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【犬蓼】(いぬたで)
 タデ科の一年草。山野に普通で、高さ約30センチメートル。
 葉の基部の鞘状の托葉が茎を囲む。
 夏から秋、葉腋と茎頂に紫紅色の小花が穂をなす。
 アカマンマ。アカノマンマ。「犬蓼の花」は秋の季語。
  《広辞苑・第六版》

 秋、稲刈りの始まる頃に田んぼの畦などに普通に見かける植物です。
 そろそろ夏から秋へと季節が変わるこの時期には、紫紅色の花穂を出し始め
 ています。

 犬蓼といわれてもぴんとこないという方でも、別名のアカマンマ、アカノマ
 ンマで、「ああ、あれか!」と思い出されるのでは?
 アカマンマは「赤飯」のこと。

 その紫紅色の花穂のつぶつぶを赤い米粒に見立てた命名です。
 ままごと遊びの食卓ではめでたい赤飯の役割を果たすことの多い植物です。
 ままごと遊びでは赤飯の役割を果たすが、この植物とお米の関係はその見か
 けの類似性だけではありません。その経歴もお米と、そして人間との長い関
 わりを見いだすことが出来ます。

 犬蓼は、野草とはいいながら深山で見かけることはまずありません。どんな
 ところに暮らしているかというと、人里。田んぼの畦や、家と家の間の空き
 地、路傍の荒れ地などを好んでその住処としています。人間が住んでいる場
 所が大好きな植物なのです。

 犬蓼のルーツをたどると、そのご先祖は朝鮮半島、中国大陸へ行き着くそう
 です。昔々のその昔、犬蓼のご先祖様は人間とともに海を渡って日本にやっ
 てきた帰化植物だといわれています。

 人間とともにといっても、人間によって持ち込まれて来たというより、人間
 を利用して、海を渡ったというのが本当のところでしょう。
 今でもそうであるように、犬蓼のご先祖様も人里の環境に暮らすのが好きだ
 ったでしょうから、大陸から海を渡って日本にやってきた人や、作物の種子
 などに紛れ込んで、新天地日本にやってきたと考えられます。

 こんな冒険心旺盛な犬蓼ですが、付いた名前は「いぬたで」。この「犬」は
 役に立たないもの、価値のないものという意味を持つ言葉。犬蓼はつまり、
 「役に立たない蓼」という意味です。

 「蓼食う虫も好き好き」という言葉がありますが、これは蓼の仲間の葉っぱ
 は辛いので、そんな辛いものを好む虫もいるということで生まれた言葉です。

 「蓼食う虫も」と云っておきながら、そういう人間もこの辛味に目を付けて
 食材として使いました。この「辛い蓼」が役に立つ蓼。犬蓼は、辛くないの
 で役に立たないなんていう名前をちょうだいすることになったのです。
 犬蓼からすれば、失礼な話ですね。

 でも考えてみれば、そんな役立たずという名前を付けた人間を利用して、海
 を渡ってやってきた犬蓼の方が実は人間よりも一枚上手なのかもしれません。
 なんといわれようと、田んぼの脇で、大昔からなじみの稲と一緒に太陽の光
 を浴びる犬蓼には関係ないのでしょうけれど。

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