土用のはなし
土用のはなし
 夏の暑い盛りになると

  今日は土用の入り。今年の土用丑の日は○月×日です。 

なんて話をニュース番組や天気予報の時間に耳にすることがあるのではないでしょうか。また、土用波とか土用干しなどという言葉を見たり聞いたりすることもあるはずです。さて、この土用とは?
本日はこの土用の話をいたします。
「土用干し」と「土用波」
土用干し 土用波
「土用」は「土旺用事」のこと
 土用は元々は土旺用事(どおうようじ)と言ったものが省略されたものです。
現在、土用というと夏の暑い時期の土用だけを指すようになってしまいましたが、本来土用は1年には4回あります。1回の土用の期間は18〜19日。これが4回ありますから72〜73日が土用の期間と言うことになります。
 
土用はどうして生まれた
 土用が生まれた理由には五行説(ごぎょうせつ)という古代中国で生まれた思想が関係しています。
 五行説は大昔の科学仮説とでも言うもので、この世のあらゆるものは全てが木火土金水の五つの要素の組み合わせで成り立つという考えです。五行説はただ物質だけの成り立ちを説明するだけでなく、色や味、星々、そして季節まで全てをこの五種類のもの、あるいは性質の組み合わせで説明しようとしました。
 季節、そう四季まで五行で説明しようとしたのです。ではどのように考えたかというと、次のような具合です。

 春→木 、 夏→火 、秋→金 、 冬→水 、?→土

ご覧の通りです。五行説は素朴な仮説ですから、四季と五行の気の関係もまた素朴な発想によって生まれています。

 春は木(植物)が盛んに伸びる季節。
 夏は火のように暑い季節。
 秋は金属のように冷えてゆく季節。
 冬は水のように冷えきって停滞する季節。

五行と季節 といった具合です。ここまでは分かるとして困ったことがありました。それは季節は四季であって、五季ではありません。五行を割り振ろうとしても一つ余ってしまいます。そしてその余ったものが「土」の気というわけです。そこで五行説を信じる人々は、「土の性質は全ての季節に均等に存在するんだ!」と考えることにして、各季節の最後の18〜19日を「土用」としました(これで1年の日数が均等に五行に割り振られたことになります)。今は土用というと夏だけですが本来は全ての季節に土用があります。
 
土用の期間はどのようにして決められるか
 現在、土用の期間は「太陽の視黄経が27,117,207,297度となる日を土用の入りとする」と言うように定義しております。ちなみに土用は季節の最後に割り振られるので「土用の明け」は次の季節の始まる日(立春、立夏、立秋、立冬)の前日になります。

季節と土用 一年の季節と土用の関係を表したものが右の図です。季節と季節の間に土用の期間があるのがご理解頂けますか?
 それぞれの季節、土用の期間の間にはその区切りとなる太陽視黄経と、毎年その状態となる大体の日付を書き加えてあります(※注意 日付は年によって1日程度前後することがあります)。
 
季節の交替と土用の役割
 季節と季節の間に置かれた土用の意味について、五行説では「土用」には季節の交代を円滑に進めるという意味があると考えています。それは土には、死んだものを「土に還す」性質と「命を育成する」二つの性質が兼ね備えられており、異なる季節の間に「土用」を置くことで、消滅する古い季節と、まだ充分に成長していない新しい季節の性質が静かに交代して行くと考えたのです。
 
「土用」のついた言葉と行事
 「土用」と名の付いた、行事や言葉は沢山あります。ただ、そのほとんど(全部?)が夏の土用に関係したものばかり。本来、四季それぞれにあるものだった土用が現在では「土用と言えば夏の土用」という状態になってしまったためでしょうね。ここでは、今に残る様々な「土用」の行事や言葉を拾ってみます。
  • 土用波(どよう なみ)
     7月の半ば頃から9月下旬頃まで、太平洋岸で見られる大きな波のことです。遠い洋上の台風が生み出した波が重なり合うように大きなうねりとなり、数百km以上も海を渡ってやってくる大波です。こう考えると何となくロマンチックな感じですが、海水浴上などではこの波が元で遊泳禁止になることも。いいことばかりではありません。
  • 土用三郎(どよう さぶろう)
     土用入りから三日目のこと。土用の入りから太郎、次郎、三郎と日を数え、三日目の土用三郎といい、この日の天気で秋の作物の収穫を占いました。彼岸太郎、八専次郎、土用三郎、寒四郎といい、この日が晴れると豊作、雨なら凶作とされました。
  • 土用灸(どよう きゅう)
     夏の土用の時期に灸を据えると効果があるという俗信があります。土用の期間だから特に効果が高いかどうかは判りませんが、暑さに弱った身体には灸による健康増進作用が必要だというのは、古人の生活の知恵なのかも知れません。
  • 土用干し
     夏の土用の、天気のよい日を選んで行う陰干のこと。虫干し。書画や経典、衣類などに風を当て、虫や黴の害を防ぐために行うものです。旧暦時代、宮中では七月七日(七夕の節供の日)に行っていたそうです。
  • 土用+鰻(うなぎ)・蜆(しじみ)・土用餅(もち)・土用卵(たまご)
    土用蜆土用餅
    蜆
    餅
     夏の土用に食べる物と言えば、「鰻」が有名ですが、他にも蜆、餅、卵などいろいろなものが土用に食べるとよい食べ物とされていました。何れも、栄養価の高い食べ物で、暑さで弱ってしまった身体に英気を取り戻すために食べることが推奨されたのでしょう。
     また、「う」のつく食べ物も土用に食べるとよいという話もあって、鰻もその一つですが、他には、うどんや梅干しなども好んで食べられたとのこと。こちらの説は夏の土用の期間にあって、特別な意味のある「丑の日」の「う」と関係があるのかもしれません。
    ※(夏の土用と丑の日との関係については、土用丑の日、うなぎの日?に書いておりますので、気になる方はこちらも合わせてお読みいただけると嬉しいです。
土用と迷信
 土用の期間は「土の気」が強く働く期間です。この土気の化身として「土公神(どくじん)」という神が考え出されました。土用の期間はこの土公神が支配する期間なので、

 土をいじること、掘り返すこと、井戸掘りすること、
 竈の修造、基礎工事、柱立てなど

は土公神を害することとなって禍をうけると考えるようになりました。よってこの時期にそうした行為を行うことがタブーとなりました。
 建築、下水道工事、農業などに従事する方々の間では現在でもこのタブーは生きていているようで、時折そうした質問を受けることがあります。一旦生まれたタブーはなかなか消えることが無いものらしいです。
 
土用と間日
 さて、土用と迷信で土用の期間のタブーを紹介しましたが、土用は各季節ごとに18〜19日も続きます。いくら土公神様を憚っていても一年のうちの 1/5の期間工事も何も出来ないとあってはそうした仕事をする人たちはたまったものではありません。そうして考え出されたのが

 土用の間日(まび) 

というものです。何でもこの土用の期間、そのタブーで難儀している人々を見かねて文殊菩薩様が土用の期間のうちの数日、土公神一族を天上の清涼山に集めて下さるようになったため、この数日間は地上に土公神様がいらっしゃらなくなるので土を動かしても祟りを受けないというのです。この数日間を「土用の間日」と呼びます。
 土用の間日は、その時期と日の十二支でいつになるかが決まることになっています。その関係をまとめたのが次の表です。

土用の間日の規則
時期⇒春の土用夏の土用秋の土用冬の土用
日の十二支巳・午・酉卯・辰・申未・酉・亥寅・卯・巳

まるで「取って付けた」ような話ではありますがこうして、土用の期間でも工事関係者等が作業出来る日が出来た訳です。
(実際の間日がいつになるかの計算には 土用と土用の間日、丑の日の計算 をお使い下さい。)

※記事更新履歴
初出 2008/07/16
修正 2022/07/26 (文章加筆修正、画像追加)
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