暦に関係する名字・難読姓
暦に関係する名字・難読姓
 私の名字は日本人の中で多い順に数えて常にトップ3に入るポピュラーものです。そのためでしょうか、視力のよい人が眼鏡にあこがれるように、珍しい名字に対するあこがれがあります。そのあこがれを満足すべく、本日は珍しい名字の話です。とはいいながらここは「こよみのページ」ですので、暦との関係がありそうな名字限定とさせて頂きました。悪しからず。
と4カテゴリー(+コラム)に分けて順に説明を加えました。
 なお、名字の由来が判るものについては極力書き入れましたが、由来不明も沢山ありました。お許しください。

【暦月(+暦日+α)の名字】
    名字主な読み
    正月しょうがつ,しょうげつ,むつき,まさつき
    一月いちづき
    三月みつき
    二月田にがつだ
    三月田さんがつだ,みつきだ
    四月一日
    四月朔日
    わたぬき,わたぬぎ
    五月さつき
    五月女さおとめ,さつきめ,さうとめ,そおとめ
    五月日ごがつひ,さつきび
    五月田さつきだ
    八月一日
    八月朔日
    八朔日
    ほずみ,ほづみ,ほうずみ,ほぞみ
    十二月田しわすだ
  • 正月さん
     由来は各地にある正月の付く地名からとも、正月屋という屋号から。または、地名由来の「正月谷(しょうがつたに)」の分家が名乗った名字ともいわれます。
  • 一月さん、三月さん
     「三月」は3ヶ月ではないかと推定される。「一月」の由来は不明ですが三月同様、暦月名ではなく、一ヶ月の意味なのかもしれません。
  • 二月田さん、三月田さん、五月田さん
     「二月田門」の由来は薩摩藩にあった農地管理制度の門割(かどわり)にあった二月田門という門名から生まれたといわれる名字。三月田、五月田も同様です(十二月田については後述)。
  • 四月一日さん、四月朔日さん
     綿貫の異形。有名な難読姓です。旧暦四月一日は衣替えの日で、着物から冬用の綿を抜いたことから「ワタヌキ」にこの文字を当てたといわれます。
  • 五月さん
     後述する和風月名の「皐月」の異形ではないかといわれます。
  • 五月女さん
     「早乙女」の異形。旧暦五月は田植えの月であったことから、田植えをする女性を表す「サオトメ」にこの文字を当てたものと考えられます。
  • 五月日さん
     長野県木曽郡木祖村にある五月日という地名に由来する名字といわれます。
  • 八月一日さん、八月朔日さん、八朔日さん
     「穗積」の異形。旧暦八月一日頃に稲の穂を摘むところから連想して出来た名字だと考えられます。読み方がいろいろありますが、いずれも「ホヅミ」から出たもののようです。
  • 十二月田さん
     埼玉県川口市にかつて存在した「十二月田」(十二月の祭礼費用を供する神田の意味)の地名に由来する名字といわれますが、現在は消滅してしまったといわれています。なお現在は地名もなくなってしまいましたが十二月田小学校という学校が残っています。

※Coffee break
○月田の謎
 薩摩藩の門割制度の門名に由来するといわれる二月田、三月田、五月田ですが、この門割制度の門名には四月田門,六月田門~十月田門もしっかりあり、これにちなんだと思われる四田,六田~十田という名字があるのですが、なぜかこちらには「月」が付かないようです。
 「月」が付くものと付かないもの差は何だろう? 誰か教えて!

【暦月名の異称(和風月名等)の名字】
    名字主な読み
    睦月むつき
    如月
    衣更着
    きさらぎ
    弥生やよい
    卯月うづき
    皐月
    さつき
    文月ふみつき
    葉月はづき
    仲秋なかあき
  • 睦月さん、如月衣更着)さん、弥生さん
     一月、二月、三月に対応する和風月名です(衣更着は如月の異形)。
  • 卯月さん、皐月)さん
     それぞれ四月、五月の和風月名です。卯月は「宇津木」の異形と考えられます。皐月は兵庫県加古郡播磨町周辺発祥の「皐」から生まれた名字といわれます。
  • 文月さん、葉月さん
     それぞれ七月、八月を表す和風月名です。
  • 仲秋さん
     旧暦の八月の異称です。ただしこちらは和風月名ではありません。旧暦では秋は七・八・九月の3ヶ月とされており、八月は真ん中の月なので仲秋です。

※Coffee break
暦月の兄弟関係?
 旧暦では1年12ヶ月を3ヶ月毎に春夏秋冬にわけ、さらにそれぞれの3ヶ月を孟・仲・季の3つに分けました。この孟・仲・季は中国では兄弟の順番を表す文字です。3兄弟で考えると、孟は長男、仲は次男、季は末っ子(三男)となります。秋の暦月で考えると、七月が孟秋、八月が仲秋、九月が季秋となります。ですから「仲秋」が八月の異称となるわけです。

【二十四節気と節供、年中行事に関連する名字】
    名字主な読み
    夏至げし
    立秋たてあき,たちあき,さとあき
    冬至とうじ
    上巳じょうみ
    七夕たなばた
    中秋なかあき
    名月めいげつ
    月見つきみ
    月見里つきみさと,やまなし
    七五三しめ,なごみ
  • 夏至さん、立秋さん、冬至さん
     いずれも二十四節気の名で、夏至は五月中気、立秋は七月節気、冬至は十一月中気です。難読名字ではないですが、暦関連の珍しい名字ですので採り上げました。
  • 上巳さん、七夕さん
     三月三日は「上巳」の節供、七月七日は「七夕」の節供です。
     「上巳」は東京にわずかに見られる名字ですが由来は不明です。「七夕」は全国に点々と見られる名字で、七夕行事に由来するもの、段々畑を表す棚畑(たなばた)の土地の名に由来するもの等があるといわれます。
  • 中秋さん、名月さん、月見さん、月見里さん
     月見の日である旧暦八月十五日を指す「中秋」も含め、何れも月見を連想させる名字です。
     「月見里」は「山梨(やまなし)」の異形で、山がないので月がよく見えるので月見里の文字を「やまなし」に当てたといわれます。ただし、現在では「やまなし」より文字どおりに「つきみさと」と読むことが多くなっているそうです。残念ながら、他の3姓については由来は不明です。
  • 七五三さん
     七五三行事を連想させる名字です。由来は神道の注連縄(七五三縄)ではないかと考えられています(読みに「しめ」があるのはそのため)。「なごみ」の読みは「七(な)五(ご)三(み)」からだと考えられます。

※Coffee break
八月十五日さんは幽霊?
 中秋さんでふれたとおり、旧暦八月十五日が中秋であることから、「中秋」にかけて生まれたという非常に有名な日付の付いた難読姓が「八月十五日(なかあき)」。ただし実存しない名字。ちなみに、こうした存在しない架空(?)の名字を俗に「幽霊名字」といいます。八月十五日は最強の幽霊名字かもしれません。

【その他の暦関連名字】
    名字主な読み
    うるう,うるい
    さく,はじめ
    晦日みそか,ひづめ
    朔晦たちごり,たちこり,たちもり
    日月じつげつ,たちもり
    日日ひび
    元日田がんじつだ,がんにちだ,もとひだ
    三日田みかた,みかだ
    四日よっか,しか,よつか
    九日くにち
    三日月
    三ヶ月
    みかづき,みかつき,みかげ
    十五夜
    十五月
    三五月
    望月
    もちづき
    十七月
    十七夜月
    かなき,かたし,かなう,かのう,かなぎ
  • さん
     閏年や閏月などに使われる「閏(うるう)」の名字ですが、由来は良い意味で湿り気のある土地を示す「潤(うるう)」の異形として生まれたようです。
  • さん、晦日さん、朔晦さん、日月さん
     特殊な「朔晦」と「日月」の読みは朔日(ついたち)と(月末=)晦日(つごもり)から出来といわれます。
     4つの名字はいずれも古くから存在する名字ですがその由来ははっきりしません。
  • 日日さん
     一説に「日下部」から発した(略した)名字といわれますが詳細は不明。
  • 元日田さん
     日当たりの良い田を「日田(ひだ)」といい、さらに新しい日田が開墾されると以前の日田を「元日田(もとひだ)」と呼んだことから、これが地名となり、名字になったといわれます。元々は暦とは無関係の名字でしたが、他国の人が誤って「ガンジツダ」と読んだことで広まったといいます。誤読が元で「元日」に関係した名字のようになってしまったようです。
  • 三日田さん
     秋田県に見られる名字で、地名由来ではないかと考えられていますが詳細は不明です。
  • 四日さん
     富山県の四日市村(現高岡市四日市付近)の村名が由来です。
  • 九日さん
     鹿児島県、福岡県に多く(といっても10人単位)存在する名字。門割制度(二月田参照)の九日門に由来するという。九日門の名は九月九日の祭礼(重陽の節供関連と思われる)に奉仕する門であるからといわれます。
  • 三日月さん、三ヶ月さん、さん
     各地の三日月の地名から。あるいは三日月信仰(月星信仰の一つ)から生まれた名字といわれています。三ヶ月、朏は三日月の異形ではないかといわれます。
  • 十五夜さん、十五月さん、三五月さん、望月さん
     十五夜、十五月、三五月は何れも望月の異形と考えられます。望月は長野県佐久市望月に発祥した古い名字です。平安時代にはこの地(長野県佐久市)に馬を育てる大きな牧があり、八月十五日(旧暦)に駒ひき儀式のために都に貢納する馬を選んだことから「望月の牧」と呼ばれたことから望月が地名となり名字となったものです。望月の成り立ちから考えると、十五夜、十五月、三五月といった異形があるのは不思議ではなさそうです。
  • 十七月さん、十七夜月さん
     兵庫県付近に見られる名字で、十五夜の二日後の十七月に願掛けすると願いがかなうという言い伝えから生まれたものだといわれます。そのため、読みが「かなう」等となったと考えられます。

 以上、軽い気持ちで始めた暦に関係しそうな名字の話でしたが如何だったでしょうか? いろいろ探してみると面白いのですが、その由来は・・・というと、案外わからないものが多くて難儀しました。読んでくださった皆様が楽しんでくださったのなら、難儀した甲斐もあるのですが。

【参考資料】
 日本姓氏語源辞典(宮本洋一著)
 日本姓氏語源辞典(Web) 
 名字由来net 
 難読姓氏・地名大事典(丹羽基二著)
 姓氏苗字事典(丸山浩一著)
余談
ありふれた名字の長所?
家内の旧姓は比較的珍しいものでした。その昔、結婚してまだ1~2年の頃に「結婚して何かいいことあった?」と尋ねたら悩むこともなく、「三文判が買えるようになった」という答えが返ってきた。一番いいことは、そこだったようです。
※更新履歴
初出 2001/01/20
更新 2023/02/01語源説明大幅加筆。レイアウト変更。
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