日刊☆こよみのページ スクラップブック
(PV , since 2008/7/8)
■月見と盗人
今夜は後の月、十三夜の月の日です。
今朝の天気からすると、どうやら今夜は無事にお月見が出来そうだなと思う
かわうそです。
◇お供え物の盗人は大歓迎
月見と云えば、月見団子やその季節の収穫物を月にお供えするという習俗が
あります。この月へのお供え物に関しては、面白い話があります。それは、
よその家の月見のお供え物は盗んで食べてよい
というものです。
地域の子供達が家々を巡って、垣根の隙間から竹竿をさし入れて団子などの
お供え物を突き刺して盗んでいくというような行事が日本のあちこちに残っ
ています(もっとも現在の家の造りから、この行事の実行は難しくなってい
ますけれど)。
こうした風習は、中秋の名月の夜にも後の月の夜にもあったようです。
こうした行事は神(月)への供え物のお下がりをみんなで食べるという祭り
にはつきものの直会(なおらい)行事の変形と考えることが出来ます。
ところによっては、お供え物を盗むことを許すどころか歓迎するというとこ
ろもあります。
これなどは、収穫に感謝すると共に次なる豊作を祈念する月見の供え物が無
くなってゆくと言うことはそれを供えた相手(この場合はお月様)が、供え
物を受け取ったということ。つまり願いが届いたと言うことの証だと考えた
からでしょう。
収穫を祝うと言う意味合いからでしょう、この夜に限っては人の畑の作物や
果実を無断でとることも公認されていた地域もあります。収穫を与えてくれ
た「もの」に感謝し、共同体の皆で分け合うという考えなのでしょう。
もちろん、盗る方にもわきまえはあり、収穫物を根こそぎ奪ってどこかで売
りさばこうなんていうことは考えもしないという前提のあった時代の習俗で
すけれど(と注意書きをしなければいけない、悲しい時代です)。
この日ばかりは、お供えや畑の作物を盗む人は、お月様の分身、あるいはそ
の御使者という扱いになるわけですね。
なんだか、ほのぼのとする話です。
◇月見団子の禁忌
「よその家の月見団子を盗んで食べてもよい」という風習の裏返しの禁忌も
あります。
それは、自分の家の月見団子を食べてはならないというもの。
栃木県の大平町では「月見の供え物をその家の未婚者が食べると国廻りする」
と言って食べさせてはならないという言い伝えがあるそうです。
よその家の月見団子を食べてよいというのは、自分の家の団子を食べてはな
らないという禁忌があったからかもしれません(鶏と卵の関係?)。
◇さて今夜は?
どうやら、お月見が出来そうなかわうそですけれど、月を眺めながら、他の
家のお供え物をこっそり・・・ということは、控えることにします。
警察に突き出されて
「お月見の夜だったから!」
と言い訳する羽目にならないように。
多分、この言い訳は認められないとおもいますから。
そうした、楽しい風習が生きていた時代もあったんだな〜なんて考えながら
後の月を眺めることにしたいと思います。
(『暦のこぼれ話』に取り上げて欲しい話があれば、
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