こよみのぺーじ 日刊☆こよみのページ スクラップブック(PV , since 2008/7/8)
■北斗七星と南斗六星
 K.I さんからの御要望から

  昔の中国では北斗七星の「柄」に当たる部分が
  どの方向を向いているかによって、その季節を知ったらしいと
  書かれていましたが、南斗六星についても何か面白い話題がありましたら
  教えて頂けませんか?

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 北斗七星は、『旧正月は「寅の月」』などでも書いたとおり、暦とは関係の
 深い星座です。時を測る天然の時計の針のようなもの。

 「斗」は元々は酒を汲むための柄杓のような道具の呼び名。北斗七星の柄杓
 型の並びを思い出してもらえば、「北斗」の名が付いたのも頷けると思いま
 す。さて、北斗があればありそうなのが南斗(残念ながら、東斗・西斗はあ
 りません)。現在なじみのある星座で言えば、射手座の弓の部分に当たる星
 を南斗六星(なんとりくせい・なんとろくせい)と言います。

 古代中国の星座で言えば「斗」という星座。月の位置から季節の動きを読み
 取るために使われた二十八宿の一つ「斗宿」に当たります。
 面白い話・・・と思っていたら一つ思い浮かびました。三国志演義に登場す
 る、「卜占神のごとし」と呼ばれた占いの名手、管輅(かんろ)にまつわる
 話です。

 ある時、管輅が田仕事をしている若者に目をとめました。年齢を聞けば彼は
 十九歳。管輅はため息をつき、「かわいそうだが、君の寿命は間もなく尽き
 る」と言いました。
 言われた方はビックリ、どうにか命を永らえる方法は無いかと管輅に尋ねる
 としばらく思案した後、「あるとすれば・・・」と秘策を授けました。

  「明日南山の麓の大きな桑の木の下で、老人が二人碁を打っている。上
   等の酒一樽、鹿肉一塊を持って出かけ、ただ黙ってその酒と肉を二人
   に勧めなさい。くれぐれも口をきいてはならない」

 言われたとおりに出かけると、確かに夢中になって碁を打つ老人が二人。
 酒と肉をおくと、二人は何も言わず、その酒と肉に手を付けます。
 しばらくしてようやく若者に気づいた北の方の老人が、

  「そんなことをしても、おまえの寿命は決まっている。どうにもならん」

 という。南の老人は取りなすように、

  「そうは言っても、酒と肉に手を付けて何もしないわけには行くまい」

 といって、懐から一冊の帳簿を取り出しページをめくると、そこには若者の
 名前と十九歳という寿命が書き込まれていました。なるほど、これを延ばし
 て欲しいというわけだなと老人はつぶやくと、十九の前に「九」という文字
 を書き加え、九十九としました。
 そのあと、「管輅には、軽々しく天機を漏らすなと言っておけ」というと、
 老人は二人とも鶴に姿を変えて飛び去ってしまったと言います。

 帰って管輅にその顛末を語ると、

  「北側の老人は北斗七星の精で人の死を、
   南側の老人は南斗六星の精で人の生を司っている」

 と若者に教えてくれたと伝えられています。
 北斗は死を、南斗は生をという考えは、北は植物の枯れ尽きる冬を、南は生
 命を育む夏(太陽)を連想させるところからの対比でしょうか。

 また北斗も南斗もいずれも暦と関係があり、時を測るために使われた星座で
 すから、その点から人の寿命を計る神を考えついたのかも。そういえば星座
 の名の元となった「斗」は酒を汲む道具である一方、酒の量を量る道具でも
 あるあります。二重の意味でものを計(量)る星座といえますね。

 本日は、暦から大幅に脱線したこぼれ話でした。
 なお、紹介した話は三国志演義にある話。三国志演義は史実ではなく小説で
 すが、中国の民衆には広く親しまれたもの。この北斗と南斗の話が書かれた
 のは民衆の間に

  「北斗と南斗・死と生」

 という連想をする土壌があったから組み込まれた話だと思います。

  (『暦のこぼれ話』に取り上げて欲しい話があれば、
   magazine.sp@koyomi.vis.ne.jp までお願いします。)
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