日刊☆こよみのページ スクラップブック
(PV , since 2008/7/8)
■「夏至」、南半球では?
Web こよみのページには、暦と天文の雑学というコーナーが有ります。
内容はといえば、このこぼれ話の親分みたいなもの。
暦のこぼれ話も、時々はこの「親分」の内容を要約した記事を使うことも有
ります。逆にこぼれ話発で、暦と天文の雑学に取り入れる話もあるかもしれ
ません。どんなところかご覧になったことがないという方のためにURL を示
せば、
暦と天文の雑学 => http://koyomi8.com/reki_doc.htm
さて宣伝はこれくらいとして、この中に
「月の見え方・北半球と南半球」
http://koyomi8.com/reki_doc/doc_0210.htm
という記事を載せていて、その中で日本とオーストラリアでの月の見え方の
説明で次のような架空の比較記事を書いています。
『オーストラリア在住・Aの記述
もうすぐ夏至。冬が近付いている。
夕方、北の空を見ると上弦の月が見えた。日暮れから大分時間がたち、
すっかり暗くなった空に、左側半分だけの半月が浮かんでいた。
今頃、日本に居るBはどうしているだろうか。』
始まりはこの一文でした。
◇『もうすぐ夏至。冬が近付いている』?
前述の架空の比較記事でオーストラリア側の立場で書いた文章中に
「もうすぐ夏至。冬が近付いている」・・・オーストラリア編
と書いたところ、これは夏至ではなくて冬至の間違いではないかという質問
をいただきました。
この文章は、同日の日本での記事
「もうすぐ夏至。夏が近付いている」・・・日本編
と対をなすように書いたのでこうなりました。想定している日付としては6
月のある日です。日本側の記述に関しては「夏至」と「夏」の組み合わせな
ので特におかしなことはないのですが、 オーストラリア側の記述では「夏
至」と「冬」の組み合わせですから、「間違ってますよ」というご指摘も理
解出来ます。ですが、これは間違いではないのです。
◇冬なのに夏至とはこれ如何に
夏至は英語では、summer solstice といいます。
solsticeは、「至」、「極み」といった意味があります。summer solstice
ですから、夏の至、夏の極みということになるでしょうか。
冬なのに、夏の極みでは確かに変です。ですが、これは仕方がない。
昔々、東洋では「夏至」という言葉が生まれ、西洋では「summer solstice」
という言葉が生まれた頃には、地球が丸いなんて思っていた人はまだいなかっ
たことでしょう。そして、自分たちが作り出した夏至なり、summer solstice
という言葉が、将来自分たちは見たこともない「南半球」でも使われ続けるな
んてことは、それこそ夢にも思わないことだったはずです。
そして、南半球での使用など夢にも思わないままにこの言葉は使い続けられ、
天文学や暦学の上でも使われ、
・太陽の視黄経が90°となる日
・太陽の赤緯が一年で最大となる(+、北)となる日
のようなに再定義されてこれが定着しました。そして何事もなく何百年も過
ぎた頃、地球は丸くて、南にも半球が有ることが判ってしまいました。
そして人々はこの南半球にも住み着き(といいながら、これは北半球側から
の言い分。南半球に出かけてみたら、既に先住の人々を発見することになっ
たというのが正しいのでしょうが)ました。
さて、南半球に来てみると季節は北半球とは逆。自分たちが
「夏至は 6/22日あたりで、夏の初め」
と覚えていたものが、夏至の日付は変わらなくとも季節は逆で冬になってし
まった。
季節は逆になっても、夏至の天文学や暦学での定義自体は北半球でも南半球
でも矛盾無く、また学問的には正式な言葉として認められていますから、北
半球でも南半球でも6/22前後にやってくる至点は「夏至」「summer solstice」
として使い続けられました。
これは、現在使っている言葉が生まれた「場所」に依存した話ですので、南
半球の方々には申し訳ないですが冬の季節に迎える至点であっても我慢して
「夏至」と呼んでやってください。
◇ついでに
ついでなので二至二分について、和名・英名を並べてみると
冬至 winter solstice (冬の至り)
夏至 summer solstice (夏の至り)
春分 vernal equinox (春の昼夜等分)
秋分 autumnal equinox(秋の昼夜等分)
季節はもちろん北半球に合わせたもの。南半球では逆になります。
ただ、天文学や暦学の用語ではなくて日常に使う言葉としては冬に summer
solsticeではおかしいと思うでしょうから、winter solstice と言うような
使い方も、慣用的には有るようです。
この辺の事情について、南半球に住むお友達などお持ちの方は、一度尋ねて
みてください。そして判ったら教えて頂けると助かります(またこの話をす
るときに、使わせて頂こうという魂胆ですね)。
ではよろしく。
(『暦のこぼれ話』に取り上げて欲しい話があれば、
magazine.sp@koyomi.vis.ne.jp までお願いします。)
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