日刊☆こよみのページ スクラップブック
(PV , since 2008/7/8)
■ひっつきむし
「温暖化」といわれる昨今ですが、さすがに十一月も後半に入れば、冬枯れ
の野が目立ち初め、初冬と呼ぶにふさわしい風景が広がり始めています。
冬枯れの野は、寒々とした風景の代名詞ともなりそうですけれど、小春日に
冬枯れの野原を歩いたことのある方になら、意外なほど寒々とした風景のは
ずの、枯野の中は暖かいものです。
さて、小春日に暖かな枯野を歩きまわると、気づかないうちに、沢山のお供
が出来てしまっていることがあります。「ひっつきむし」はそうした、いつ
の間にか出来てしまったお供の代表格でしょう。
◇「ひっつきむし」って虫のこと?
ひっつきむしを虫と誤解する方がいらっしゃる(いないかな?)といけない
ので、ちょっと説明させていただきます。
ひっつきむしといっても、虫ではありません。
植物の種子、あるいは果実で、いろいろな方法で私たちの衣服や皮膚にひっ
つき、あるいは引っかかってくっついてくるものの俗称です。
「くっつきむし」なんていうこともあるようです。
動くことの出来ない植物が、遠くまでその種子を運ぶための一方式として、
生み出したもの。動けないなら動ける生き物、動物にくっついていって運ん
でもらおうという戦略です。
最初に「お供」なんて書きましたが、お供じゃなくて本当は、乗客だったよ
うです。もっとも、乗客といっても無賃乗車のですけれど。
ひっつきむしの「ひっつき方」は、大体二つ。
ネバネバした粘着物質をまとってくっつく方式と、かぎ爪のような小さなと
げをたくさんつけて、動物の毛や衣服にそれを引っかける方式です。
ネバネバ方式の方はとった後もしばらく、「ちょっとネバネバ」が残ってし
まうのでやっかいですが、かぎ爪方式の方は、なかなか可愛い。もちろん、
お供としてくっついてきたひっつきむしの数にもよりますけれど。
◇ひっつきむしは、宇宙に羽ばたく?
かぎ爪方式のひっつきむしの代表格はオナモミとゴボウ。
オナモミはキク科の一年草。秋から初冬の野原ではよく見かける植物です。
オナモミほどではないのですが、ゴボウのほうもたまに見かけます。
こっちは、どうやらどこかの畑から逃げ出してきた野生のというより野良の
ゴボウのようですが。
オナモミも、ゴボウもその種子には、いっぱいトゲがあり、その先がちょっ
とまがっていてかぎ爪のようになっています。このかぎ爪を使ってオナモミ
たちは衣服に上手に「ひっつく」のです。
でもひっついたきりになってしまっては、芽を出すための地面にたどり着け
ません。ひっつくけど離れることも出来ないと困ります。
このひっつきむしの「ひっつくけど離れることも出来る」仕組みは、思わぬ
ところで私たちの生活の中で利用されています。
マジックテープ (面ファスナー)
がそれです。マジックテープは商標から生まれた俗称のようで正しくは「面
ファスナー」というそうです。面ファスナーはスイスのジョルジュ・デ・メ
ストラルが山歩きの後で衣服に付いてきた野生のゴボウの種子をみて、その
形状を研究して発明したものだそうです。
現在では、衣類に、バックに、留め具にと、いろいろなところで使われてい
ます。面ファスナーはNASAのアポロ計画でも利用され、無重力の宇宙船内で
ものを止める(そしてはずす)ための道具として活躍したそうです。
野原から帰ってきたときにひっついてきたお供の種子達(から生まれた仕組
み)は動物(私たち人間)にひっついて、宇宙にまで羽ばたいたというわけ
です。
ひっつきむしの戦略、恐るべし。
◇今日もよい天気・・・
宇宙まで羽ばたいたひっつきむしですが、今も野原に行けば、現役のひっつ
きむしに出会えます。
子供の頃から現在に至るまで、冬枯れの野をみるとワクワクしてしまう私。
枯野を歩いては、沢山のひっつきむしをお供にして帰ることもしばしば。
今日は土曜日。お仕事は休みですし、窓の外はいい天気。
こんな小春日に、いつまでも部屋に籠もって日刊☆こよみのページでもない
ものです。
さっさとこの号を発行して、現役のひっつきむしをお供にしてこようと思っ
ています。
皆さんも、宇宙に続く秋の青空の下、ひっつきむし探索の旅(散歩)に出て
みてはいかがでしょうか?
以上、暦のこぼれ話ならぬ、初冬の風物こぼれ話でした。
(『暦のこぼれ話』に取り上げて欲しい話があれば、
magazine.std@koyomi.vis.ne.jp までお願いします。)
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