こよみのぺーじ 日刊☆こよみのページ スクラップブック(PV , since 2008/7/8)
■菖蒲(ショウブ)の節供
 今日は五月五日、端午の節供です。
 節供には、その節供と深く結びついた植物があります。
 人日の節供には春の七草(七種)、上巳の節供には桃(あるいは菜の花)、
 七夕の節供なら笹(竹)、重陽の節供には菊という具合です。

 端午の節供にも同様に、この節供と強く結びついた植物があります。
 その植物が菖蒲。
 ここから、端午の節供は「菖蒲の節供」とも呼ばれます。

◇菖蒲の芳香と邪気祓い
 邪気は清浄なものや芳しい香りなどを嫌い、こうしたものがある場所には近
 づけないと考えられていました。
 節供とは、一年の節目節目で日常生活の間に引き寄せてしまった悪い気を祓
 う行事ですから、その行事には邪気を祓う効果のある花や草が欠かせません。
 こうして、その節供の時期に手に入る、芳香を放つ植物と結びついて行きま
 した。

 五月(注意:節供の成り立ちを考えていますから、この五月は昔の暦での五
 月ですから、季節で考えると後一月程遅い時期となります)の頃に水辺に生
 え、その葉や根に芳香を持つ菖蒲が、五月の節供と結びついたのも自然の成
 り行きと云えそうです。

◇節供と禊ぎ
 節供は邪気を祓う行事であるため、邪気を祓うための「禊ぎ」が行事の中に
 何らかの形で取り入れられている場合が多いです。禊ぎといえば水が欠かせ
 ませんから、水辺で行われていました。

 禊ぎを行うときに、邪気を祓うための道具の一つである香草を調達する必要
 がありますが、こんな時にその道具が禊ぎの場、あるいはその近くで調達で
 きたら便利ですよね(横着な考えといわないで・・・)。そう考えると、数
 ある香草の中から菖蒲が選ばれた理由もうなずけます。
 だって、菖蒲は水辺に生える植物ですから。

 禊ぎの場に行けば、禊ぎに使う香草が沢山生えている。
 なんと有り難いことではないですか。

 きっと、その始まりにはこうして川や湖などの水辺に出かけて行われていた
 だろう禊ぎ行事ですが、やがてこれをもっと手軽に行えるようにと形を変え
 たものが現在の菖蒲湯ですね。

 現在でも端午の節供にはお風呂に菖蒲の束を浮かべた菖蒲湯に入って身を清
 めるということが広く行われています。正に水辺で行われていたであろう禊
 ぎそのものじゃありませんか。多少、簡便化されているとはいえ、案外に古
 い行事がそのままに生き残っているものですね。

◇間違えていませんか、「菖蒲」のこと
 菖蒲は葉や根に芳香が有ることから、昔から邪気や物の怪をはらう力が有る
 と考えられていました。現在の端午の節供は、気持ちよい青空が広がる季節
 ですが、旧暦の時代だと日本は梅雨の真っ最中。じめじめした不快な日が続
 き病気も増えたのかもしれません。そのためそういった悪い気をはらうもの
 として菖蒲や蓬が使われました。

 時期的にも旧暦五月頃は水辺に沢山の菖蒲が生えていたでしょうからポピュ
 ラーな薬草ということもあったのか。。
 しかし、このポピュラーな「菖蒲」ですが、現在は間違えられがちな植物で
 もあります(その筆頭といってもいいくらいかも)。

  菖蒲というと、あの紫色のきれいな花の咲く植物ですよね

 なんて具合に。
 この紫色のきれいな花が咲くのは「花菖蒲」。
 実は、菖蒲と花菖蒲は違います。
 それも菖蒲は「サトイモ科」で花菖蒲は「アヤメ科」という具合で、全然違
 う種類の植物です。葉っぱが似ているので同じような植物だと思われがちで
 すが、菖蒲の花は花菖蒲のように「花」という感じはしない地味なもので、
 似ても似つきません。

 サトイモ科の菖蒲からすれば、形は全然違う水芭蕉(こちらもサトイモ科)
 の方が、よっぽど近縁の植物です(全体の印象は違いますが、花の形はよく
 似ています)。

 もっとも、万葉集などに歌われる菖蒲は「あやめぐさ」と呼ばれていました
 から、昔の人もアヤメの仲間だと思っていたみたいですけれど。

◇今夜は菖蒲湯
 かわうその家でも今夜は菖蒲湯の予定。
 邪気を祓う云々は抜きにしても、あの菖蒲の香りのお風呂にはいるのは、気
 持ちいいものですよね。

  忘れていた

 という方も、大丈夫。近頃はこの時期ならスーパーでも菖蒲が売られていま
 すから今から菖蒲を調達し、お風呂に入れるには十分な時間があります。
 昔は冷たい水に入って行った禊ぎ行事ですが、現代の私たちは、温かいお風
 呂で気持ちよく「邪気祓い」することにいたしましょう。

  (『暦のこぼれ話』に取り上げて欲しい話があれば、
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