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■タッチの差の「年内立春」
 本日は立春の日。
 現在日常的に使われている新暦では年初は冬至に近い頃にありますが、それ
 以前に使われていたいわゆる旧暦は、立春付近に年初を置く「立春正月」の
 考えに基づいた暦です。

 立春正月の考えに基づいた暦といわれるためか、時々旧暦の元日は立春の日
 だと勘違いしている方がいます。
 でもそうではないことは、この日刊☆こよみのページに掲載している毎日の
 暦データをご覧いただければすぐにわかります。今日の暦データからその部
 分を抜き出してみると、

  西暦 2019年  2月  4日  [月の] 第2週 第1月曜
  旧暦  12月(大) 30日 (大安)
  二十四節気 立春 (2/4 〜 2/18)
  七十二候  東風凍を解く (2/4 〜 2/8)

 となっています。立春なのに旧暦の日付はまだ前年の12月のままです。
 こうした旧年中に立春を迎えてしまう年のことを、
   年内立春 (ねんない りっしゅん)
 と呼びます。

◇年内立春の年は珍しい?
 古今集の冒頭を飾るのは、この年内立春について詠まれた次の歌です。

  『年の内に 春は来にけり ひととせを 
        こぞとや言はむ 今年とや言はむ』

 ふるとしに春たちける日よめるとした、在原元方の歌です。
 流石に古今集の冒頭を飾るほどの歌ですから、どこかで耳にし、或いは目に
 したことのある歌なのでは無いでしょうか。
 歌の意味は、「年が変わらないうちに立春が来てしまったこの年を、去年と
 言うべきか、今年と言うべきか」と言ったところでしょうか。

 旧暦と言われる暦が実生活でも使われていた時代に詠まれた歌が、わざわざ
 年内立春に言及していると言うことは、それだけ珍しいことだったのでしょ
 う・・・と思いこまれる方が結構いらっしゃるのですが、実はこれは誤解。
 年内立春は全然珍しいものではありません。

◇確率は1/2
 立春は二十四節気の正月節と呼ばれる節気ですが、旧暦の暦月の名前を決め
 るのは二十四節気の「節」ではなくて「中」の方。旧暦の正月という暦月を
 定めるのは、正月中の「雨水」で、今年の雨水は新暦の日付では2/19がその
 節入りの日にあたります。

 旧暦の正月はこの雨水を朔日から晦日までに含む月です。つまり旧暦では雨
 水が1/1〜1/30(小の月なら1/29)の範囲で変化するわけです。
 立春と雨水とは15日離れていますから、立春が無事に旧暦の新年に含まれる
 ためには、雨水が旧暦の1/16以降の日付をとった場合となります。

 残念ながら、今年の雨水は旧暦では1/15にあたっていますから、立春はギリ
 ギリ旧暦正月には含まれないことになります。
 立春が旧正月に含まれる条件が、雨水の日付が旧暦の16日以降でなければい
 けないと言うものですから、そのそうなる確率は約1/2 (旧暦の暦月の日数
 は、29ないしは30ですから)となります。
 逆に言えば、「年内立春となる年は全体の1/2 」ということが出来ます。

 全体の1/2 が年内立春となるといわれれば、全然珍しい現象でないことが判
 ります。

 ちなみに、今日現在の旧暦の1年は新暦では、2018/2/16〜2019/2/4の期間
 で、この間にある立春は年の終わりの方にある2019/2/4ですから、旧い年の
 間に立春を迎えてしまうという「年内立春の年」となりましたが、旧暦の1
 年前の年(新暦では2017/1/28〜2018/2/15)には、年の初めと念の終わりの
 両方に立春があります。つまり、この年は立春が年に2回。

 年に2回の立春のある年があれば、一方では1回もないという年もあって、
 こちらは明日から始まる旧暦の1年(新暦では2019/2/5〜2020/1/25)には
 1度も立春の日が含まれません。

◇タッチの差が分けた「年内立春」と「新年立春」
 ちなみに、立春の節入り日は、現在の定義では、太陽中心の視黄経が315度
 となる瞬間(立春の節入りの瞬間)を含む日です。今回の立春の節入りの瞬
 間の時刻をもう少し詳しく調べてみると

  立春の節入りの瞬間 ・・・ 2019/2/4 12時14分 (日本時)

 です。では、では旧暦の新年はいつか? 今回、旧暦の正月の暦月を決める
 朔の瞬間(新月の瞬間)はいつかというと、

  朔の瞬間 ・・・ 2019/2/5 6時 4分 (日本時)

 朔の瞬間が、あと7時間ほど早ければ(または、立春の節入りの瞬間が12時
 間ほど遅ければ)、めでたく立春その日に、旧暦の元日を迎えることになり
 ましたのに、残念。
 ちなみに、朔の日と立春が一致、つまり旧暦の元日が立春にあたることを

  朔旦立春 (さくたん りっしゅん)

 と呼んで、大変縁起のよい日とされたのです。
 ああ、惜しいですね。今回は、タッチの差で目出度い朔旦立春を逃して、大
 晦日に立春を迎え、年内立春となってしまいました。
 本当に、惜しかったですね。

  (『暦のこぼれ話』に取り上げて欲しい話があれば、
   magazine.std@koyomi.vis.ne.jp までお願いします。)
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