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■記念日考 ・・・ その6 (お月様との関係)
 さて、続いてまいりました記念日考も、個別の問題はいよいよ最後です。
 今まで、

  1.日付(月日)に固定した記念日・・・旧暦でも新暦でも同じ日付
  2.旧暦の月日を新暦の月日に変換して、固定した記念日
  a.歴史的な暦日を重視し当時使用されていた西暦に変換した記念日
  b.季節との合致を重視し現在の西暦に変換した記念日

 について考えてきました。もともと異なった暦が使われていた当時に起こっ
 たこと、行われていたことを現在の暦の日付に反映させるわけですから、何
 を重視するかによって、「反映のさせ方」が違うのは仕方のないことです。
 本日は、最後として「お月様」との関係を考えてみましょう。

◇西行忌と満月
 ここではずっと引用してきた西行忌についてお月様との関係を考えてみます。

   願はくは花の下にて春死なむ そのきさらぎの望月の頃

 西行の命日は、文治六年二月十六日です。今までは、「二月十六日」という
 日付、「花の下にて春」という季節に重点を置いた記念日の話をしました。
 本日は、歌の後半「望月の頃」を考えてみます。

 西行の亡くなった時代の暦はいわゆる旧暦(当時は「宣明暦」という暦)で
 す。旧暦は太陰太陽暦ですから、その日付は月の満ち欠けと結びついていま
 した。「望月(満月)」といえば、「十五夜(十五日)」のことでした。

 ですから、「きさらぎ(二月)の望月(十五夜)の頃」に死にたいとした西
 行の命日が2/16であることから、ほぼ願い通りだったことが判るわけです。

 現在我々が用いている「新暦」は太陽暦で、直接月の満ち欠けと日付は関係
 しません。例えば今年の2/16(もちろん新暦の)の月はと言えば、翌々日が
 新月となるという細い細い月で、満月とはほど遠い状態です。


◇太陰太陽暦時代の記念日とお月様の関係
 旧暦時代からの年中行事の中には、「15日」に行われるものがあります。
 8/15の中秋の名月は別格として置くとして他を見れば、お盆(7/15)や小正月
 (1/15)の日付が15日に行われる行事の代表格でしょうか。

 地方の行事まで拡げると、この15日という日が祭りなどの日付とされること
 が多いのですが、15日と言えば、「十五夜」の日ですね。

 お盆につきものの行事としては、「盆踊り」があります。
 今でこそ、何時やっても暗ければ「電灯」を点しさえすれば明かりは問題に
 なりませんが、灯火の乏しかった昔は満月の光というのは、夜の明かりとし
 て私たちが今考えるより遙かに重要なものだったのです。

 小正月、お盆の行事の日付はおそらく、中国から「新月」を暦月の始まりと
 する暦が輸入される以前からあった、原始的な太陰暦では「満月」が暦月の
 始まりであったと考えられますから、これが元になっているのだと思います
 が、後世にはそうした意味は忘れられても天然の夜の灯火として月の効用が
 あったため、15日という日付で行われ続けることになったと考えます。

 もしこの考えが正しいとすると、原始的な太陰暦の月初めであった満月の日
 の意味が忘れ去られ、灯火としての効用も電灯に取って代わられたこうした
 行事の日付は今後どうなって行くのか、興味のあるところです。
 (現実に盆踊りを土日にあわせるなどという変化が始まっている地域もある
 ようです)


◇その他の行事と月の関係
 満月であると都合のよい行事の話をしましたが、中には満月であると都合の
 悪い行事もあります。例えば、七夕や夜間に行われる火祭りの類。

 七夕は星祭りの性格の強い行事ですから主役は織姫と彦星、そして二人を隔
 てる天の川。

 この七夕の日に「満月」だったら・・・主役が霞んでしまいますね。旧暦で
 の「 7日」は上弦の月の頃。明るすぎず暗すぎず主役の二人を引き立てて、
 深夜に二つの星が空の高みに登る頃には、「邪魔者は消えます」とばかりに
 沈んでいくという、気遣いの出来るお月様です。

 また、「夜の闇に浮かぶ灯火」が主役となるような各地の火祭りにも、満月
 は邪魔者ですから、祭りの日付が満月の時期を避けるようになっているもの
 が多いようです。

 この辺りの話は「結果としてそうなった」だけなのかもしれませんが、長く
 その日付に行われ続けた裏には、そうした月の効用もあったと考えます。

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 長くなるとは予想したものの、まさかここまでになるとは予想しなかった記
 念日考ですが、個々の事例に関してはひとまず本日で打ち止めです。
 お疲れ様でした。


  (『暦のこぼれ話』に取り上げて欲しい話があれば、
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