日刊☆こよみのページ スクラップブック
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■暦の素朴な疑問・旧暦の1年の長さ
先日、暦の素朴な疑問として
旧暦を太陰太陽暦というのはなぜ?
という話を書きました。
おかげさまで、評判がよい話となりました(配信した記事には山のような誤
字脱字があったことに目を瞑れば)。
これに気をよくして、本日は「暦の素朴な疑問」第二弾です。
じつは、前回の記事に関して疑問をもたれた方がいらっしゃって、そのメー
ルを読んで、疑問に思われるのももっとも。他にも同様な疑問をお持ちの方
がいらっしゃるに違いない(1匹見たら30匹はいると思えという、あの理論
ですね)ということで、その疑問解決を本日の話題といたします。
--- いただいた疑問のメール(星空ライダーさんから)抜粋 ---
『◇1.いわゆる旧暦のことを「太陰太陽暦」というのはなぜでしょうか?』
の5番目のパラグラフ2行目
> (2) 暦年の長さは太陽の年周運動を元に決められる
とありましたが,少し疑問に思えました。
確かに二十四節気は太陽の動きを基に決められたものですが,太陰太陽暦と
しての一年は12朔望月若しくは13朔望月(閏月がある場合)だと思うの
ですが如何でしょうか?
かわうそ様の記述〔(2)のこと〕だと,太陰太陽歴でも1年は365日(366日)と
受け取られかねないように思えました。
また別の読み方をすれば,文章中に閏月のことが全く触れられていません
(あえて触れられていなかったのかもしれませんが)でしたので,もし今回
初めて【日刊☆こよみのページ】を読まれた素人の方がいれば,太陰太陽暦
は常に12朔望月だと思われたかもしれません。
--------(星空ライダーさんからのメール、ここまで) --------
言われてみれば確かに誤解されてしまいそうですね。
言い訳をすれば、前回の話のテーマが「旧暦を太陰太陽暦というのはなぜ」
という説明で、太陰太陽暦というものがどのようなものだったかを説明した
ものなので、太陰太陽暦の暦法での1年の長さの話としてさらっと、(2)よう
に書いてしまいました。暦法の説明としてはあれでよかったのですが、確か
に誤解を招きますね。
ということで、暦法での1年の長さとその暦法によって作られた暦の個々の1
年の長さ(日数)について説明します。
◇新暦の一年の長さ
説明の為、身近な例として新暦(グレゴリオ暦)の1年の長さについて、ま
ず考えてみることにします。現在私たちが日常に使っている新暦の1年の長
さは何日でしょうか? と問われたら何と答えるでしょうか?
365日? それとも 366日?
いいえ、どちらも違います。正解は365.2425日です。
それはなぜかといえば、グレゴリオ暦は
400年 = 146097日 → 1年 = 365.2425日
となるように作られている暦だからです。この365.2425日は1太陽年(回帰
年)の日数365.24219日という長さを、
400年に365日の平年303回と365日の閏年97回の組み合わせ
という比較的単純な整数日数の組み合わせで近似的に表現したものです。
「365.2425日は太陽年を近似したものだから、グレゴリオ暦の1年は本当は
1太陽年の長さである365.24219日ではないのかと?」
という疑問が生まれると思いますが、そうではありません。グレゴリオ暦に
は、近似的な1年と実際の1年の長さを修正するためのそれ以上の仕組みはあ
りませんのでグレゴリオ暦の考える1年は365.2425日という日数なのです。
「でもそれだと、暦と実際の太陽の動きがずれちゃいますよ」
と心配なさる方もいらっしゃると思いますが、その差が問題になるまでには
2〜3000年かかりますので「私の知ったことではない問題」です。
グレゴリオ暦の考える1年の長さは365.2425日だと書きましたが、実際、私
たちが用いる暦の個々の1年に日数には小数点はつきません。365か366のど
ちらかの整数日数です。
暦は人間の社会生活を支える重要な道具であり、人間の生活は今も1日とい
うサイクルで動きますので、暦もこの1日のサイクルを乱すわけにはいかな
いので、整数日の個々の1年をうまく組み合わせて、長い目で見れば太陽の
1年に近い1年を作っているのが太陽暦です。
このように、暦を作る仕組み(暦法といいます)における1年の長さとは、
個々の1年の長さではなくて、その暦の仕組みがあらわそうとする1年の長
さなのです。
◇旧暦の1年の長さ
日本で明治改暦以前に使われていた一般に旧暦と呼ばれる太陰太陽暦の個々
の1年の日数には、次の6種類があります。
353,354,355日 (平年、暦月数は12)
383,384,385日 (閏年、暦月数は13)
旧暦には新暦には見られない「閏月」という時折現れる臨時の月(13番目の
月とでも言いましょうか?)があって、閏月が現れた年が閏年です。1年が
12ヶ月の場合と13ヶ月の場合があるので、上記のように日数が大きく違って
しまいます。
こんなまちまちな日数の旧暦の1年を平均して本当に太陰太陽暦の太陽暦が
あらわす太陽の1年が表現できているのか? 実際の例として1600〜1884年
までの285年間の日数を使って計算してみました。その結果は
285年 = 104095日 → 1年 = 365.2456日
あんなばらばらな日数の1年を組み合わせてこの値になるとは。
ちなみにこの期間のそれぞれの日数の年の出現回数は
353日 1回 ( 0.35%)
354日 116回 (40.70%)
355日 63回 (22.11%)
383日 9回 ( 3.16%)
384日 94回 (32.98%)
385日 2回 ( 0.70%)
です。
ちなみに日本で最初に使われた(7世紀末)元嘉暦という古い暦では、1年の
長さは
222070日 ÷ 608年 (= 365.2467日/年)
と定義していました。昔は小数という概念がなかったので、分子と分母に整
数を置いた分数で表現していたのでした(余談ですがこの分数で表現すると
いう考え方って、暦を作る上で思いついたものじゃないのかな? と私は想
像しています)。
現在私たちが使っている新暦(グレゴリオ暦)の1年の日数は個々の1年で見
ても365日と366日という、それ自体が真の1年に日数の近似と言ってもおか
しくない暦を使っていると、暦法の1年の長さと個々の1年の日数の違いに無
頓着になってしまいます。
私も気をつけないとと、改めて思った読者からの質問でした。
うーん、今日は「暦の素朴な疑問」というタイトルには似つかわしくない、
重箱の隅をつつくような話でしたね。
次回のシリーズでは、本当に「素朴な疑問」といえるような話を書いてみよ
うと思います。
(『暦のこぼれ話』に取り上げて欲しい話があれば、
magazine.std@koyomi.vis.ne.jp までお願いします。)
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