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■躑躅と皐月(つつじ と さつき)
 5/12のこと、このメールマガジンの読者の方から

 > Subject: 質問です
 >
 > 5月の連休からいい天気が続いています。
 > 関東地方は昨日から少し雨が降りましたが。
 > 今の時期に盛りと言っていいと思いますが、
 > 皐と躑躅との違いを教えてください。
 > 花そのものの違いもそうですが、歴史的な背景はないのでしょうか?
 > よろしくお願いします。

 という質問のメールを頂きました。
 なんで、暦のメールマガジンに「ツツジとサツキ」の違いを尋ねてきたのだ
 ろうと、疑問には思いましたが、メールアドレスはあっていますし、タイト
 ルが「質問です」ですから、質問には間違いありません。

 まあ、皐月(サツキ)といえば暦月の名前でもありますから、暦の話とまっ
 たく無関係ではないので、調べてみることにしました。

◇サツキはツツジ
 サツキとツツジの花の区別がつくかと言われると

  「つきません」

 としか答えられない私は、サツキはツツジで、その園芸種を指すのかなくら
 いにしか思っていませんでした。
 まず「ちょっと調べてみるか」という場合、手軽に使える道具が国語辞書。
 早々にツツジとサツキを引いてみると

 【躑躅】(つつじ)
 1.ツツジ科ツツジ属(シャクナゲ類を除く)の常緑または落葉低木の通称。
  山地に多く自生、また観賞用として栽培。小枝を多く分岐し、枝・葉には
  細毛がある。春から夏にかけ、赤・白・紫・橙色などの大形の合弁花を単
  立または散形花序に開く。
  種類が多い。ヤマツツジ・レンゲツツジ・サツキなど。春の季語。
 2.襲(かさね)の色目。表は蘇芳(すおう)、裏は萌葱(もえぎ)。
  または、表は白、裏は紅。

 【皐月】(さつき)
 1.(「早月」とも書く) 陰暦5月の異称。早苗(さなえ)月。夏の季語。
 2.サツキツツジの略。
   《広辞苑・第五版》

 のように説明されていました。
 なるほど、サツキがツツジの仲間であるという点は正しかったけれど、栽培
 種はサツキだというわけではなさそう(野生のサツキも幾種類かあるそうで
 すので)。

 この二つの説明を読んで気が付いたことが一つ、それは季語の指す季節です。
 ツツジは春の季語、サツキは夏の季語とされていることです。もっとも夏の
 季語のサツキは、陰暦 5月を指した言葉としての季語なのですが手がかりに
 はなります。

 植物としてツツジとサツキを見ると、サツキはツツジの一種です。
 ツツジの種類は多く、花の時期はその種類によって違いがあり、

  三月頃・・・ミツバツツジ等
  四月頃・・・アカヤシオ等
  五月頃・・・ヤマツツジ、ミヤマキリシマ等
  六月頃・・・サツキ等

 のように咲いてゆくそうです。全体として早春から初夏にかけての花期を持
 つツツジ族ですが、その一派であるサツキ族はその最後の時期、六月(旧暦
 では五月頃)に咲く花だと言うことです。「五月」を意味する「サツキ」と
 云う言葉がこの花の名とされたのは、その咲く時期からでしょう。

 サツキは春の長日化で花芽分化をおこすそうで、他の多くのツツジが前年に
 花芽を形成して越冬し、春になって花を咲かせるのと異なっており、これが
 花期の違いとなっているようです。

 してみると、サツキはツツジの仲間で、遅い時期(旧暦の五月頃)に咲く花
 という意味でサツキと呼ばれるようになったのではないかと考えられます。

◇ツツジとサツキの区別の生まれた時期
 ツツジとサツキを区別した書籍の最初は、江戸時代に出版されたツツジ専門
 の園芸書、「錦繍枕(きんしゅうまくら)」だそうで、その出版年は元禄五
 年(1692年)。この本にはツツジとサツキに大別がなされ、それぞれに 173
 品種、 162品種が採り上げられているそうです。

 この本以前に出版された同種の本には、こうした区別がなされていないそう
 ですので、サツキをツツジと分けて意識するようになったのは、この頃だっ
 たのではないでしょうか。

 最初に区別された本が書かれた段階でサツキが 162品種もあったことから考
 えると、品種の改良自体はずっと前から始まっていたと考えられます。当初
 は区別されることはなく「ツツジ」として扱われていたのでしょうが、いつ
 しか品種が増えて、大勢力となり独立して一家を成す程になったので区別さ
 れるようになったのではないか、そんな風に想像します(想像の域を出ませ
 んがお許し下さい)。

 始めの区別は漠然とだったかも知れないのですが、こうした本が出版された
 ことによって、ツツジとサツキの区別の固定化が始まったと考えられます。

 ただし、こうした区別が生まれたといっても元は同じツツジの仲間同士で、
 花の形などには大きな違いがあるわけではないですから、山や街に咲く花を
 眺めて、

  あ、この花きれいだね

 と思うだけの私のような者には、見た目でツツジ・サツキの区別はつきませ
 ん。「六月頃に咲く花は多分サツキ」くらいに思って眺めるだけです。
 まあ、暦のページで採り上げる躑躅と皐月の話しなのでこのくらいでご勘弁
 願います。

 「いやいやツツジとサツキの違いは・・・」

 とその道に詳しい方読者の方がいらっしゃれば、私のような素人にもよく分
 かるツツジとサツキの見分け方をご教授下さい。
 教えて頂けたら、また日刊☆こよみのページで紹介致しますので。
 よろしくお願いします。

  (『暦のこぼれ話』に取り上げて欲しい話があれば、
   magazine.std@koyomi.vis.ne.jp までお願いします。)
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