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【鳴かず飛ばず】(なかず とばず)
 (史記楚世家「三年不蜚不鳴」による) 
 将来の活躍にそなえて何もしないでじっと機会を待っているさま。
 現在では、長いこと何も活躍しないでいることを軽蔑していうことが多い。
   《広辞苑・第五版》

 言葉の中には、その言葉だけでは何のことだか意味がわからないけれど、そ
 の言葉にまつわる故事を知れば、ああなるほどと了解出来るものがあります。
 この「鳴かず飛ばず」もまたそうした言葉の一つです。
 元は「三年不蜚不鳴」ですから、「三年蜚(と)ばず、鳴かず」となるべき
 でしょうが、現在はもっぱら「鳴かず飛ばず」と使っています。

◇荘王への謎かけ
 春秋五覇の一人にも数えられる楚の荘王は、即位直後に公族の謀反にあって
 拘束されたことがあります。幸いその謀反は首謀者が殺され、荘王も救いだ
 されて決着しましたが、助かった荘王はこの事件が有ってから、政務を顧み
 ず日夜遊興に耽るようになってしまいました。その間発した命令といえば、

  「王たる自分に、諫言などする者は全て誅殺してしまう」

 という訓令だけ。当時の君主は家臣の生殺与奪権を持った存在ですから、い
 くら無茶な命令だとはわかっていても、本当に実行されるかも知れないと考
 えると、王の所業を諫めるものはいませんでした。

 王が政務を顧みなくなると、直ぐに国が動かなくなるかというとそうでもあ
 りませんでした。年若い君主など遊びほうけていてくれた方が、よっぽど楽
 だという大臣や官僚たちも多く、これ幸いと自分たちに都合の良いように国
 を動かし始めました。こんな状態でもすぐには大きな問題は生じなかったで
 しょうが、長引くと国を私物化する者たちが現れ、政治は乱れ始めます。
 そして三年。伍挙(ごきょ)という家臣が遊興に耽る荘王の前に立って、

  「王に、一つ謎かけをいたしたいと思います。
   ここに一羽の鳥がいます。
   三年の間飛びもしません。鳴くこともありません。
   この鳥はいったい何という鳥でしょう?」

 と謎々をだしました。
 この謎かけの言葉が本日の「三年蜚ばず、鳴かず」です。この謎かけに

  「三年飛ばない鳥なら、ひとたび飛べばきっと天まで達するだろう。
   三年鳴かない鳥なら、ひとたび鳴けばみなが驚く声を出すだろう。
   お前のいいたいことはわかった。もうしばらく待て」

 と答えます。さらに王の遊興はしばらく続きますが、ついに死刑の訓令を恐
 れず蘇従(そしょう)という大夫が王に直諌するに至って、荘王は遊興をぴ
 たりと止め、親政を開始しました。親政の始めまず行ったことは三年の間に
 国政を私物化したような大臣官僚を一掃し、その間もしっかりした仕事を続
 けた人物を重用することでした。

 荘王にとって、三年の遊興の期間は若年の君主である自分が国を導いて行く
 上で害になる人物と有用な人物とを篩いにかけるためのテスト期間でした。
 荘王はこのテストに合格した家臣達を使って楚の国を強国に発展させました。
 荘王が重用した人物の中心に伍挙、蘇従がいたことはいうまでもありません。

◇本来の意味と、現在の意味
 この故事からすると、この言葉は辞書の説明の

 「将来の活躍にそなえて何もしないでじっと機会を待っているさま」
 が本来意の意味なのでしょうが、その説明の後に続く

 「現在では、長いこと何も活躍しないでいることを軽蔑していうことが多い」
 という使い方になってしまっているようです。
 ちょっと寂しいですね。

 なお「三年蜚ばず鳴かず」については、田斉の威王の逸話にも同様の話があ
 り、これは史記・滑稽列伝に登場します。

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