日刊☆こよみのページ スクラップブック
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■お萩とぼた餅
本日は、秋の彼岸の中日。
お彼岸と云えば、墓参りをして、お萩を食べて・・・というべきところです
が、ご先祖様のお墓からちょっと離れているもので、お墓参りはご免なさい
をして、もう一つの「お萩を食べて」だけを実現することにしているかわう
そです(罰当たりなことで)。
◇「お萩」と「ぼた餅」
さてさて、罰当たりなかわうそは、既にお萩を仕入れております。
日刊☆こよみのページを発行し終えたら、食べようっと。
さて、ここでは「お萩」と書きましたが「ぼた餅」ということもあります。
皆さんは、どちらの名前で呼ばれるでしょうか。そもそも、お萩とぼた餅と
では、違いがあるのでしょうか?
辞書を引いてみると、
・ぼた‐もち【牡丹餅】
1.(赤小豆餡をまぶしたところが牡丹の花に似るからいう)
(→)「はぎのもち」に同じ。
・・・以下省略・・・
・はぎ‐の‐もち【萩の餅】
糯米(もちごめ)や粳米(うるちまい)などを炊き、軽くついて小さく丸
め、餡(あん)・黄粉(きなこ)・胡麻などをつけた餅。
煮た小豆を粒のまま散らしかけたのが、萩の花の咲きみだれるさまに似る
のでいう。また牡丹に似るから牡丹餅(ぼたもち)ともいう。
おはぎ。はぎのはな。きたまど。隣知らず。萩の強飯(こわいい)。
《広辞苑・第六版》
と説明されています。
どちらも大きな違いは無さそうです。どちらも季節の花に見立てて名付けら
れたようです。
なるほど、同じものだけれど春と秋とで名前を変えたというところですね。
そういえば、私は母から、
「ぼた餅は、牡丹餅だから春。牡丹の花のように大きめに作る。
お萩は、萩の花だから秋。萩の花は小さいので、お萩も小ぶりに作る。」
と子供の頃に教えられた気がします(子供の私は、沢山食べたいので、どっ
ちも大きめに作ってしまったのでは無いかな・・・)。
「和菓子ものがたり」(中山圭子著)には、
1.春には牡丹に見立ててぼた餅、秋には萩の花に見立てておはぎ
2.芯が糯米(もちごめ)主体であればぼた餅、
うるち米主体であればおはぎ
3.表面の餡が漉(こ)し餡ならぼた餅、小倉餡ならおはぎ
といくつかの区別を掲げてくれていますが、同書にあっても、「歴史を遡れ
ば、何と両者は同じもの」と1697年に刊行された「本朝食鑑」の説明をひい
てくれていました。基本的には、同じものでいいんですね。
◇お彼岸との関係
私は、お彼岸にはお萩(あるいは、ぼた餅)を食べるのがあたりまえだと不
思議にも思わずにおりましたが、なぜそうなったのかと考えて見ると、理由
がよくわかりません。
「ぼた餅」というように、「餅」がつきますから、どうやら特別なハレの食
べ物では有るようです(お萩も、萩餅とか、萩の花粥餅といいます)。ただ
江戸時代の末期に書かれた守貞漫稿には、
「昔ははなはだ賞玩せし物なれど、今は賤しき餅にして・・・晴れなる客へ
は出しがたし」
と有るので、この時代には特別な物というより、家庭で手軽に作る物となっ
ていたようです。ぼた餅につく「ぼた」には、粗悪なとか粗末なといった意
味が有るので「粗末な餅」と考えられたのかもしれません。粗末な餅だから
「ぼた餅」と呼ばれたのか、「ぼた餅」という名だから、粗末な餅と考えら
れるようになったのか、定かではありませんが(まったく違う可能性も十分
あります)。
この時代は粗末な餅といった見方をされていたお萩、ぼた餅ではありますが
それでも、「昔ははなはだ賞玩せし物」とあるように、昔は粗末な物とは思
われていなかった用ですので、
ご先祖様を祀るという、家庭の行事なので手軽に。
でもお供え物なので、それなりに特別な物がいい。
ということで、お彼岸にはつきものの食べ物となったのでしょう。
また、ぼた餅、お萩には無くてはならない餡の元である小豆は、邪気を祓う
力のあるものと考えられていましたから、そうした考えもお彼岸の日には、
ぼた餅、お萩という風習に繋がっているのかもしれません(「かも知れませ
ん」ばかりで、済みません・・・)。
ま、難しいことは考えず、「お彼岸には、お萩(ぼた餅)を食べましょう」
ということにしておきましょう。
◇おまけ
萩の餅の辞書の説明に、「きたまど」「隣知らず」という別名がありました
ので、最後にこの別名について。
餅と違って、お萩(ぼた餅)は餅とはいっても「搗(つ)く」ことがありま
せんから、作っても隣人も作っていることに気づかないことから、「隣知ら
ず」というそうです。
「きたまど」は「北窓」。
なぜ北窓で萩の餅となるのでしょうね。
ヒントは、やはり搗かないことと関係があります。
今日の暦のこぼれ話は謎かけで終わりにします。
折角の休日ですから、どうか謎解きを楽しんでみて下さい。
(『暦のこぼれ話』に取り上げて欲しい話があれば、
magazine.std@koyomi.vis.ne.jp までお願いします。)
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