こよみのぺーじ 日刊☆こよみのページ スクラップブック(PV , since 2008/7/8)
■「ユドゥン」と昴(すばる)
 6月が近づくと、そろそろ「梅雨」という言葉が気になってきます。
 雨が降らないのも困りますが、梅雨の時期のように毎日降られるのはやはり
 やっかいですからね。

 本州ではまだ先の梅雨ですが、沖縄地方では一足(二足くらいかな?)早く
 梅雨の最中です。そんな沖縄地方の梅雨にまつわる話として本日は「ユドゥ
 ン」という言葉を採り上げてみました。

 「ユドゥン」とは石垣島で梅雨を表す言葉として使われたものだそうです。
 「ユドゥン」という言葉の意味は、渋滞するとか、よどむという意味がある
 そうです。

  よどむ → ユドゥン

 でしょうか。発音は近いですから、言葉が変化したもののように思えます。
 さて、このユドゥンには他にも「休む」という意味が有るそうです。
 よどむとか、停滞する状態を「休んでいる」と見る考えは理解出来ますね。
 石垣島での梅雨はこの「休む」と関係有るそうです。
 では、梅雨の時期は石垣島では何が「休む」のかというと、それは

  昴(すばる)

 です。枕草子に「星はすばる」と読まれたあの昴です。

◇「昴」の紹介
 昴は、おうし座の M45。プレアデス星団と呼ばれる散開星団です。
 地球からの距離は 410光年。およそ 100程の星から成る星団で、秋から早春
 にかけてよく見える星です。
 肉眼でも5〜7個くらいの星が、小さな北斗七星のようにまとまって見えます。
 天体としては大変年齢の若い星々の集団です。

◇昴のお休みとは?
 さて、ではなぜ梅雨の時期、昴はお休みなのでしょうか?

  答えA:雨が多くて見えないから ・・・ ×(不正解)
  答えB:夜の時間帯に見えないから・・・ ○(正解)

 昴は、五月の半ば頃になると太陽に近い場所に見えるので、太陽が沈む頃に
 同時に沈み、太陽が昇る頃太陽と一緒に昇ってきます。
 つまり、5〜6月頃は昼間にしか空に昇らないのです。昼間では空には太陽が
 があって明るく、星の姿は見えませんから、昔の人は昴が見えないこの間を

   「昴」が休んでいる

 と考えたのでしょう。
 では、いつ頃からいつ頃までが「お休み」かと思って石垣島(石垣市)での
 見かけの位置を計算してみました。
 昴が肉眼で見えない条件として、

   日出没時に地平線からの高度角が10°以下であること

 とすると、この期間は 5/10〜6/1頃ということになります。
 これからすると現在、昴はお休み中。人より大分早い夏休み(梅雨休み?)
 中です。

◇昴の「ユドゥン」を知っていたころ
 我々はなかなか夕方の星の位置など判りません。
 ましてや明け方の星となると、この時刻に起きて星を眺めるという人はごく
 少数でしょう。
 でも農耕や漁労が主な仕事であった時代は、それこそ、

  日の出と共に仕事が始まり、
  日暮れと共に仕事を終わる

 という生活を送ったでしょうから、夕暮れの星や明け方の星を眺めて季節を
 感じると言うことが有ったのでしょう。

 辺りが暗くなって、畑仕事を終えて家路に向かう頃、西の空には間もなく沈
 もうとする昴を見て、ああもうすぐ梅雨の時期だなと思い、一日の仕事を始
 めるためにまだ薄暗い早朝に外へ出ると、しばらく目にしなかった昴の姿を
 東の空に見つけると間もなく梅雨明けかと感じる。

 昴が夜空に「出勤」しない休みの時期を知って、それを「ユドゥン」と呼ん
 だ時代。そんな時代があったことをこの言葉が記憶しているんですね。

  (『暦のこぼれ話』に取り上げて欲しい話があれば、
   magazine.std@koyomi.vis.ne.jp までお願いします。)
こよみのぺーじ 日刊☆こよみのページ スクラップブック