日刊☆こよみのページ スクラップブック
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■理想の「ひと月」とは?・没日の話
さて、昨日に引き続き「理想のひと月」についての話です。
昨日の話で 1年を二十四節気を使って十二等分することで 1月の長さが均等
な「節切の月」を説明しました。
節切の月を使うことで閏月などない、 1年12ヶ月の暦を得ることが出来たの
でした(こうして作られた暦が「節切の暦」です)。
◇一月の日数
さて、節切の月は二十四節気の「節」で区切られます。
現在の二十四節気は黄道上の経度を等分に分けて、その区切りの点を太陽中
心が通過する日で区切る定気(ていき)と呼ばれる方式の二十四節気です。
この方式では、地球の軌道が円軌道でないため二十四節気の各節気の長さが
不均等になるという問題があります。
二十四節気をこの定気で計算するようになったのは日本では最後の太陰太陽
暦であった天保暦以降のことで、それより前の暦では一年の日数を24等分す
るという恒気(こうき)あるいは平気(へいき)と呼ばれる方式でした。
以下の説明は、ややこしさを無くすため古い方式である恒気方式で行うこと
にします。
さて、 1年の日数を365.2422日とするとこの日数を二十四等分した二十四節
気のひとつの気の長さ(これを気策といいます)は、
1気策の日数 = 365.2422 / 24 = 15.21843(日)
となります。節切の月はこの気策が 2つ合わさったものですから 30.43685
日です。さてこの節切の月を使って節切の暦を作ると 1月の日数はどうなる
か。
え、30.43685日じゃないの?
と思うかも知れませんが、考えてみれば「今年の五月の日数は30.43685日で
す」なんて言うことはありませんから、 1月の日数は30日あるいは31日の二
つの日数のいずれかになります。
折角均等な「ひと月」を作ったはずなのになんだかちょっと残念ですね。
◇理想の、あるいは机上の「ひと月」
人間は不思議なもので、初めは正確な季節の巡りを表すための暦作り、暦月
作りだったはずですが、いざ作ったものにこのような不均一な点が残ってし
まうと、これが気になって仕方がないという人が現れます(そうでない私の
ようなずぼらな人間の方が多いと思いますが)。
そんな気になる人達は
理想の「ひと月」は全部30日で、 1年はその12倍の 360日であるべきだ
と考えました。二十四節気もこの 360日を24等分するのですから気策の日数
もちょうど15日。とってもスッキリ。
とはいえ、人間が幾ら机上でそんなことを考えても太陽が 360日で天球を一
回りしてくれるはずはありません。仕方がないので、1年360日を実現するた
めに、暦の上では「日数に数えない日」を設けることにしました。この日数
に数えられない日を
没日(「もつにち」あるいは、「もちび」)
と云います。
◇没日はどうやって決める?
実際にはどうするのかというと、実際の気策の長さ、15.21843日の長さが理
想(?)の気策、15日となるように端数を各日に割り振ります。割り振られ
る長さは 1日ごと0.014562日。この端数を毎日足し合わせて行くと、どこか
でその合計が 1.000を超える日があるはずです。
月日数の均等な理想の暦、あるいは机上の暦を考えた人はこの端数合計が 1
を超える日(実際の 1日のこと)を暦の上では日に数えない日、没日とする
ことで、1月が30日、1年はこの月が12回の 360日となる暦を手に入れたので
す。ちなみにこうして計算される没日は実際の日数で68〜69日毎に暦の上に
現れることになります。
◇「机上の暦」はどうなった?
さてこうして理想の暦、というよりは「理想を追い求めすぎた机上の暦」は
何に使われたのか?
既に書いたとおり、幾ら人間が「理想的」といったところでこの暦は実際の
季節の巡り、太陽の動きなどを正確に表すという目的には益するところがあ
りませんので、農業のような自然と向き合う用途には使われませんでした。
結局、使われたのは人間の都合でどうとでもなる観念の世界、占いの世界で
した。この机上の暦であれば、 1月30日分の占いを12の月に上手く割り振る
方式さえ作ってしまえば、ある年のある月が30日だったり31日だったという
イレギュラーな問題は発生しないので、とっても便利。
しかし・・・、あまり規則性を追い求めたこの理想的な暦、机上の暦は規則
性を追い求めすぎて現実から遊離してしまい、実用性を失ってしまいました。
そのためでしょうか、昨年ベストセラーとなった「天地明察」で有名になっ
た渋川春海は、貞享暦にはこの「没日」を採用しませんでした。
「没日」自体が「没」になってしまった。
そしてそれ以後日本の暦はこの貞享暦に倣って「没日」の制度は採用されて
おりません。「没日」は理想を追い求めすぎて、机上の空論になりかけた時
代の暦の産物でした。
ああ、こんな面倒なものが今はなくて、本当によかった・・・。
(『暦のこぼれ話』に取り上げて欲しい話があれば、
magazine.std@koyomi.vis.ne.jp までお願いします。)
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