こよみのぺーじ 日刊☆こよみのページ スクラップブック(PV , since 2008/7/8)
■木枯らしの行方
  凩の果てはありけり海の音   池西言水
  海に出て木枯帰るところなし  山口誓子

 十一月の末あたりから吹き始めた木枯らし。
 強い北風が吹く度に街路樹の葉はその数を減らし、十二月も終わりに近づい
 た現在では、街路樹はあらかた裸にされてしまっています。
 「木枯らし」の名のとおりのはたらきですね。

 日本列島の南側は海。
 初冬に北から冷たく乾燥した空気を運んできた木枯らしも、「木を枯らす」
 というその名の示す役割を十分に果たし終えて、言水や誓子が詠んだ句のと
 うり、今頃は南の海に出てしまっていることでしょう。

 日本の南の海には暖流の黒潮が流れ、そこから先には水温の高い海がずっと
 広がっています。冷たく乾燥した北風、木枯らしもこの暖かい海の上で一息
 ついて、暖まり、水分をたっぷり補給していることでしょう。

 誓子には「海に出て木枯帰るところなし」と詠まれてしまった木枯らしです
 が、帰ってこないわけではありません。南の海での休暇を楽しんだ後にはち
 ゃんと帰って来るのです。ただし帰るとききには「春一番」と名を変えて。

 冬を運び、木々の葉をさらっていった「木枯らし」が、春を運び木々の葉の
 芽吹きをうながす風となって帰ってくる。当たり前の四季の循環ですが、あ
 らためて考えてみると、何とも巧くできているものだなと感心してしまいま
 す。

 今年も残すところあと 6日。
 壁に掛けられたカレンダーを間もなく取り替える頃となりました。
 まだまだ冷たい北風が止んだわけでは無くて、寒さに震える日々が続きます
 が、新しく壁に掛けたカレンダーで、春風となって帰ってくるだろう木枯ら
 しの帰還の日はいつかななんて、海に出た木枯らしになったつもりで、その
 行方をたどって見ると、寒さもいくらかは和らぐ気がしませんか?


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