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■地蔵盆(じぞうぼん)・2014
 明日、24日は地蔵菩薩(お地蔵様)の縁日です。
 お地蔵様の縁日は毎月ありますが、お盆の直後の縁日は少々特別で、地蔵盆
 とよばれる子供を中心とした行事が、主に近畿地方で行われています。

 現在の地蔵盆は月遅れの盆の後の8/23〜25に行われる行事で、元は地蔵会、
 地蔵祭などと呼ばれる法要でした。

 地蔵盆には近隣のお地蔵様を洗ったり前掛けを交換したりし、供物や灯明を
 捧げたりしてこれを供養します。本来は旧暦の7/24の前後に行われる行事で
 したが、現在はもっぱら月遅れの行事となって、8/24前後に行われるように
 なっています。

◇近畿地方で盛んなのは昔から?
 江戸時代、文化年間といいますから西暦でいうと1804〜1818年頃に、和学講
 談所の会頭をつとめていた幕府の御家人、屋代弘賢(やしろ ひろかた)が
 諸国の風俗を調査するために諸国に送った「諸国風俗問状」に対する回答文
 書の中に、小浜の「地蔵祭り」についての記述があります。

 これによれば地蔵祭りは、七月二十四日(当時のことなので旧暦の日付)に
 路傍の石地蔵を仮のお堂に祭っていろいろの供物、様々な作り物をした子供
 達が集まり、鐘を鳴らして「南無地蔵大菩薩」と唱えるものだったそうです。

 この地蔵祭りの内容を見ると、当時既に現在の地蔵盆とほとんど同じ行事が
 行われていたようです(「おかしき作り物」とは、最近日本でも広がってい
 るハロウィンの仮装のようなものでしょうか?)。
 このコーナーでは毎度お世話になっている守貞漫稿にも、

  七月二十四日 大阪諸所地蔵祭
  大阪市中、諸所ののき下等に壇を作り、棚を架し、地蔵を祭る者ははなは
  だ多し。江戸の稲荷に比すべし。今日、必ず皆これを祭る。

 という記述もあります。
 また、何で読んだのか忘れてしまいましたが南総里見八犬伝の作者である滝
 沢馬琴が、この地蔵盆の時期に京都を旅して、夜遅くまで灯明を灯し、六地
 蔵巡りを行い、また大人達は酒盛りしながら町内問題を話し合ったといった
 昔の地蔵盆の様子を書き残しています。

 守貞漫稿の著者、喜田川守貞も滝沢馬琴も共に江戸に暮らした人。
 江戸で暮らした二人にとっては大阪や京都で行われる地蔵盆は物珍しい行事
 だったようです。

 江戸時代生まれではありませんが、現在から半世紀ほど前に東北地方で生ま
 れた私にとっても「地蔵盆」はなじみのない行事ですが、以前に 3年ほど住
 んだことのある京都府の舞鶴市には、この地蔵盆の慣習が残っていて、この
 時期には確かに道に面して立っているお地蔵様に沢山の灯明が灯され、日が
 暮れてから子供達がそのお地蔵様にお参りしている様子を目にしました。

 初めて目にしたときには「今日はなんかのお祭り?」と不思議に思いながら
 この光景を眺めたものでしたが、あれが「地蔵盆」だったんですね。

◇子供の六地蔵巡り
 お地蔵様は「地蔵菩薩」ですが、他の菩薩様や如来様とは違ってなんだかグ
 ッと身近な存在です。

 お地蔵様は全ての人々を救い、成仏させるまで自分は決して成仏しないと誓
 って、今も人々を救うために巡り歩いているという菩薩様です。このような
 菩薩様ですから弱い者たちにとってはことさら有り難い菩薩様。身近な救い
 主であることが、人々に親しまれる理由でしょう。

 お地蔵様が、とげ抜き地蔵、延命地蔵、子育て地蔵などのように苦難を肩代
 わりしてくれる身代わり地蔵となるのも、人々を救ってくださる菩薩様だか
 らだと思います。

 さて、地蔵盆には炎天を避けて、日が暮れてから町内のお地蔵様を巡り歩き
 ます。これを六地蔵巡りといい無病息災・延命長寿の御利益があると言われ
 ています。

 六地蔵とは人々が輪廻する六道、天道、人間道、修羅道、畜生道、餓鬼道、
 地獄道をそれぞれ巡る地蔵菩薩で、この六地蔵によって全ての人々が救われ
 るわけですから、一年に一度くらいは、きちんとお礼をしないといけません
 ね。もっとも、現実の六地蔵巡りでは、子供達は巡り歩く各所でお菓子がも
 らえるので、延命長寿の御利益より、目の前のお菓子という御利益の方があ
 りがたいのかもしれません。

 さて、今年はちょっと遅めの夏休みをとって自宅のある和歌山県の南端部に
 きておりますが、ここは近畿地方であっても地蔵盆の慣習はないようで、お
 地蔵様への供え物も無く、お祭りの兆候もなく至って静か。近所のお地蔵様
 方は、

  もう少し北の方を巡り歩けばよかったな

 なんて思っているかもしれませんね。

  (『暦のこぼれ話』に取り上げて欲しい話があれば、
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