立春の日付が変わるのはなぜ?
立春の日付が変わるのはなぜ?
 この書いているのは2021年の1月(の終わり頃)。
 なぜこの記事を書くことになったかというと、2021年の立春の日が「2/3」になると言うことが話題になったからです。ついでに言うと2021年の節分の日が「2/2」になるという話も話題になっていますが、節分の日は立春の前日なので、当然と言えば当然。と言うことで、ここでは立春の日(節入り日)の話とさせていただきます。
さてさて、書き始めてすぐで済みませんが、おそらく数年してこの記事を読むと、

 立春が2/3になることの何が珍しいの? 

と疑問に思う方が多くなると思います。なぜなら、2021年以降は2021,2025,2029・・・4年に1度は立春が2/3になるからです(2057年からはもっと増えます)。「数年後の読者」のために、2021年当時は立春の日が2/3となると言うことは珍しかったのだと言うことをあえて書いておくことにします。
図1.立春の日の変遷 では、どのくらい珍しかったのかを知ってもらうために、1950〜2050年の100年間の立春の日を示してみましょう。図1をご覧ください。

 なんと、1985〜2020年までの36年間はずっと立春の日は2/4だったので「立春の日は2/4に決まっている」と錯覚してしまっても仕方がないでしょう。まだ1984年までは4年に1度くらいの割合で立春の日が2/5になることもありましたら、その当時に物心が付いていた方の中にはこれを覚えていて、立春の日が変わるということに対してそれほどの驚かなかった方もいらっしゃるかもしれませんね。さて、図1をみると、立春の日が毎年同じではないことがわかります。さらに
  • 1984年までは時々2/5もあった。
  • 1985〜2020年はずっと2/4だった。
  • 2021年からは時々2/3になることもある。
と言うことは、立春の日の日付は早まって行く傾向にあるのか? という未来を、この図から読み取る方もいらっしゃるかもしれません。どうでしょうね? 確認のために図1の西暦年の期間を延ばして確かめて見ましょう。表示期間を延ばして示した図2を右に示します。

図2.立春の日の変遷2 図2は1780〜2110年の330年間の立春の日を示したものです。これを見ると1700年代や1800年代にも2/3という立春の日があったことが判ります。また2/5という日も1800年代、1900年代はもちろん、一番端っこで見づらいですが2100年代にも登場することがわかります。と言うことは「立春の日が徐々に前進して行く」と言うわけではなさそうですね。どちらかと言うと2/4という日付を中心にして2/5や2/3という日も存在するという期間が長い周期で繰り返されているように見えます。
注意
coffee break 図2(以後の長期期間の図も同様)の立春の日付は、現在の暦を用いて過去及び未来の計算をしたものです。
 1843年までの暦は立春などの二十四節気の計算方式が異なっておりますし、それ以後も天体の位置計算の理論や、基準とする日本の時刻系の変更などもあったので、その当時に使われた暦の立春の日と異なることがあります。今回の立春の日付の変化の説明とは直接関わらない話なので、今回はこの計算結果で代用させていただきます。ちなみに未来の方は、当分大きな暦法の変更などはないでしょうから大丈夫じゃないかと思っています。
立春と立春の瞬間の間隔の変化 
 立春の日付が、ある種の周期変化を示すとすると原因として考えられるものはなんでしょうか? そうした原因として真っ先に浮かぶのは立春と立春の間隔が周期的に変化するということ。では、確かめて見ましょう。「立春の日」というのは現在の定義では二十四節気の

 「立春の節入りの瞬間を含む日」

と言うことになります。例えば立春の節入りの瞬間が 2/3 の 0時0分であっても23時59分であったとしてもどちらも2/3という日に含まれますから、この場合の立春の日は2/3となります。現在の定義では立春の節入りは太陽中心の視黄経(天球上の天体の位置を表す座標系の一つ、黄道座標で表した経度のこと)が315°となる瞬間と定められています。ちなみに、話を書くきっかけとなった2021年とその前後の年の立春の節入りの瞬間をこの方式で計算すると
  • 2020/2/4 18時 3.3分
  • 2021/2/3 23時58.8分
  • 2022/2/4 05時50.7分
となります。ご覧のとおり2021年はギリギリで立春の日は2/3となりました(計算は日本標準時による)。前後の年の立春の日時を見比べてみると、数時間から半日程度の違いがあるのが解ります。立春の間隔って案外変わるものなのですね?

図3.立春の間隔 最後に「?」をつけたように、立春の間隔が変わると言うことについては、実は疑問が。二十四節気の計算の基準となる太陽の動きは年毎でそれほど大きな変化は示さないはずなのです。ということで、立春の節入りと次の節入りの瞬間の間隔がどの程度なのかを図2と同じ期間で計算した結果を図3に示します。
 今回のグラフは縦軸は月日ではなくて日数を用いました。縦軸の一目盛りは0.2日ですので、時間で表せば4.8時間に相当します。

図3-2.立春の間隔(拡大)前述した2020,2021,2022年の立春の瞬間の日付と時間を比べると数時間から半日程度も違っていましたから、それだけの差があればこのグラフでもかなりの変化が読み取れるはずですが、図からは365.2日の目盛りのちょっと上で、ほとんど変化しない直線にしか見えません。参考まで、実際にどの程度変化するか時間軸方向を拡大して示します。図3-2は、立春の間隔から365日を差し引き、残りの端数部分を時間単位で示したものです。図3-2からは、立春の間隔はほぼ

 365日と5.8時間±0.2時間 

で一定していることが判ります。「±0.2時間」ですから、これが原因で数時間から半日も立春の瞬間が変わるはずはありません。

「立春の節入りの瞬間」年毎の日付と時間の変化 
図4.立春の瞬間の変動 立春の間隔が変化しないのになぜ立春の日付が変わるのか、その手がかりは次の図4を見ると見当がつきます。これは、毎年の立春の節入りの瞬間を時刻も考慮してプロットしたものです。こうしてみると、4つの点がほぼ縦に並び、全体が右肩下がりとなった、いくつかのブロックから出来ているように見えます。そしてブロックの区切りとなる年をみると、1800,1900,2100年ととっても意味ありげ。先の「4つの点がほぼ縦に並び」も併せて考えると、こよみのページユーザーの方なら何かぴんとくることが有るのでは無いでしょうか?

 そうです、閏年となる年と関係があるのです。現在私たちが使用しているいわゆる新暦は、グレゴリオ暦と言われる暦で、閏日(2/29として挿入される)が挿入される閏年は次のような規則で決まります。
    閏年の決定規則
  • 1.西暦年が4で割り切れる年は閏年(閏日は4年に1日)
  • 2. 1 であっても、西暦年が100で割り切れる年は閏年としない(1,2で閏日は100年に24日)
  • 3. 2 であっても、西暦年が400で割り切れる年は閏年(1,2,3で閏日は400年に97日)
 この閏年の規則は日常に使う整数日の暦年の日数で、太陽が天球を1巡する自然の1年である回帰年(=365.2422日)という端数がついた1年を近似的に表現する工夫で、ある程度長い期間の日数を平均化すればかなり正確に回帰年を表現できるのですが、短い期間(100年、200年でもね)で見ると差が出てしまいます。
  • 【参考まで】
    閏日の挿入後の平均した暦の一年の日数を見てみましょう。
      閏日挿入でどれだけ、回帰年の日数に近づくか?
    • 0. 回帰年の日数 365.2422
    • 1. 4年に1日の挿入後の暦の1年 365.25日 (差 0.0078日)
    • 2. 100年に24日の挿入後の暦の1年 365.24日 (差-0.0022日)
    • 3. 400年に97日の挿入後の暦の1年 365.2425日 (差 0.0003日)
    なるほど、結構いい線いってますね。以上、参考まで。
    では、本論に戻ります。

 図3-2から読み取った立春の節入りの間隔は365日と5.8時間とは実は自然の1年の長さである回帰年の長さです(回帰年の基準となる春分も、立春と同じ太陽の位置によって決まる二十四節気の一つですから当然ですが)。現在の閏年の挿入方式による暦の日数の組み合わせで回帰年の日数を正しく再現できるのであれば、グラフは水平になるはずなのですが図4はそうなっていません。

 図4で縦方向に並んだ4つのプロットは 1 の4年毎の変化の列であり、100毎に区切られたブロックのようなものは 2 の100年毎の補正で区切られた部分です。2000年の箇所は 3 の400年に1度の条件の箇所。立春の節入りの瞬間の日時の変化(グラフの縦方向の変化)は、その大部分が現在使われている暦の1年の長さと回帰年の日数の差による見かけ上の変動なのです。

結論 
「なぜ立春の日付が変化するのか」
という説明のために書いた記事だったのですが、結論としては

 立春の日付の変化と言うより、閏日の問題です! 

となってしまいました。うーん、なーんだかな・・・
ずれた文字盤イメージこの問題は、「立春の節入りの瞬間」という自然の時計の針は一定の間隔で正確に季節を刻んでいるのに、時刻を読み取る基準となる時計の文字盤が緩んでいて(?)、少しずれてしまうために読み取った時刻が一定しないみたいな話でした(右の図のイメージね)。

 判ってしまうとほんと「な〜〜んだ、そんなことなの」という結論でした。書いているこっちもなんだかな・・・。
図5.立春の瞬間と立春の日の変遷 ため息で終わってしまっては、それこそなんだかなですので、最後に立春の瞬間と立春の日の変遷をまとめた図5を掲げて、将来の変化も眺めてこの話を終えることにします。図5を見ると、次にこんな話が書けるタイミングは2104年。「珍しい2/5の立春の日がやってくる年」ということになるでしょうか。
うーんと長生きしてもちょっと無理そうだな。ま、いいけど。
余 談
いろいろ影響のあった2021年の立春の日
 2021年の立春の節入りの瞬間は日付の変わる直前であったため、太陽の黄経を略算式で求めていたページでは、間違った日付が計算されてしまうという問題があり、修正に結構手間取りました。立春の日は占いなどでよく使われる節切りの暦の一年の起点となる日で、影響はそこそこありましたね。ちょっと大変でした。
※記事更新履歴
2021/01/28 初出
2023/01/11 文字化け(特殊文字)修正
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