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【大臣】(だいじん)
1.政を執る高官。
2.太政官の上官、すなわち太政大臣・左大臣・右大臣・内大臣の称。
おとど。おおいもうちぎみ。おおまちぎみ。おおまえつぎみ。
3.国務大臣または各省大臣の称。
《広辞苑・第六版》
◇季子然と孔子の会話から
昔々、魯の国の季子(きし)という有力な貴族の一族の然(ぜん)という人
物が、孔子に尋ねました。
「我が家には、あなたの高弟である子路(しろ)と冉求(ぜんきゅう)の二
人が仕えていますが、あの二人は大臣の器といえるでしょうか?」
これに答えて孔子は、
「どんな御質問かと思えば、そんなことですか。
大臣とは、道に従って君主に仕え、道にあわないことがあればこれを諫め
聞き入れないとなればその職を去るというものです。子路や冉求はまだま
だその器ではありません。あの二人は具臣(ぐしん)に過ぎません」
季子然は重ねて問います、
「では、二人は主人の命令であれば、きっと従う家来でしょうか」
孔子の答えは、
「親を殺せとか、君主を殺してその地位を奪うために働けといった命令には
従わないだけの分別は供えています」
季子は、魯の国の君主の家から発した名門貴族で、孔子の生きた時代は、君
主を凌ぐ権勢を誇った一族でした。後段の問いと答えは、そうした季子の一
族と魯の君主の関係を踏まえたものです。
◇大臣と具臣
季子一族の野望はさておき、この会話に登場するのが大臣と具臣ということ
ばです。孔子によれば、大臣とは
道に従って君主に仕えるもの
なのだとか。ここで云う道というのは正道とか、道理といった意味ととらえ
られます。もし君主がその正道から外れたことを為そうとするのならこれを
諫めて、どうしてもそれが聞き入れられないのであればその職を辞するのが
大臣だともいっています。
これに対して、君主の命令に従って仕事をする、頭数をそろえるだけの家来
のことをは具臣というのだそうです。広辞苑はこの語の項目がありませんが
別の辞書によると
【具臣】(ぐしん)
特に有能ということなく、ただ員数に入っているだけの家来。
《学研漢和大字典》
とありました。
現在の日本にも沢山の大臣がいらっしゃいます。さらにその大臣連の多くが
いたのかどうなのかも分からない影の薄い方のため、顔も名前を思い出せな
いことが多くて困ります。
「顔も名前を思い出せないのは、お前の記憶力が悪いからだろう」といわれ
ると、確かに人の名前と顔をおぼえるのが苦手な私には言い返す言葉がない
のですが、そんな私以外にも、「今の○○大臣は」といわれてすぐに答えら
れない人は沢山いらっしゃると思いますが、如何?
道に従って務め、道を外れたことが行われようとすれば、職を賭してこれを
諫めるというような大臣なら、いくら記憶力の劣る私でも、ちょっとは名前
や顔を覚えると思うのですが。
「○○大臣」といっても、本当は大臣の器ではない方々ばかりなのであれば
大臣の顔と名前が浮かばなくても「大臣の器じゃないんだから大臣じゃない
の。思い出せなくてもいいの!」と強弁できるかな・・・。
◇とばっちり?
季子がなぜこの質問を始めたのか、おそらく最初から孔子が察していたから
でしょう、可愛そうに子路と冉求は「具臣に過ぎない」といわれてしまって
います。
話の流れからとはいえ、この点は可愛そう。
二人ともそれぞれに有能な人物です。
孔子が季子然を戒めるための会話のとばっちりで、具臣扱いされた二人のた
めに弁解だけはして、今日の話は終わりにします。
そんな弁解もしたくないような頭数をそろえるだけの「大臣」が一杯いるこ
とを思えば、二人はちっとも「恥ずかしく思う必要はありませんよ!」。
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