こよみのぺーじ 日刊☆こよみのページ スクラップブック(PV , since 2008/7/8)
■断食月の終わり
 世界にはいろいろな暦が有りましたが、現在はかなりの国々がグレゴリウス
 暦と呼ばれる太陽暦の一つを採用しており、この暦が事実上の「世界暦」に
 なっています。
 日本もまた然りで、明治 6年の改暦によってグレゴリウス暦に移行しました。
 (ホントは、グレゴリウス暦への移行は明治31年に出された勅令までは、ユ
 リウス暦と言ったほうが正しいのですが、ここは省略)

 このように事実上とは言え、世界各国の暦がこうした一つの暦に集約されつ
 つ有る中、異彩を放つ暦があります。それは一般にイスラム暦と呼ばれる、
 イスラム教徒の間で使われている暦です。

◇イスラム暦と旧暦
 正しくは「ヒジュラ遷都暦」と呼ぶべきなのでしょうが、イスラム教の宗教
 行事に使われる暦と言うことで、一般にはイスラム暦と呼ばれます。よって、
 ここではこの呼び名を使わせて頂きます。
 さて、この暦と我々が普段使っているいわゆる新暦(グレゴリウス暦)の大
 きな違いは、

  1.イスラム暦は純粋太陰暦である。
  2.一日の始まりが日没である。
  3.月の始まりは基本的には新月後の月の「初見」による。

 と言ったところでしょうか。ここで登場した「純粋太陰暦」という言葉です
 がちょっと耳慣れない言葉ですね。
 よく、新暦を太陽暦、それ以前に使われていたいわゆる旧暦を太陰暦と言う
 のを聞きますが、旧暦は太陰暦は太陰暦でも、「太陰太陽暦」と呼ばれる暦
 です。
 この旧暦とイスラム暦の共通点と相違点は、

  共通点:暦月の区切りは、月の満ち欠けによっている。
  相違点:暦年の基準が、季節の巡りの周期か否か。

 と言ったところでしょうか。共通点の部分が「太陰暦」の部分で、相違点が
 太陰太陽暦か、そうでない(純粋)太陰暦かと言うことです。

 共通点はわかりやすいと思いますので、ここは省略して相違点について分か
 りやすく言うと、一年の平均の日数が異なると言うことです。どれくらい違
 うかというと

  イスラム暦 1年 ≒ 354.3日
  旧暦    1年 ≒ 365.2日

 その差は1年で約11日です(イスラム暦の法が短い)。


◇イスラム暦の日付は季節とは無関係
 旧暦は基本的には太陰暦でも一年の長さという点では太陽暦的な要素を盛り
 込んでいて、暦上の月日が季節からあまり極端にずれないような工夫がなさ
 れていますが、イスラム暦では暦の日付と季節は切り離されています。
 つまり、「旧暦の八月は秋」ですが、「イスラム暦の八月の季節は・・・」
 いつになるか分かりません。

 計算によれば、本日の夕方にはイスラム暦の暦月が「ラマダーン」から「シ
 ャウワール」という月に変わる予定です。ラマダーンはイスラム教では断食
 の月とされていて、この一月は日の出から日没までの間は飲食をしてはなら
 ないとされています。断食の月はやはり辛いものでしょうから「ラマダーン
 明け」はお祭り。
 きっと、今日の夕方にはお祭りが出来ることでしょう(多分ですが)。

 今年の例でいえばこのラマダーンは「秋」に有ったのですが、イスラム暦の
 1年は季節の巡りである太陽暦の1年より11日も短いので、年毎にラマダー
 ンの季節は変化して行きます。 6年も経てばラマダーンは夏に、11年経てば
 春に・・・という具合です。


◇これから辛くなる断食の月
 ラマダーン(断食月)の間は、日出〜日没間の飲食が禁じられると書きまし
 たが、だとするとこれからの断食月は徐々に「つらいもの」になって行くは
 ずです。なぜなら、これからはこの断食月が夏の時期に巡ってくるようにな
 るからです。

 夏の時期は冬に比べて日出〜日没の時間が長く、尚かつ暑い。
 つまり長い間飲食を我慢しなければならなくなる上、暑いので喉は渇きやす
 い。辛いじゃありませんか。計算からいうと西暦2015年辺りのラマダーンは
 夏至の時期となって、とっても辛いことになります。


 これからはだんだん、辛い時期にラマダーンが巡ってくるようになりますが、
 まあそれはそれ、今日の夕方には無事に「ラマダーンあけ」となって思う存
 分食事を楽しむことが出来るといいですね。

 ※イスラム暦の暦月は新月後の月がその日の始まり(つまり日没)後に最初
  に見えた時に切り替わりますから、この夕方に月が見つからないと、ラマ
  ダーンあけは一日先に伸びてしまいます。そうならないことを祈ります。


  (『暦のこぼれ話』に取り上げて欲しい話があれば、
   magazine.sp@koyomi.vis.ne.jp までお願いします。)
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