日刊☆こよみのページ スクラップブック
(PV , since 2008/7/8)
■初めての月、「朏」
今日は旧暦の三日。今日の夕方はきっと西の空に細い三日月の姿が見えるこ
とでしょう。本日はこの三日月に関係する暦の話です。
「明治 5年まで日本で使われてきた、太陰太陽暦では朔(新月)の日が、暦
月の始まりの日となります。現在、旧暦と呼ばれている暦も同様です。」
と、こよみのページではいろいろなところで登場する解説文です。
この日刊☆こよみのページの読者の皆さんには、何を今さらという解説文で
すね。さて、この暦好き(←世間一般からすれば変わった人種でしょうね)
には当たり前の説明ですが、考えてみると不思議な話です。
なにがって、新月の日から暦月が始まるといいますが、新月ってそもそも見
えないじゃありませんか。昔の人たちはどうやって新月の日を知ったのでし
ょうか?
◇新月以後の月の初見
新月の状態では月は太陽とほぼ同じ方向にあって、見えません。例外がある
とすれば、それは日食が起こる場合ですが、これはそうそう起こりませんの
で新月は見えないのが普通。
ではいつ頃から見え始めるかというと、これは新月の瞬間から1〜2日後で、
そのときの月は二日月ないしは三日月。二日月もかなりの好条件がそろわな
いとなかなか見えませんから、大体は三日月が新月後の月の初見ということ
になります。
がんばればもっと早く見つかるのではという方もいらっしゃるでしょうから
月の初見は新月後どれくらいから可能かという話を紹介しておきましょう。
こうした研究が盛んなイスラム圏では新月後、どれくらいの時間が経過すれ
ば、月が見えるかと云った実測による検証がなされていて、その結果は、最
短で15時間ほどであるとか。
(もちろん望遠鏡など使えばこれより早く月を見つけることは出来るのです
が、今回のところは「肉眼で見える」という限定つきの話なので、その点
はご了承願います。)
15時間ということは、
(24-15)/24 ≒ 38%
の割合、大体 3回に 1回は新月当日でも新月後最初の月を見ることが出来る
んじゃないかなと云う気もしますが、見やすい場所で必死に探した場合の数
字ですし、日没後で月が地平線にある時間帯になければいけないと考えると
現実には日没後の40分くらいの時間しかありませんので、大きく見積もって
(40/60)/24 ≒ 3%
と小さいので、どうやら朔の当日に月を見るというのは至難の業であること
が分かります。
やはり、「朔の日の1〜2日後」が月の新月以後の初見の日というのが妥当な
説明となりそうです。
◇旧暦時代の暦月の始まりはどうやって決まった?
日本で使われた旧暦時代の暦、つまり太陰太陽暦の暦月の始まりの日は、月
の実見によって決定されていたわけではありません。計算で求められていた
ものです。
とはいえ、最初から計算で求められたはずはないので、暦が作られはじめた
極く極く初期の時代には、何らかの方法でこの月の見えない日である朔の日
がいつかを推定するための観測が行われていたはずです。
どうやっていたか。「日食の日」は例外として、考えると明け方の空に細い
月が最後に見えた日から、新月を過ぎて次に月が夕方の空に再び細いその姿
を見せるまでの日数を数えて、その日数の半分の日数を月が最初に見えた日
から、日を遡って新月だった日を推定していたと考えられます。
日を遡って新月の日を求めるたので、「遡」には「朔」の文字が入っている
のですね。
こうした暦の黎明期の観測結果が積み重なって、やがて朔の日付を計算だけ
で求める方法が確立していったと考えられます。
◇大昔は、暦月の始まりは月の初見の日から?
こう考えると、それがいつだったかも定かでない大昔に遡るとまだ朔の日が
推定できなかったほど原始的な太陰暦の時代の暦月の始まりは月の初見の日
であったのではと考えられます。
既に書きましたが、新月後の月の初見の日というと大体三日月の日でした。
ですから、三日月は暦の上では重要な特別の月であったのです。
そのため、これ専用の文字まであるのです。その文字が『朏』です。
この文字を見ていきなり読めた人はどれだけいたでしょうか。自慢じゃあり
ませんが、私だってこんな「こよみのページ」なんてやっていなかったら絶
対に読めない文字ですね。
朏 ・・・ 【音】ヒ、ハイ 【訓】みかづき
と書かれてみると、なるほど。
漢字は意味を表す文字だなと膝を打ってしまいますね。
月+出 = 朏
新月以降初めて見えるのが陰暦の三日目の月、つまり「みかづき」という意
味です。
今では計算で新月の日も、それから二日の後三日月の日も分かってしまいま
すが、そうしたことが出来なかった大昔のご先祖様たちは、この『朏』を見
て、暦月の始まりを知ったのですね。
今日は三日月の日ということで、三日月と暦との関わりについての暦のこぼ
れ話でした。
(『暦のこぼれ話』に取り上げて欲しい話があれば、
magazine.std@koyomi.vis.ne.jp までお願いします。)
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