こよみのぺーじ 日刊☆こよみのページ スクラップブック(PV , since 2008/7/8)
■初冬の虹
 そろそろ北国からは初雪や初氷の知らせが届く頃となりました。これからは
 その知らせの場所が少しずつ南下して行き、日本列島が冬という季節に覆わ
 れることになるのでしょう。
 寒さは苦手な私ですが、寒さも季節の変化の一つ。寒さとも何とか折り合い
 つけて、季節の変化を楽しみたいと思います。

 さて、寒くなり雨が雪に変わって行く頃になると姿を消してしまうものがあ
 ります。本日は冬には姿を消してしまうものの一つ、虹についての話題を採
 り上げてみたいと思います。

◇七十二候「虹蔵不見」
 今日の暦にある七十二候の言葉を見ると「虹隠れて見えず」とあります。初
 冬の虹という話題として、まずはこの七十二候の言葉から始めてみることに
 いたしましょう。

 「虹隠れて見えず」は中国から伝来した時の書き方では「虹蔵不見」。
 これを「虹蔵(かくれ)て見えず」と読みます。このままではやや読みにく
 いのでこよみのページではこれを「虹隠れて見えず」と書き表しています。

 さて、初冬のこの時期になぜ「虹隠れて見えず」とあるかと云うことですが
 それは虹と雨は切っても切れない関係にあるからです。この記事の冒頭でも
 書いたとおり冬になると雨は雪へと姿を変えてしまいますから、虹もその姿
 を隠してしまうと云うことです。

 虹は、「虫偏」の文字であることからもわかるとおり、古代中国では生き物
 の一つ、竜の一種と考えられました。竜は水を操る神獣と考えられていまし
 たから、その一種である虹にも水を操る力があると考えられました。
 虹の力を及ぼす水、それは雨。

 現代の私たちは、冬になって雨が降らなくなると虹が出ないと考えますが、
 古代の人たちは、冬は雨を呼ぶ竜、虹が姿を隠す時期だから雨が降らないと
 現代の私たちとは違った見方で虹と雨の関係を捉えていたようです。

◇時雨虹(しぐれ にじ)
 冬は雨が降らない季節とは書きましたが、初冬の日本ではまだまだ雨が降り
 ます。この辺は七十二候や二十四節気が発明された中国の内陸部より日本の
 気温が高いという気象条件の違いのためです。

 初冬の日本に降る雨というと、思い出される言葉に「時雨(しぐれ)」があ
 ります。時雨は短時間にサッと降って雨が上がり、雨が上がったと思ったら
 またサッと降り出す、そんな雨のです。

 虹は、雨がなければその姿を現しませんが、かといって雨だけがあれば姿を
 現すというものではありません。虹が姿を現すためには雨と太陽の光が必要
 だからです。雨と太陽の光という組み合わせが必要な虹にとっては、この降
 っては晴れ、晴れては降る時雨は、雨も太陽の光の両方が揃う姿を現すのに
 絶好の天気です。

 時雨雲が雨を降らせ、やがて頭上を去って代わりに青空が顔を覗かせると、
 頭上を去っていった雨に青空から覗いた太陽の光が当たって虹が生まれるこ
 とがよくあります。こうした虹が「時雨虹」です。

 虹は太陽の光が斜めから差し込むほど、空の高いところまで広がった大きな
 姿となります。初冬の太陽は、夏と違って日中でも地平線からあまり高いと
 ころに昇りませんから、この時期に現れる時雨虹は大概がとても大きな見事
 な虹となります。

 冬の本番となれば完全に姿を消してしまう虹ですが、姿を隠す前には別れの
 挨拶でもするかのように、見事な時雨虹となって初冬の空を飾ります。

 冬には姿を消してしまう虹ですが初冬のこの時期、時雨が止んで太陽が顔を
 覗かせたら、太陽の反対の方角に姿を隠す前の虹の大きな姿を探してみてく
 ださい。

  (『暦のこぼれ話』に取り上げて欲しい話があれば、
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