日刊☆こよみのページ スクラップブック
(PV , since 2008/7/8)
【鼠に引かれそう】
家の中にたった一人で、淋しい様子のたとえ。
《広辞苑・第五版》
家内の話の中に時たま「鼠(ねずみ)に引かれそうになる」という言葉が登
場します。
家内がこの言葉を使うのを聞くまでは、この言葉を耳にしたことは無かった
ように思います。ですから、最初に家内の話の中にこの言葉を聞いたときに
は何のことなのかピンときませんでした。
辞書にも載っているし、辞書の記述に使用される地域を限定するような内容
が見られないことなどを考えると、広く使われる言葉なのでしょうか。私が
知らなかっただけ?
言葉の中には抽象的ではっきりとしたイメージを結べない言葉があります。
その一方で、言葉を聞いた瞬間に具体的な情景が浮かぶ言葉もあります。
今日取り上げた、「鼠に引かれそう」は私にとっては後者に属する言葉です。
ただし思い浮かぶ具体的な情景は極めて漫画的。
人間が座ったままの座布団の隅を一匹の大きな鼠がくわえて壁の穴に向かっ
て引きずってゆくというのがその「具体的な情景」です。
座布団を引っ張る鼠は人間ほどもある鼠で、その姿は本物の鼠ではなく、漫
画やアニメーションに登場するような鼠。極めて漫画的です。
静かにしていると、鼠が出てきてこっそりといろいろなものを巣に引きずっ
ていってしまうことから、ひとりぼっちで家の中にいる(部屋にいる理由は
問わず。留守番でも、出不精だからでもかまわない)と、鼠が出てきて巣に
引きずっていかれてしまいそうになるという意味の言葉のようです。
「一人でいると鼠に引かれそうだから、遊びに来ない?」
一人でいることの寂しさや、心細さを直接言葉にするのは気恥ずかしいもの
ですが、鼠に引かれるなんてあり得ない光景を彷彿とさせるこんな言葉でな
ら抵抗無く使える気がします。
家の壁に鼠の巣穴など無く、鼠を身近に見ることもない環境は衛生的で望ま
しいものなのでしょう。鼠が家に巣を作るような望ましくない環境が無くな
ってゆくことはよいことでしょうけれど、一緒に「鼠に引かれそう」という
味のある表現が消えてしまうのは寂しい。
こんな言葉が鼠に引かれて、消えてしまわないことを祈ります。
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