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■今日は月が見えるか? イスラム暦と月の初見の話
 イスラム暦の暦月は新月後の月がその日の始まりの後に見えたときに切り替
 わります。イスラム暦の一日の始まりは日没ですので、これはつまり、新月
 の後の日没後の夕空に細い月が見えたときが、イスラム暦の暦月の始まりと
 なります。

 イスラム暦は太陰暦ですので、太陰太陽暦である旧暦とは暦月の区切りは同
 じように思われることがあるのですが、このように違いがあります。旧暦の
 月の区切りは新月の日ですが、イスラム暦のそれは日本でいえば、三日月か
 その前日の二日月辺りとなりますから、1〜2日ずれます。まあ、それ以前
 に「一日」の区切りが違っていますが。

 イスラム暦のおもしろいところは、暦月の区切りをこの月(天体の)が初め
 て見えた日とすることを原則としていることです。
 「初めて見えるだろうと計算された日」ではなく「初めて見えた日」が原則
 なのです。

 ということは見えるはずだと思われる日でも、その日に月が人間の目で見ら
 れないと暦の暦月の始まりがずれてしまいます。砂漠地帯のように晴れる確
 率が高い所ではこれでもいいのかもしれませんが、日本のように雨や曇りの
 日の多い所では、この条件はなかなか厳しいですね。

◇月の初見はどこで、誰が観測するのか?
 さてさて、暦月の区切りは初めて月が見えた(これを「月の初見」といいま
 す)日といいましたが、これはどこの誰が観測したものなのでしょうか?

 「どこで」については、中東アジアと日本では当然時差もあり、空模様も異
 なるでしょうから、月の初見日も地域によって変化してしまうはずだから、
 どこかでまとめてこれをしているのかと云う意味も含まれます。
 この疑問に対する答えは

  それぞれの場所で行う

 となります。
 とは言え、大体は国などの一つの行政区画毎でまとめているようです。
 ですから日本なら日本の月の初見となります。マレーシアではイスラム暦の
 運用は各州のスルタン(太守)に任されることになっているそうなので、州
 毎にイスラム暦の日付がずれる例があります。

 誰がと言う問いに対しては、その地域を統括するイスラム教の権威当局が任
 命した新月実視委員が行うようです。見えそうな場所に何人かずつ派遣して
 月を探し、複数人が確認できればそれが「新月の初見」となります。

 熟練した新月実視委員の目は確かなのでしょうが、それでも見落とす例が無
 いわけではなくて、物議を醸し出すこともあるそうです。

◇曇天の場合にはどうなる?
 曇天で月が見えない場合も条件は同じ。今日見えなければ明日ということに
 なります。
 この点では比較的雨が少なく曇天の確率の低い国々が有利。日本はその点で
 恵まれない国と言えます。

 ただし、天気が悪ければ際限なく暦月の始めがずれていくのかというと、流
 石にそんなことはなくて、月の初見を実視で確認できなくとも計算された日
 の翌日も実視出来なければ、その日から暦月を始めるなどといった運用で、
 際限なく暦月がずれることを防いでいます。こうした「運用」は暦の決定公
 表を行う「権威者」に与えられた権限です。

 イスラム教圏の国々でも、イスラム暦とは別の日常の暦を持つ国は多くあり
 ます。ただし、宗教上の重要な行事、例えばラマダーン(断食月)の始まり
 や終わりと云った重要な暦月の区切りの日取りの決定には今も月の初見日と
 いう実視の観測が重要視されます。

 ちなみに、昨日の8/25(2014年)は新月で、新月の瞬間の時刻は日本標準時で
 この日の23時頃。一日後の本日8/26の東京における日没時刻は18時18分です
 から新月の瞬間から今日の日没までの経過時間はおよそ19時間。

 新月の瞬間から肉眼での月の初見までの時間は15時間以上は必要と云われま
 すので、この条件から考えると何とか日本でも8/26の日没後に月の初見があ
 るかも・・・ただし、同じく東京での月没時刻を計算すると、18時22分と日
 没からわずか 4分後。この短い間に月を見つけきれるのか否か?
 「熟練した月の実視者たち」の力量が試される、厳しい条件のようですね。

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