日刊☆こよみのページ スクラップブック
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■昼夜等分の日とお彼岸
間もなく今年もお彼岸がやって来ます。
今年のお彼岸の期間は、3/17〜23。その真ん中、彼岸の中日が春分の日で、
今年は3/20がこの日にあたります。
さて、この彼岸の中日である春分の日は、「昼夜等分の日」ともいわれる事
があります。仏教の中道の精神の象徴として昼夜の長さが同じとなる日を彼
岸の真ん中に据えたわけです。
◇春分の日と昼夜等分の日
まあ、ここまでの話はよく聞く話です。では春分の日は本当に昼夜等分の日
かというとそうでもありません。
この日刊☆こよみのページの計算結果を見ると、東京付近では本日3/16がち
ょうど昼夜等分の日になっています。
今日の日の出と日の入りの時刻(東京付近)をみると
3/16
日出 5時50分 方位 91度
日没 17時50分 方位268度
となります。
東京以外では、数値が多少違ってきますが、日本国内ではおおよそ今日の前
後にこのような「昼夜等分」の日を迎えるはずです。ちょっと春分の日とは
違ってしまっていますね。現在の日出、日没の定義からすると、春分の日が
昼夜等分の日にならないのはしかたのない事なのです。
◇日出、日没の瞬間
現在の日出の定義は、太陽の上の縁(上辺)が地平線に接する瞬間とされて
います。日没はどうかというと、同じく太陽の上辺が地平線に接する瞬間で
す。太陽の見た目は星のような「点」ではなく、半径をもった円盤状に見え
ますから、この定義からすると他の星のような「点」に見える天体の出没に
比べると、
出るのは、「半径分早く」
沈むのは、「半径分遅く」
なる事になります。昼と夜の長さという点からすると、これは昼に有利な裁
定ではないですか! ちょっと夜が可愛そうですね。
また、夜に不利な条件はこれだけではなくて、地球に空気があったり、日の
出や日の入りを眺める人に身長があったりすることも不利な条件となります。
ここでは詳しく触れませんが、地球に空気がある事による大気差と呼ばれる
現象と、眺める人の目の高さによる眼高差と呼ばれる条件を計算に入れると、
ますます昼は長めに、夜は短めにその長さが計算されてしまうのです。
現在の日出、日没の定義はこうした夜の長さから見ると不利な条件が幾つも
あるため、こうした事を考慮しなければ春分の日になるはずの昼夜等分の日
が、春分の日より数日前に移動してしまうのです。
ちなみに今は春の話でしたが、秋の秋分の日の話とすると、昼夜等分の日は
秋分の日の数日後となります。
◇彼岸の中日が昼夜等分の日というのは嘘か?
さて、計算上は彼岸の中日である春分の日(秋分の日も)は昼夜等分の日と
は言えない事がわかりましたが、では彼岸の中日が昼夜等分の日というのは
嘘かといえば、そうとも言い切れません。
「計算上、昼夜等分にならない」理由を考えてみれば判るとおり、これは現
在の私たちが日出没の瞬間を計算するために作った定義のためだからです。
計算のために作った定義と、宗教上の観念的な定義が一致しないからと言っ
て、どっちかが間違いと言うわけではないのですから。
まあ、ここはそれぞれの考え方の違いだからしかたがないと、「大人の対応」
をしようじゃありませんか。
◇大人げない宝暦暦?
「大人の対応」を呼びかけたところで思い出すのは大人げない宝暦暦と寛政
暦。何が大人げないのかというと、この定義の違いによって起こる、いわば
人為的な差をさも重大な事のように扱って彼岸の日付を変えているのです。
改暦というと、明治の太陰太陽暦から太陽暦への大改暦だけが注目されるの
ですが、それ以前にも日本は何度か改暦が為されています。江戸時代だけで
も、貞享暦、宝暦暦、寛政暦、天保暦と 4つの暦が作られ、作られるたびに
改暦が為されたわけです。
さて本題に戻りましょう。宝暦暦には、
「彼岸は昼夜等分にして、天地の気ひとしき時なり。
前暦の注する所、これに違えり」
と書いてあって、これによって彼岸の日付を変更しました。
平たくいうと、
彼岸は昼夜等分の時だというのに、これまでの暦はそのとおりになってい
ないじゃないか。
と言っているわけです。そして、「昼夜等分」となるように彼岸の日付を変
更したわけです。このため宝暦暦・寛政暦では春の彼岸は春分の日より前に、
秋の彼岸は秋分の日より後ろにずらされています。
まあ、この大人げない宝暦暦の大人げなさの陰には能力以上の仕事を与えら
れた役人の悲哀があるのですが、この点はまたどこかで書く事にして、今は
宝暦暦・寛政暦の彼岸の日付に対する考えは、次の天保暦には引き継がれず、
宗教的な「昼夜等分」の概念と暦上の「昼夜等分の計算」とは切り離された
ことだけ述べておく事にします。
いつの時代も「大人の対応」が大切だということでしょうね?
(『暦のこぼれ話』に取り上げて欲しい話があれば、
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