日刊☆こよみのページ スクラップブック
(PV , since 2008/7/8)
■月食が教えてくれる大地の形
今夜は月食。今夜の月食についての情報は昨日の号で既に書いておりますの
で本日は月食にまつわる別の話を一つ。
本日の話はグッと古く、紀元前 6世紀の出来事です。
◇この世界は球
「この世界は空間に浮かんだ球である」
紀元前 6世紀のギリシャで、こう言って聴衆を驚かせた人物がいました。こ
の名はピタゴラス。
ピタゴラスは世界を旅しながら、数学の分野で優れた業績を残したギリシャ
の哲学者です。
「三角形の斜辺の二乗は、他の二辺の二乗の和に等しい」
というピタゴラスの定理でおなじみにあの方です。
「世界は宙に浮かぶ平らな円盤である」というのが当時の他の大多数の哲学
者の意見でしたが、ピタゴラスはこれに異を唱えたわけです。
◇月食は大地の影
ピタゴラスを始めとする当時の哲学者の幾人かは、月食が私たちの住む大地
(地球)の影であると既に考えていました。そうした目で月食の時の影の形
を観察したピタゴラスはこう考えました。
もし私たちの住む世界が円盤ならば、月に落ちるその影の形は私たちの世
界と月の位置関係によって、その形が大きく変わるはずだ。
と。お皿を真上から照らせばその影は円ですが、斜めから照らせば楕円形に
なり真横から照らせば、幅の狭い線になります。自分たちがそのさらの上に
載っていると考えると、月が真上に見えるときの月食の影は円形だが、斜め
に見えるときや、月が昇るときや沈むときの月食の影は楕円や直線にならな
いとおかしいはず。
ピタゴラスはこう考えました。そしてどの角度から照らされても影が円形に
見える形は何かと考え、「それは球である」と結論したのです。
◇天体は完全な形のはず
ピタゴラスは天文学者というより数学者です。そしてその数学者であるピタ
ゴラスは、
もっとも完璧な幾何学図形は円だが、もっとも完璧な立体は球である
と考えました。私たちの住むこの大地も、空に浮かぶ天体である月や太陽も
神が作ったもの。神が作ったものが完璧でないはずはない。それならその形
もきっと完璧なはず。
月も太陽も見かけは円であるが、球を遠くから眺めてもそれは円に見える。
これだけでは天体が円形なのか球形なのかの判別はできない。しかし月食を
観測し、月に落ちる我々の大地の影を観察すると、それは天体が球形でなけ
れば説明のつかないことから、
この世界は空間に浮かんだ球である
と結論したのでした。
今晩は梅雨の最中で、夜晴れてくれるか否か、天気の方は心配ですが、もし
上手く晴れてくれたなら、今日の部分月食を眺めて、「ああ、私たちの住む
世界は球形なんだな」と2500年前のピタゴラスの気分に浸って感じてみてく
ださい。
◇余計なことながら
「神が作った天体の形は完璧なはず」というピタゴラスや彼の後継者達の観
念論はやがてヨーロッパに広く普及し、それから2000年あまり後のルネッサ
ンス期の学者達を悩ませることになります。
いつかそうした話しを書くこともあるかな?
(『暦のこぼれ話』に取り上げて欲しい話があれば、
magazine.std@koyomi.vis.ne.jp までお願いします。)
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