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■七種粥と五節供
 明日は人日の節供(「じんじつの せっく)、
 というより「ななくさの せっく」と言った方が通りがよさそうですね。
 「ななくさの せっく」は漢字で書けば、七種の節供、あるいは七草の節供
 となります。

  「え、七草の『節句』でしょう?」

 と指摘されそうなので、なぜ「節供」と書いているかもついでに説明してお
 きます。「節供」は私のこだわりです(「こだわる」ことはよくないとは思
 うのですがね)。

 今では、「節句」と書く方が多いようですけれど、「せっく」は季節の変わ
 り目などにおかれた祝祭の日、折り目の日である、節日(せちにち)に供す
 る膳を指す節供(せちく)がその元の言葉と言われています。「せちく」が
 後に「せっく」と呼ばれるようになったものですので、この言葉に合わせて
 文字も「節句」が使われるようになってこれが拡がり、現在に到っておりま
 す。

 そんなこんなで少数派となってしまった「節供」」ではありますが、そのそ
 もそもの意味を忘れないようにと私は今も「七種の節供」のように書いてお
 ります。

  閑話休題

 「節供」で寄り道してしまいましたが、話を「七種粥」に戻しましょう。
 もう十年も前になってしまいましたが、日刊☆こよみのページを始めて 2年
 目の2008年の正月後に読者の方々に対して「七草粥を食べましたか」という
 アンケートを行ったことがあります。

 その結果は、67%、つまり2/3の方が七種粥を食べた(あるいは食べる予定)
 という回答を得ました。結構皆さん食べていたのですね。

 どうやら今でも廃れずに続いているようです。ただし、あれからもう十年が
 経過していますし、その十年前でさえアンケート対象が日刊☆こよみのペー
 ジ読者という一般(?)の方々とはやや異なる集団であったことから、アン
 ケート結果は偏っていたかも知れません。参考までの数値だとしてご覧下さ
 い。結構今でも七種粥は食べられているということです。

◇節供の日付
 さてさて、七種粥を頂く日、こんな七種の節供もその一つである「節供」の
 日付にはどんな意味があるのでしょう。

 節供とは季節の折り目となる節日であると既に書きましたが、その節日の中
 でも、特に重要視された 5つの節日を五節供といいます。その五節供とは、

  人日の節供 (七種の節供) ・・・ 一月七日
  上巳の節供 (桃の節供、雛祭り)・ 三月三日
  端午の節供 (菖蒲の節供) ・・・ 五月五日
  七夕の節供 (笹の節供)  ・・・ 七月七日
  重陽の節供 (菊の節供)  ・・・ 九月九日

 です。最初に書いたものが節供本来の名前(?)で、後に続く()内は一般
 に知られた呼び名です。
 本来の呼び名の中には、読みにくいものもあります。

  人日(じんじつ) 上巳(じょうし) 端午(たんご)
  七夕(しちせき) 重陽(ちょうよう)

 のように読みます。
 ご覧の通りで、基本的には奇数の月で、月と日の数字が同じになる(これを
 重日(ちょうじつ)といいます)日が節供になります。
 人日だけは、重日になっていませんが、どうやら大昔はこれも一月一日に行
 われていたようですが、一月一日は、他の行事も沢山あったためか、一月七
 日に変わってしまいました。

 もっとも、「変わった」のは日本に暦や五節供などの慣習が伝わるより前の
 時点だったので、日本に人日の節供が伝わったときには、既に現在と同じ一
 月七日となっていました。

 五節供それぞれには、その節供と結び付きの強い植物があって、その植物を
 冠した呼び名があり、現在はこちらの方が通りがよさそうです。その植物を
 冠した呼び名は()内の通り。

 七種は植物名じゃないかも知れませんが、七つの種類の植物が入っているか
 ら、植物名を冠したと云っても、大間違いではないでしょう?
 五つの節供はそれぞれに季節の節目として、その節目に相応しい季節の吉祥
 植物と結びついて、人々の生活の中に浸透して行きました。

 明日の七種の節供(人日の節供)はその後節供の始め。一年の季節の事実上
 の始まりの日に、早春に生える七つの植物を食べ、身体に取り入れることで
 一人一人の身体にも季節の巡るその力を取り入れようではありませんか。

◇最後は七種粥の話
 さてさて、明日に迫った七種の節供に備えて、七種粥についてふれておきま
 す。まず、七種ですが、これは次の七種類の植物です。

  芹(せり)・薺(なずな)・御形(ごぎょう)・繁縷(はこべら)
  ・仏の座(ほとけのざ)・鈴菜(すずな)・清白(すずしろ)

 この七種類の若菜を炊き込んだ粥が七種粥です。七種粥は万病を払う効能が
 あると考えられてきました。
 この日に若菜を食するという行事は中国の六世紀に書かれた荊楚歳時記にも
 記載されており、これが日本に伝えられたものと考えられます。

 正月料理で疲れた胃腸を休めるとか、冬の間不足しがちなビタミン等を補給
 するためであるとかという現実的な効能も有ってか現代まで続いています。

 七草粥の準備は七種の節供の前日にあたる 1/6の夜、つまり今夜から始まり
 ます。七草囃子と呼ばれる囃し歌を歌いながら粥に入れる七草をまな板の上
 で49回(7×7)叩きます。このときの囃し歌は、

   七草ナズナ、
   唐土の鳥が日本の土地に渡らぬ先に、
   セリこらたたきのタラたたき

 という鳥追い歌が一般的です(地域により種々のバリエーション有り)。
 疫病は、渡り鳥が運んで来るという迷信が有ることから、この囃し歌には疫
 病退散の呪いの意味があるのでしょう。

 明日は七種の節供の日とはいいながら、さすがに新暦の日付での七種の節供
 では、野生の「ななくさ」を手に入れるのは困難。でも、現代は便利な「七
 種セット」なるものが八百屋さんやスーパーの店頭に並ぶ時代です。やや味
 気ないかもしれませんが、そこはぐっと堪えましょう。

 何はともあれ明日は七種粥を食べながら、今年も一年の無病息災を祈ること
 にいたしましょう。

 関連記事 ⇒ 人日の節供 ( http://koyomi8.com/reki_doc/doc_0725.htm )

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