萩の花見
萩の花見
萩の花 十月に入り、秋も大分深まって参りました。そんな秋の深まりを感じながらの今回の暦と天文の雑学は「花見の話」です。ただし、今回の花見の話は、今は忘れられてしまった万葉の頃の花見の話です。

◆万葉集に見る「花見」の花は?
 現在、花見と言えば花は桜、季節は春ですが、万葉の時代の花見は違っていたようです。
 万葉集にも桜と思われる花の歌が40首あまり残されていますが、この中に花見を思わせる歌は一つもない・・そうです(万葉集の研究者の方々の受け売りです)。
 万葉集で「花見」という言葉が使われている花は二種類。一つは梅、そしてもう一つは萩です。
 万葉集の歌が詠まれた時代の梅は、中国から輸入されたばかりの珍しい植物で、そのほとんどは貴族の庭園に植えられていたものでしたから、梅の花見は当然この貴族の館での花見となります。貴族の館での花見ということですから、梅の花見は一部の限られた人達だけの花見だったと考えられます。
紅萩 これに対して、萩は山野(主に開けた草地)に自生する植物でしたから、萩の花見は庭園ではなく野外での花見だったはず。そして、誰でもが楽しむことの出来た花見が、萩の花見だったと考えられます。
 右の2枚の写真はどちらも萩の花。花の色は赤紫色の紅萩が多いですが、白色の白萩もよく見掛けます。
白萩 萩は、今はそれ程注目される植物ではありませんが、万葉時代はそうではなかったようです。その証拠は万葉集に登場する数です。万葉集には160種類以上の植物が登場するそうです(ここで再び、万葉集研究者の方々の受け売りです)が、その中で登場回数が最も多いのが萩なのです。その回数は142回。今は「花といえば桜」といわれる桜ですが、万葉集での登場回数は萩の1/3にも及ばないのだそうです。また、山上憶良の詠んだ有名な秋の七種の中にも数えられています。
【参考記事】
秋の七草」( http://koyomi8.com/reki_doc/doc_0610.htm )
確かに萩の花は派手さはありませんが、よく見れば清楚な花で、色も鮮やか。もっと注目されてもよさそうな気がします。

「萩の花見」の様子 
  秋風は涼しくなりぬ馬並(な)めて
   いざ野に行かな芽子(はぎ)が花見に
  (万葉集 巻10 第2103)
萩の原 萩の花見を詠った歌です。この歌からすると馬を並べて野外の萩の花を眺めに出かけたようです。萩は背の低い木ですから、馬から眺めるとすると見下ろす形での花見となったのでしょうか。きっと朝露に濡れた草を踏み分けての花見だったことでしょう。
 現在は馬に乗ってというのは、なかなか難しいですが、萩の咲く野原ならば郊外に行けば案外見つかるものです(丈夫な萩は、造成後の空き地などで、のびのびと暮らしています)。また、公園や庭に植えられていることも多いですから、そうした萩の花を探して歩いてみるのは楽しいかも。
 秋に花見をしませんかなんて誘ったら、誘われた人はキョトンとすることでしょうが、そんな驚いた顔を見るのも楽しみの一つとして、万葉集の昔に思いを馳せ、誘い合わせて「萩の花見」に出かけてみませんか?

おまけ・・・お萩 
 「萩」というと植物の萩ではなくて「お萩」を思い浮かべる方もいるのでは?
萩の餅 この「お萩」は、萩の餅のこと。餅とはいいながら搗き餅ではなくて、糯米(もちごめ)や粳米(うるちまい)を炊いたものを、軽く搗いて丸めたものに餡や黄粉で包んだものです。秋の彼岸の供え物としては定番の一品。
【参考記事】
お彼岸の話」( http://koyomi8.com/reki_doc/doc_0730.htm )

 「萩の餅」という名前は、煮た小豆の皮の姿を残した餡に包まれた姿が萩の花が咲き乱れる姿に似ているからだとか。この説のとおりだと、お萩の餡は漉し餡でなく、小倉餡がよいのかな?
 ちなみに、萩の餅とそっくりなもの(同じ?)に「ぼた餅」があります。こちらは牡丹の花に似ているということからこの名になったのだとか。両者の区別は、
  1. 春には牡丹に見立ててぼた餅、秋には萩の花に見立てておはぎ
  2. 芯が糯米(もちごめ)主体であればぼた餅、うるち米主体であればおはぎ
  3. 表面の餡が漉(こ)し餡ならぼた餅、小倉餡ならおはぎ
 「和菓子ものがたり」(中山圭子著)
という具合。萩の花見にお出かけの際には、秋ですからお弁当箱には小倉餡のお萩を・・・。
よろしくお願いします。
余 談
萩は草じゃない!
 萩は秋の七草に数えられることが多いのですが、植物学的には草(草本植物)ではなくて木(木本植物)です。茎を切断すれば歴とした年輪も見られるのだとか。いわれてみればあの茎は、草にしては固すぎる。
 とはいいながら、大木になったりはしないので、あまり「木」という気はしませんけれど。
※記事更新履歴
初出 2017/10
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