉄中の錚々の故事は後漢の光武帝が赤眉の乱(せきびのらん)を平定した際
 に投降した賊軍の将達に投降を後悔しないかと問うた問答の中に現れる言葉
 で、「鉄中の錚錚、傭中(ようちゅう)の佼佼(こうこう)」と使われまし
 た。光武帝の問いに

  「赤眉の乱などに荷担しましたが、今振り返って考えてみると何と馬鹿
   なことをしてしまったのかと感じております。なんで投降したことを
   後悔致しましょうか」

 と答えた降将達に対して光武帝が下した評価がこの「鉄中の錚々」です。
 鉄は金や銀などに比べると下等な金属と考えられていましたが、そうした鉄
 の中にも、固くてよい音のするやや上等の部分もあるというのがこの言葉の
 意味です。

 目先のことにとらわれて乱に荷担したが、遅ればせながらもこうしてその非
 に気がついて投降してきた君たちは、気付かない者たちに比べれば、まだま
 しな方だという評価です。手放しの褒め言葉で無いことが分かります。
 下等なものの中ではややましな方ということですから。

  会議に参加した錚々たるメンバー

 「錚々」という言葉が「鉄中の錚々」から出た言葉だと考えると、こんな言
 葉をかけられたら、褒められたと喜んでよいのか馬鹿にされたと考えるべき
 なのか。ちょっと判断に迷ってしまいますね。

 さて、こうは書いてきましたが「下等な金属」とされてしまった鉄でも鍛え
 たものはやはり違います。鍛えられた鉄が奏でる音ということで思い出され
 るのは、明珍火箸の風鈴の音。明珍といえば甲冑作りの名手を多数輩出した
 家柄。甲冑を作った技術で鍛えた火箸が今は風鈴として、使われています。

 風に揺れてこすれ合う火箸のたてる澄んだ音を耳にすれば、「鉄中の錚々」
 もまたいいものだと思います。
 (明珍火本舗 → http://www.media-sd.co.jp/takumi/miyouchinn.html)

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