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年内立春と新年立春
   「立春なのに、まだ旧暦の正月になりません。なぜですか?」

これを書いているのは新暦の2007年2月。
立春の日付はというと、新暦の2007/2/4、旧暦ではまだ12/17と師走の半ばを過ぎたばかり。

旧暦は立春正月の暦というのに、なぜ立春と旧暦の元日が一致しないのだろうという疑問を持つ方は多いようです。
冒頭の質問も、そうした疑問をお持ちの方から寄せられたものでした。

そもそもの誤解は、
 旧暦は立春正月の暦 = 立春に正月を迎える暦 
と短絡してしまうことに始まります。

  1. 立春正月の意味 
    旧暦は立春正月の暦であるというのは、年の初め(歳首または年首)が立春前後に来るように調整された暦と言うことで、ぴったり同じになるという意味ではありません。
    どれくらい前後するかというと、「最大±半月」です。

    このようなずれが起こってしまうのは、旧暦が日次(ひなみ)を月の満ち欠けという太陰暦の要素から決定し、月次(つきなみ)を太陽の動きを示す二十四節気という太陽暦の要素から決定する太陰太陽暦であるための宿命のようなものです。

    月の満ち欠けの周期と太陽の一年の動きの周期が割り切れないものであるため、月次を二十四節気にあわせて配置しても、日次の始まりである朔(新月)の日はぴったり二十四節気には合わせられないのです。

    仕方がないので折衷案として、「最大±半月」の範囲内で一致すれば良いことにしたのが旧暦です。

  2. 年内立春と新年立春の意味 
    旧暦のシステムでは元日と立春の日付が最大±半月ずれることがあると言うことはおわかりになったと思います。

    この「±」のうちの「−」、つまり旧暦の元日より早く立春を迎えてしまうことを年内立春と呼びます。
    これに対して「+」、つまり旧暦の元日以降に立春が訪れる場合を新年立春と呼びます。

    2007/2/4は立春ですが、この日は旧暦ではまだ12月ですから、元日より早くに立春を迎えた(つまり「−」側)例で、「年内立春」の例と言えます。

  3. 「年内立春」は珍しい? 
    こよみのページへ寄せられる質問や、掲示板への書き込みなどを読んでいると、旧暦の元日を迎えるより前に立春を迎えてしまうという年内立春は珍しい現象だと思っている方が多いようです。実を言いますと昔私も、「珍しい」と思いこんでおりました。

    でもこれは(も)誤り。年内立春はほぼ2年に一度は起こるありふれた現象なのです。

    下の図をご覧ください。
    これは、1700〜2070の間の立春が旧暦の元日から何日後に訪れたかを示したものです。図の中の一つ一つの点がその年の立春が元日から何日後だったかを示しています。
    旧暦元日から立春までの日数
    これを見る限り、年内立春も新年立春もほぼ同数、1/2の確率で年内立春になったり、新年立春になることが見て取れます。

    ※図についてのちょっといいわけ 
    「立春」の日付は天保暦以降、現在までの方法だと新暦の2/4前後(ゆっくりとは変化する)になります。天保暦より前の暦では2/6前後になります。
    この違いは天保暦以後は二十四節気を定気法という計算方法で、それより前は恒気法という計算方法で求めていたためです。

    日付に若干の違いがありますが、図はあくまでも傾向を示すためのものですので、立春は 2/5 とすると仮定して、旧暦元日との比較を行いましたので、厳密な結果と1〜2日異なる場合があります。

  4. 年内立春が「珍しい」と誤解される理由は? 
    年内立春がありふれた現象だと解って頂けたと思います。
    ではなぜ、珍しい現象と誤解する人が多いのでしょうか。
    ここからは、私の勝手な推理ですので、お暇な方だけおつきあいください。

      ふるとしに春たちける日よめる  在原元方
     『年の内に 春は来にけり ひととせを 
           こぞとや言はむ 今年とや言はむ

    古今集の冒頭を飾る歌で、年内立春といえば必ずこの歌が引用されるほど有名な歌でもあります(現に私も引用しています)。
    意味はといえば、

     「年が変わらないうちに立春が来てしまったこの年を、 
        去年と言うべきか、今年と言うべきか

    と言ったところでしょうか。
    年内立春に戸惑っているといった印象を受ける歌です。
    歌の善し悪しは私にはわかりませんが、何とも軽妙な感じで覚えやすい上、古今集の冒頭を飾る歌であるということで、よく知られた歌であることだけは間違いありません。

    そしてそんな誰もが一度は聴いたことのある歌が、年内立春に戸惑っているような印象の歌ですから、

     旧暦時代の人も年内立春に戸惑っている
       → 戸惑うということは、珍しい経験に違いない
         → 年内立春は珍しい経験なのだ

    と連想が進み、「年内立春は珍しいこと」という誤った結論に結びついてしまっているように思えます。

    歌を作った在原元方が本当に、年内立春に戸惑っているのかどうかは何とも言えないところです。昔の人だってみんながみんな、暦に詳しいわけでは無かったでしょうから、本当に戸惑っているのかもしれませんが、2年に一度はあることなら、素人でもそんなに不思議な現象とは思わなかったと私は思います。

    件の歌は、「年内立春」というちょっと変わった歌の題をもらって、さてどうしようかと考え、年内立春という言葉に潜む解っているけどどこか釈然としない感覚をウィットを効かせて軽妙な歌に仕立てたものではないかと想像します。

    その時代の人たちにとっては、元方が歌に込めた「なんだか釈然としない思い」が良く了解できるので、おもしろい歌と受け取れたのでしょうが、今となっては、年内立春という余りなじみの無い言葉を歌った、特別な意味を持った歌と映るようになったのではないでしょうか。
  5. これからの新年立春と年内立春 
    旧暦年(新暦期間)新年年内
    2015 2/19〜翌年 2/07  
    2016 2/08〜翌年 1/27   
    2017 1/28〜翌年 2/15
    2018 2/16〜翌年 2/04  
    2019 2/05〜翌年 1/24   
    2020 1/25〜翌年 2/11
    2021 2/12〜翌年 1/31   
    2022 2/01〜翌年 1/21  
    2023 1/22〜翌年 2/09
    2024 2/10〜翌年 1/28   
    旧暦の2015〜2024年(←なんか変な使い方ですがご容赦)の10年分について新年立春と年内立春を調べて見たのが左の表です。
    新年」としたのが、新年立春
    年内」としたのが、年内立春
    該当するものがある年にはそれぞれの箇所に「○」を入れてみました。
    こうしてみると、「新年立春」が1度だけある年という、私たちからすると常識的な年の方が圧倒的に少数派だと言うことが解ります。
    そして、年内立春がごくごくありふれたものだと言うことも。
    後日追記:表への追加 (2008/2/8) 
    (新暦期間)と書いた場所は、旧暦年の1/1〜12/末日を新暦に換算した期間です。誤解があるといけないので追加しました。
    また、表の内容を当初の2007〜2016年から、2015〜2024年に書き換えました。
    なお、新暦2015〜2025年の間の立春は、2021,2025年が 2/3、その他は全て 2/4です。
余 談
今年は大分遅い旧正月
今年は立春となっても旧暦では師走の17日と大分遅い。その上記録的な暖冬とかで、旧正月がやってくるまでに梅の花は散ってしまいそうです。
この冬は、一度も雪を見ることなく春になりそうです。
寒がりの私ですから暖かいのはありがたいのですが、それでも雪を見ない冬というのは寂しいですね。
※記事更新履歴
初出 2007/02/04
修正 2008/02/08 表の修正
 〃 2016/01/15 表の期間変更(2007〜2016 → 2015〜2024)
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