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【天高く馬肥ゆ】
 秋は空が澄み渡って高く晴れ、馬は肥えてたくましくなるという意で、秋の
 好時節をいう。
 同義語:「秋高く馬肥ゆ」
   《広辞苑・第五版》

 「天高く馬肥ゆる秋」とも言います。
 秋の高い空とさわやかな風を感じさせてくれそうな言葉です。
 現在では身の回りに馬がいるとおっしゃる方はかなり少ないと思いますので
 本当に馬が肥えて来るかどうか確かめるのは難しそうですが、秋に肥えるの
 は馬ばかりではありません。

 秋は実りのときでもありますから、野にも山にも畑にも美味しいものが沢山。
 動物は、餌の少ない冬を乗り越えるためにせっせと栄養を身体に取り込む時
 期ですから、秋は肥える季節で間違いなさそうです。

 こんな、「動物」だった頃の記憶が身体に刻みつけられているためか、人間
 もまた、「天高く人も肥ゆる秋」となりがちです。
 馬が肥える様子は確かめにくい昨今ですが、人が肥えるかどうかは、体重計
 の数値に如実に現れ、容易に確かめられます。
 ついつい、美味しくて・・・注意しましょう。

◇本来の意味は
 さてこの言葉、現在では上に見たように好時節を表す言葉になっていますが、
 その生まれたばかりの時代は今とはだいぶ違った意味の言葉でした。
 この言葉は中国生まれ。
 
  秋至れば馬肥え、弓勁(つよ)く、即(すなわ)ち塞(さい)に入る
   《漢書・匈奴伝》

 辺りが、その出典だと考えられます。中国の万里の長城以北に住む騎馬民族
 匈奴は、秋になると秋の収穫物を狙って長城を越えて中国領域に侵入し略奪
 をはたらくため、中国としては、秋は国境の警備を増強し、匈奴侵入に備え
 なければいけない季節でした。

 漢書に見られる言葉は、秋には夏草をたっぷり食べて匈奴の馬は肥え、力が
 みなぎっており、匈奴自身も体力が充実し、国境付近の村や町の略奪を始め
 る時だといっています。
 だからそれに対する備えをしっかりとしておかなければいけないという警句
 なのでした。

 「天高く馬肥ゆ」の肥える馬は自分たちの馬ではなく、敵の馬が肥えるとい
 う意味で使われていたのでした。

◇警句として
 今は秋だからといってすぐに攻め込んでくる敵はいませんが、美味しいもの
 攻撃(?)によって体重計の数値はじりじりと危険領域に向かう時期ではあ
 ります。

 この言葉、備える敵は変わりましたが、「警句」としては現在もなお有効な
 言葉のようです。

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