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【山吹】(やまぶき)
 「款冬」とも書く。
 1.バラ科の落葉低木。茎は緑色で根本から分かれる。
  春、鮮黄色の5弁花を開く。一重のものは山野に自生し、八重のものは庭
  園に栽植。茎の髄を山吹髄といい、玩具などに用いる。
  鏡草。漢名、棣棠。春の季語。万葉集17「鶯の来鳴く山吹」
 2.山吹色の略。
 3.(山吹色であるからいう)金貨。大判や小判。転じて、一般に金銭をいう。
   《広辞苑・第六版より抜粋》

 よく晴れた五月の連休の一日、街を歩いていたら通りかかった一軒の家の庭
 に、緑の葉の間からのぞく鮮やかな黄色の花を見つけました。鮮黄色の花の
 正体は八重咲きの山吹の花でした。

 山吹というと、枝にたわわに咲く花のイメージですが、山吹の花の時期とし
 ては五月は少々遅すぎたためでしょうか、見かけた花は、緑の葉の間から
 そっと覗いている感じ。
 その盛りのたわわについた山吹の花もよいですが、数少なくなった山吹の花
 もまた、ちがった風情があってよいものでした。

 山吹はバラ科ヤマブキ属の一属一種の植物だそうです。
 花は野生種の一重咲きのものと、園芸種の八重咲きのものとがあります。
 野生の山吹は沢筋の谷間などの湿った斜面を好みます。
 私が育った家から数百メートル離れた小川の土手にも、山吹の咲く場所があ
 りました。あそこで咲いていた山吹は、確か一重の花でした。

 山吹の花というと、太田道灌の故事を思い出します。
 鷹狩りの帰り、俄雨に遭った道灌が、近くの農家で蓑を借りようとしたとこ
 ろ、現れたその屋の娘が、蓑ではなく山吹の花一枝を差し出したという話で
 す。

 結局蓑は借りられず、雨に濡れて帰ることになった道灌は、腹を立てるわけ
 ですが、後にその娘が

  「七重八重花は咲けども山吹の実の一つだになきぞ悲しき」

 という古歌を引いて、貸してあげたくとも貧しさゆえに貸してあげる蓑一つ
 さえ無い悲しい思いを山吹の花一枝に託したことを知り、腹を立てた己の無
 学を恥じたという話です。

 この話は、随分昔、まだ太田道灌も、蓑というものがどんな物かも知らない
 子供の頃に母親が教えてくれたように思います。確か、雨降りで、外に遊び
 に行けない日に、話してくれた物語だったと思います。

 あまりによく出来すぎた話ですから、作られた話なのでしょうが、幼い頃に
 聞いた話は、そんな疑いを超えてはっきりとしたイメージを結びます。お陰
 で今でも山吹の花を見ると、春の雨と、雨の中に咲く山吹とが浮かびます。
 そして今日もまた山吹の花を目にして、春の雨を想像してしまいました。
 よく晴れた五月の一日でしたけれども。

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