こよみのぺーじ 日刊☆こよみのページ スクラップブック(PV , since 2008/7/8)
■お萩とぼた餅
 本日は、秋の彼岸の中日。
 お彼岸と云えば、墓参りをして、お萩を食べて・・・というべきところです
 が、ご先祖様のお墓からちょっと離れているもので、お墓参りはご免なさい
 をして、もう一つの「お萩を食べて」だけを実現することにしているかわう
 そです(罰当たりなことで)。

◇「お萩」と「ぼた餅」
 さてさて、罰当たりなかわうそは、既にお萩を仕入れております。
 日刊☆こよみのページを発行し終えたら、食べようっと。

 さて、ここでは「お萩」と書きましたが「ぼた餅」ということもあります。
 皆さんは、どちらの名前で呼ばれるでしょうか。そもそも、お萩とぼた餅と
 では、違いがあるのでしょうか?
 辞書を引いてみると、

 ・ぼた‐もち【牡丹餅】
  1.(赤小豆餡をまぶしたところが牡丹の花に似るからいう)
   (→)「はぎのもち」に同じ。
    ・・・以下省略・・・
 ・はぎ‐の‐もち【萩の餅】
  糯米(もちごめ)や粳米(うるちまい)などを炊き、軽くついて小さく丸
  め、餡(あん)・黄粉(きなこ)・胡麻などをつけた餅。
  煮た小豆を粒のまま散らしかけたのが、萩の花の咲きみだれるさまに似る
  のでいう。また牡丹に似るから牡丹餅(ぼたもち)ともいう。
  おはぎ。はぎのはな。きたまど。隣知らず。萩の強飯(こわいい)。
   《広辞苑・第六版》

 と説明されています。
 どちらも大きな違いは無さそうです。どちらも季節の花に見立てて名付けら
 れたようです。
 なるほど、同じものだけれど春と秋とで名前を変えたというところですね。
 そういえば、私は母から、

 「ぼた餅は、牡丹餅だから春。牡丹の花のように大きめに作る。
  お萩は、萩の花だから秋。萩の花は小さいので、お萩も小ぶりに作る。」

 と子供の頃に教えられた気がします(子供の私は、沢山食べたいので、どっ
 ちも大きめに作ってしまったのでは無いかな・・・)。
 「和菓子ものがたり」(中山圭子著)には、

  1.春には牡丹に見立ててぼた餅、秋には萩の花に見立てておはぎ
  2.芯が糯米(もちごめ)主体であればぼた餅、
   うるち米主体であればおはぎ
  3.表面の餡が漉(こ)し餡ならぼた餅、小倉餡ならおはぎ

 といくつかの区別を掲げてくれていますが、同書にあっても、「歴史を遡れ
 ば、何と両者は同じもの」と1697年に刊行された「本朝食鑑」の説明をひい
 てくれていました。基本的には、同じものでいいんですね。

◇お彼岸との関係
 私は、お彼岸にはお萩(あるいは、ぼた餅)を食べるのがあたりまえだと不
 思議にも思わずにおりましたが、なぜそうなったのかと考えて見ると、理由
 がよくわかりません。

 「ぼた餅」というように、「餅」がつきますから、どうやら特別なハレの食
 べ物では有るようです(お萩も、萩餅とか、萩の花粥餅といいます)。ただ
 江戸時代の末期に書かれた守貞漫稿には、

 「昔ははなはだ賞玩せし物なれど、今は賤しき餅にして・・・晴れなる客へ
  は出しがたし」

 と有るので、この時代には特別な物というより、家庭で手軽に作る物となっ
 ていたようです。ぼた餅につく「ぼた」には、粗悪なとか粗末なといった意
 味が有るので「粗末な餅」と考えられたのかもしれません。粗末な餅だから
 「ぼた餅」と呼ばれたのか、「ぼた餅」という名だから、粗末な餅と考えら
 れるようになったのか、定かではありませんが(まったく違う可能性も十分
 あります)。

 この時代は粗末な餅といった見方をされていたお萩、ぼた餅ではありますが
 それでも、「昔ははなはだ賞玩せし物」とあるように、昔は粗末な物とは思
 われていなかった用ですので、

  ご先祖様を祀るという、家庭の行事なので手軽に。
  でもお供え物なので、それなりに特別な物がいい。

 ということで、お彼岸にはつきものの食べ物となったのでしょう。
 また、ぼた餅、お萩には無くてはならない餡の元である小豆は、邪気を祓う
 力のあるものと考えられていましたから、そうした考えもお彼岸の日には、
 ぼた餅、お萩という風習に繋がっているのかもしれません(「かも知れませ
 ん」ばかりで、済みません・・・)。

 ま、難しいことは考えず、「お彼岸には、お萩(ぼた餅)を食べましょう」
 ということにしておきましょう。

◇おまけ
 萩の餅の辞書の説明に、「きたまど」「隣知らず」という別名がありました
 ので、最後にこの別名について。

 餅と違って、お萩(ぼた餅)は餅とはいっても「搗(つ)く」ことがありま
 せんから、作っても隣人も作っていることに気づかないことから、「隣知ら
 ず」というそうです。

 「きたまど」は「北窓」。
 なぜ北窓で萩の餅となるのでしょうね。
 ヒントは、やはり搗かないことと関係があります。

 今日の暦のこぼれ話は謎かけで終わりにします。
 折角の休日ですから、どうか謎解きを楽しんでみて下さい。

  (『暦のこぼれ話』に取り上げて欲しい話があれば、
   magazine.std@koyomi.vis.ne.jp までお願いします。)
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