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■九月の衣更え?
 日刊☆こよみのページの読者、はまこじきさんから次のメールを頂きました。

  お茶室では9月からは単を羽織ります。
  暦で7月、8月は絽や紗、9月は単と、茶室での着物は変わります。
  温暖化の影響で 9月に入れどもかなり暑いため、外ではおしゃれとして絽
  をお召しになる方もいるのですが、茶室ではそのあたりかなり厳格なので、
  汗をふきふき単に衣更えです。
   (中略)
  衣更えは9月からと決まったのか、いつから9月は秋になったのか・・・
  かわうそさんはご存知でしょうか。

 お話からするとこれは衣更えの行事と関係しそうですね。
 では、衣更えから考えてみましょう。


◇四月一日さんはワタヌキさん
 まず衣更えの歴史を見るとその最初は平安時代には既に宮中で行われていた
 「更衣」という行事がこれに当たります。
 更衣は衣更えといっても替えるのは衣だけでは無く家具調度までに及んだそ
 うですが、なかなか手がかかったことでしょう。

 さてその更衣の時期ですが、これは四月と十月の始めの日とされていました。
 年二回です。旧暦の四月と十月の始めの日はいつ頃かというと、今年2008年
 では、

  旧暦 四月一日 ・・・  5/ 5
  旧暦 十月一日 ・・・ 10/29

 となります。
 「四月一日」あるいは「四月朔日」などと書いて「ワタヌキ」という名字が
 存在しますがこれはこの日が衣更えの日で、着物の表と裏地との間に防寒の
 ために入れた「綿を抜く」ことからの連想で出来た読みであるとか。

 では十月一日は「ワタイレ」と読むのかというと、さてどうでしょう。少な
 くとも私はそういう例があるとは聞いたことがありません。なんだかバラン
 スが悪いですね。おっと、話しが横道に逸れてしまいました。
 衣更えの話しに戻りましょう。

◇九月の衣更え
 さて九月の衣更えですが、これは江戸時代に決められたものをそのまま使っ
 たもののように思われます。

 平安時代とは服装が替わり、木綿の使用が一般的になってきたことで衣服の
 バリエーションが増えたことなどから江戸幕府は衣更えの時期を次のように
 変更しました。

     〜 3/末日:綿入
   4/ 1〜 5/ 4 :袷(あわせ)
   5/ 5〜 8/末日:帷子(かたびら)
   9/ 1〜 9/ 9 :袷(あわせ)
   9/10〜    :綿入

 幕府の定めたこの衣更えはやがて民間(?)にも広がって一般化したようで
 す。はまこじきさんの御質問の始まり、 9月の衣更えはこの伝統を「九月の
 衣更え」としてそのまま新暦の 9月に持ち込んだものなのではないでしょう
 か。

 それはそうと、江戸時代の衣更えの期間でちょっと気になるのが 9/1〜 9/9
 の間がとっても短いこと。他と比べて短すぎる気がします。なぜ?
 謎のままです。

 謎と言えば、昔は一応「九月の衣更」がありましたからその「九月」をその
 まま新暦の九月に読み替えてしまえばおかしなこともないのですが、さて本
 当に現実の気候を無視「九月」にこだわる何かがあるのか。その辺がすっき
 りとしません。
 茶道に詳しい方、なにか手がかりになる情報があればお知らせ下さい。

 御質問を送って下さったはまこじきさんには、あまりすっきりした答えにな
 らず申し訳ありません。なにか新たな情報があれば再度考えてみたい話しで
 すので、「またいつか」続きを書くことになるかも知れません。それを気長
 にお待ち下さい。

  (『暦のこぼれ話』に取り上げて欲しい話があれば、
   magazine.sp@koyomi.vis.ne.jp までお願いします。)
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