こよみのぺーじ 日刊☆こよみのページ スクラップブック(PV , since 2008/7/8)
■暦が生まれるまで(その1)
 年末から正月の期間は暦の上での行事が目白押しでしたから、この暦のこぼ
 れ話も、行事解説的な話が続いてしまいました。そこで正月行事も一段落し
 た今、ちょっと違った暦の話をしてみたいと思います。

 何の話にしようかと考えた結果、暦が生まれるまでの話をしてみようと考え
 ました。何から話すか、どれくらい話すか、はっきり決めていないまま、行
 き当たりばったりの連載となりますので気長にお付き合い下さい(なにせ、
 「こぼれ話」ですから無計画な点はご容赦下さい)。


◇暦は誰が作ったんですか?
 こうした質問を時折受けます。現在の暦はとか、現在使われている暦法は誰
 が作ったのかとこの問いの解釈なら、答えは有るのですがより深く「暦」と
 言われるものを誰が作ったのかという問いだと考えると、答えは有りません。
 そうした記録が残される遙か以前から、暦は作られていたからです。

 世界各地の遺跡には、冬至や夏至、春分や秋分と言った暦を作る上では無く
 てはならない重要な日を示す仕組みが残っています。
 例えばイギリス南西部にある有名なストーンヘンジの石柱の並びには、春分
 (秋分)、夏至、冬至と言った特別な日の日の出の位置を示す石柱が有り、
 日の出の位置を見ることで夏至や冬至などの日を知ることが出来るようにな
 っています。

 ストーンヘンジは紀元前2500〜2000年頃に建造されたといわれますから、す
 でに4000年前の人々は或る程度実用に耐える暦を作り得るだけの知識を持っ
 ていたことがうかがえます。
 そしてそうした形跡は世界の各地に残っているのです。

◇もっとも素朴な暦、自然暦
 ストーンヘンジを建造した人々はおそらく一年の長さが 365日であるといっ
 た程度のことは知っていたはずですが、暦自体はそうした知識を持つように
 なる遙か以前からあったと考えられます。
 暦の起源とも言えるもっとも素朴な暦の形態はおそらく「自然暦」と呼ばれ
 るものだったでしょう。
 自然暦とは、

  初雪が降れば冬の始まり
  梅の花が咲けば春はもう間もなく

 と言うように身の回りの気象現象や動植物の変化そのものを暦として利用す
 るものです。そうした自然暦の一つとして、アイヌの暦があります。アイヌ
 の暦での月名には次のような意味があるそうです。

  日がそこから長くなる月
  鳥が出て鳴く月
  ひめいずいを取り始める月 (「ひめいずい」はユリ科の植物)
  ひめいずいを盛んに取る月
  ハマナスを取り始める月
  ハマナスを盛んに取る月
  木の葉の初めて落ちる月
  木の葉の盛んに落ちる月
  足の裏が冷たくなる月
  松明で魚をとる月
  弓が折れるほど狩りをする月
  海が凍る月

 月の数が12ですから、この暦も自然暦としてはかなり洗練された部類と言え
 るでしょう(更に古い形態だと、月の長さがまちまちだったりします)。
 このアイヌの暦は、詳しくは判らなくとも読めばそれぞれの月がおよそどの
 季節のものか位は見当がつきますね。
 アイヌの暦と似たような暦が日本全土に広くあったことは現在も残る和風月
 名の弥生や、葉月、霜月などの名前を見れば容易に想像が出来ることです。

 おそらく、我々の遠いご先祖様は、こうした素朴な暦で季節の巡りを数え、
 一年という概念を育てていったものと思われます。
 単純ではありますが、それだけに私たち一人一人と直接に結びついた暦とい
 う感じも受けます。

 とここまで書いたところで、大分長くなりましたので「暦の生まれるまで
 (その1)」はここまでとします。
 それではまたいつか書かれるだろう続編をお楽しみに


  (『暦のこぼれ話』に取り上げて欲しい話があれば、
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