月を照らす地球の光・地球照(ちきゅうしょう)
 市街地では街の明かりが一晩中輝いていて、夜空に満月が輝いていてもそれに気づかない事さえあります。しかし、人家のまばらな郊外に出かけてみると月の光が案外と明るいことに気づきます。満月の夜などは目が暗闇に慣れるにしたがい、太陽の下でながめる景色とは違った色のない世界を発見することがあります。
 さて、こんな月に照らし出された夜の地球を、宇宙からながめることが出来たとしたらどういう風に見えるのでしょうか。太陽に照らし出された明るく輝く半球の他に、かすかに青白く月に照らし出される地球の半球が見えるのでしょうか。

 地球が月に照らし出された姿はを見ることは現時点では人類の99.999%くらいの人間には出来ませんから、これとは逆に地球に照らされた月の姿から想像してみることにしましょう。

 みなさんは、夕方の空に細く輝く三日月を見たことがありますか?。だれでも一度や二度は「きれいな三日月だな」などと思い家路へ向かう足を止めたことがあると思います。そのとき月の細く輝く部分の他に、かすかに青白く光る部分があることに気づいたことはありませんか?。
地球照  もし気づいていないという方、あるいは気づいていてもあまり詳しく見ていないという方は、次にそういった月を見る機会があれば、目を凝らしてよく見てください。とても淡い光ではありますが、その淡い青白い光の中に微かに、月の模様が見えるはずです(右の画像は、そのイメージを示したものです)。
 地球では、大気の散乱(太陽の色・月の色参照)のため、空の四方八方から光が届くため、太陽の光が直接当たらない日陰でも「真暗な闇」にはなりません。しかし、大気の無い月ではそんな現象は起こりませんから、太陽の光の当たらない日陰は「真暗な闇」に沈み、「青白く光る」ようなことはありません。
 ではなぜ、三日月の陰の部分は淡く光るのでしょう?
 これが今回のテーマ、地球照(ちきゅうしょう)です。

実際の地球照
地球照の実例
三日月をわずかに過ぎた月。
暗い側にも模様が見える。
 満月の夜が明るいのは、太陽に照らされた月が反射した光で地球の夜の部分を照らしているからですが、これと同じ事が月でも起こっています。新月に近い頃の月から地球をながめると、満月のような形に見えます。月の陰の部分を照らし出していたのは「満月のように輝く地球の光」だったのです。

 「満月」と「満地球」の明るさ比較

満月はいいとして、「満地球」なんて言う言葉はありませんが、ここでは説明のためこの変な言葉を使わせていただきます。
満月と満地球の面積比較
月の半径は約1740km。対して地球の半径は約6380km。そうすると地球で見上げる満月の面積と、月面からみた満地球の面積の比率は
満月の面積 : 満地球の面積
   = (1740 * 1740) : (6380 * 6380) ≒ 1 : 13.4
となります。地球は大きいですね。
 
満月と満地球の反射能比較
反射能とは光をどれだけ反射するかという割合のこと。数字が大きくなるほど光を良く反射します。
 月の反射能 : 地球の反射能
   = 0.06 : 0.30 = 1 : 5
明るく見える月ですが、反射能は0.06(6%しか光を反射しない)と意外なほど小さな値です。
 
満月と満地球の明るさ比較
 満月の明るさ : 満地球の明るさ
   = 1 : 13.4 * 5 = 1 : 67
 なんと、驚いたことに月で見た「満地球」の明るさは、満月の67倍も明るい事になります。満月が地平線から昇る様子はなかなか素敵なものですが、もし月に立って、地平線(月平線?)から昇る地球の姿を見たとしたら壮大な風景でしょうね。
追記:この件に関して、「月は地球に対していつも同じ面を向けているのだから、「月平線から昇る地球」は変じゃないかとのご指摘を受けました。その通りですね。ご指摘ありがとうございました。お詫びして訂正いたします。

地球の出アポロ計画で月まで旅した宇宙飛行士たちが最も好んだのは月の陰から姿を現す地球の姿だったそうです。

 私たちが、細い月に見るうっすらと輝く地球照は、この満月の67倍も明るい地球の反射光によって照らされた月の姿だのです。暗い宇宙を旅するパートナーが暗く寂しくならないように照らしてあげているのかな?
 ただ、最初のはなしに戻れば、そんなに明るい地球が照らしてさえも、あんなに淡い輝きにしかならないのですから、満月に照らされた地球の夜を宇宙から見ることは難しいのかもしれませんね。
「余 談」
 アサー・C・クラークの「地球照」というSF小説があります。大昔に読んだものなので細かい内容は忘れてしまいましたが、その印象的なタイトルと終盤に描かれた月面での音のない戦闘(真空中での戦いなので)の描写だけが鮮明に記憶に残っています(かつてのSF少年談)。
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