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■十干(じっかん)の話
 昔の記録などを見ると日付の箇所に

  三月甲子

 のように書かれていることがあります。また困った迷信ですが今も一部に信
 じている人がいる「丙午(ひのえうま)の年」なんて言うところに十干と十
 二支の組み合わせが見られます。

 十干と十二支を組み合わせた六十干支はその名の通り60通りありこれが順番
 に巡ってきます。六十干支の巡りは「不断」といって、途切れることなく続
 きますから、改暦・改元などで月日や暦年の並びが変化してしまうようなこ
 とがあっても影響を受けず、歴史の記載には便利な方法として使われます。

 十二支の方はまだ「生まれ年」として私は寅年生まれだといった使われ方を
 しますからいくらかなじみが有るのですが、十干の方はほとんど使われるこ
 とも無くなってしまいました。
 ですが、「暦」の話にはたびたび登場するものですから、およそどんなもの
 で有るかを知っておきましょう。


◇十干の誕生
 十干の誕生は中国の遙か昔、殷(いん)の時代まで遡るとされます。
 昔、人が数を数える必要が生まれてくると、数を数える道具として最初に使
 われたのは手の指。今でも「指折り数える」ように昔の人も指折り数えたの
 でしょう。十干が「十」なのは、この手の指の数に由来するわけです。

 この十を単位とした数え方を「浣(かん)」とか「澣(かん)」とか呼んだ
 そうで、十干の「干」はこの発音と同じ漢字を当てたものと考えられます。

 こうした数の数え方が一般化するとすぐに日付を数えることに用いられるよ
 うになります。一月はおよそ30日ですから、一月を上・中・下分けるとそれ
 ぞれがちょうど10日となりますので、この比較的短い期間を表すのに十干が
 便利だったのです。ちなみにこの10日の単位を暦では「旬」と呼びます。

  今月の下旬

 などとして現在も使いますね。


◇十干の文字とその意味
 十干のそれぞれの文字は、元々は植物の生育の状況を示したものだとされま
 す。順に書いて行くと、

 ・【甲】(こう)
  甲冑の甲から、種子がまだ暑く堅い皮をかぶっている状態。転じて物事の
  始まりを表す。
 ・【乙】(おつ)
  元は軋(きし)るの意味。草木の芽が幼く屈曲している様子を表している。

 ・【丙】(へい)
  もとはあきらかという意味を持ち、草木の成長が始まってその姿がはっき
  りしてきたという意味。
 ・【丁】(てい)
  壮丁(そうてい。壮年の男性の意)という言葉が今も残るように、草木が
  大きくなり、充実してきたという意味。

 ・【戊】(ぼ)
  茂るを表す文字。草木が盛大に繁茂している様子を表す。
 ・【己】(き)
  紀(すじ)の意味。草木が十分に繁茂し、条理が整う様子を表す。


 ・【庚】(こう)
  元は更(あらたまる)の意味。草木が成熟し成長は止まり、新たなものに
  変化しようとする様。
 ・【辛】(しん)
  元は新(あらた)の意味。草木が枯れ、新しくなろうとする様。

 ・【壬】(じん)
  元ははらむという意味。草木が種子となって新しい生命をその内にはらん
  だ様。
 ・【癸】(き)
  もとは測るという意味。種子の中で新たな生命が徐々に形作られ、再生ま
  での時を測れるほどとなっている様。


◇「えと」は本当は十干のこと
 十干は、
 甲(きのえ) ・乙(きのと)
 丙(ひのえ) ・丁(ひのと)
 戊(つちのえ)・己(つちのと)
 庚(かのえ) ・辛(かのと)
 壬(みずのえ)・癸(みずのと)

 とも読みます。読みの最後の一文字を見てください。「え」と「と」ですね。
 漢字で書けば「兄(え)」と「弟(と)」。前の言葉は五行説の木火土金水
 です。

 この「兄弟」で「えと」。
 本来、「えと」とは十二支ではなくて、十干の方だったのです。


 本日は、現在では影が薄くなってしまった十干にちょこっとスポットを当て
 て見ました。暦の話にはたびたび出てきますので、そんな話もあったな程度
 には覚えておいて頂けると、後々助かります。


  (『暦のこぼれ話』に取り上げて欲しい話があれば、
   magazine.sp@koyomi.vis.ne.jp までお願いします。)
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