戌の日と帯祝い(出産1)
帯祝い
帯祝いは安産を祈る儀式として行われるもので着帯祝いとも言われます(現皇太子妃の愛子内親王御懐妊のおりの「着帯の儀」と同じです)。
妊婦が安産を祝って岩田帯を腹部につける祝いです。帯掛け・帯回しとも呼ばれます。
時代・処により帯祝いの時期は異なり三・五・六・七ヶ月といろいろですが、現在はほぼ妊娠五ヶ月に入った頃から行うようです。

  • 帯祝いの行事
    正式な岩田帯は紅白の絹二筋と白木綿を用いるそうです。この帯は妊婦の実家から贈る場合が多いようです。帯の長さについては六尺ほどですが、健やかな子の成長を祈って七尺五寸三分(七五三)とするところもあるようです。
    岩田帯この帯を既に子宝に恵まれた夫婦が「帯親」となって巻くのが正式ですが、そこまですることは現在は稀なようです(我が家ではそんなことまでした記憶はありません)。
    帯祝いの際の絹の帯はあくまで儀礼的なものなので、普段は木綿の帯を用います(最近はコルセット式の腹帯などが普及)。
    写真は、「犬印」でおなじみに某社から購入して家内が使っていた腹帯の実物です。木綿製のものです。

  • なぜ「岩田帯」というのか?
    岩田帯は「斎肌帯(いはだおび)」がその名の由来と言われます。
    現在に近い形の行事は既に平安時代ごろにはあったと言われています。建礼門院が安徳天皇懐妊の折り(1177年)に行った着帯の儀の模様が記録に残っていますが、記録されたそれは現在とあまり違っていません。
    「斎」は物忌みの意味がある言葉。斎肌帯には、様々な禁忌がある妊婦に、それらの禁忌を忘れぬように行うという意味合いが含まれていると考えられます。

  • 岩田帯の効能と歴史
    岩田帯は母体と胎児を守る効果が有るとする説がありますが、これに関しては賛否両論があるようです(詳しい話はお医者さんに聞いて下さい)。
    また、腹帯のような習慣は西洋はもちろんのこと隣の韓国や中国にもないそうですから、日本独特の習慣のようです。他の国々には似たようなものが無いことを考えると医学的な効能は疑わしい気がします(あくまでも素人の私見です)。

    腹帯とおぼしきものルーツを探ると伝説上の神功皇后の説話の中に腰に石を吊ったというものが既に登場します。また古い時代には魚の干物や熊や猪の肝などを腹帯に巻き込む風習もあったらしく、こうしたことを考えると、腹帯は実利的なものというより呪術的なもののように思えます。
    もっと解ってきたら、また補足します

  • 戌の日
    帯祝いは妊娠五ヶ月目に入った戌(いぬ)の日に行うのが一般的です。
    地方によっては三ヶ月、六ヶ月、七ヶ月と言うところもあるそうです。
    「戌の日」とは日に配当された十二支の「戌」にあたる日。十二支の一つですから、12日に一回、つまり1月に三回程度巡って来ることになります。
    来月の「戌の日」は?といったことを調べたい方は、
     「その他の暦日計算」に収めております

     日付の六輝・干支による検索 
     ( http://koyomi.vis.ne.jp/cgi/reki_se.cgi?AG=0 )

    で干支に「戌」を選んで実行して下さい。

  • なぜ戌の日?
    普通に言われるところによれば、犬(戌)のお産が軽い(安産)であることから、これにあやかって戌の日に安産を願う帯祝いを行うのだそうです。
    犬印(偽物・・) 犬にあやかると言うことから、腹帯に「犬」「戌」の字を書く習慣もあり、腹帯で有名な某社は、「犬印」をシンボルとしているわけです。
    • 再び「犬」との関係について(私の勝手な考え)
      しかし、動物は概して人間に比べて安産です(動物が安産と言うより、人間が難産なわけですね)。十二支に配当された他の動物もしかり。ほとんどが安産。犬だけが特別安産というわけではありません。

      地方によっては、安産の守りとして熊や猪(亥の日)を祭ったりする場所もあるので安産に関しては犬だけが特別というわけではないと解ります。
      元は、そうした動物の安産にあやかると言うだけで、戌でも亥でも良かったようです。ではやがて「戌」に収斂したのはなぜでしょうか?

      犬と人間との関係は古く、3万年も昔から共同生活を送っていたとも言われています。獰猛な野生動物の脅威から人間の集団を守ることにおいて、犬は古くから活躍していました。人間の集団と外界との境界で外敵の侵入をいち早く察知しそれを知らせ、人間の集団を守るという役割を犬は果たしていました。
      そうした犬の特別な役割からやがて、犬は外敵から身を守る呪術的な力の象徴と考えられるようになったのでは無いでしょうか。犬のその呪術的な力で新しい生命を外敵から守ってほしいという願いから、いつしか「戌の日」の安産祈願となったのではないかと考えています(思いこみかな)。


  • 水天宮の「鈴乃緒」
    東京都中央区に有る水天宮は、安産に霊験あらたかな神社として知られています。
    この水天宮、元は有馬藩の藩邸内にあった社でした。領地である九州の久留米の水天宮の分社として建てたものだったのです。藩邸内にあったため普段は一般の参拝は出来なかったのですが、毎月五日は、門を開け一般の参拝を許したそうです。

    この参拝の際に、鈴についているサラシの紐(鈴乃緒:鈴を鳴らすためについているあれ)のお下がりを腹帯にしたところ、大変産が軽かったと評判になり、これを求める人が引きも切らないほどとなったとか(このため、賽銭で有馬藩は、年間三千両もの収入を得たそうな)。この鈴乃緒、毎月1度は交換することから、水天宮では交換した古い鈴乃緒を希望者に分け与えるようになったそうです。

    (現在では、戌の日にお祓いをすませた鈴乃緒を、毎日分けているそうです。詳しくは、水天宮のサイトをご覧ください)
余 談
大安の戌の日
「戌の日」は十二支に配当された日であるから12日に1度巡ってきます。
これに対して「大安」は六曜ですから6日に1度巡ってきます。12は6の倍数ですので、上手い具合に大安と戌の日が一致すると次の戌の日も大安である場合が多く、同じく「仏滅の戌の日」となると次も「仏滅の戌の日」となる率が高いです。
六曜の場合、旧暦の月が変わると起点が変わるので十二支との組み合わせも変化するのであるが・・・。気にしないのが一番ですね。

胎児の生存権を保証するもの?
今よりずっと農業技術が低く、また社会的な保障などが未整備であった昔では、時により子供の誕生は喜ばれなかった場合もあります。そのため堕胎や流産なども多かったと思われます。しかし、この帯祝い以降は「将来の社会の構成員候補」として認知され、堕胎はもちろん禁止され、流産の危険を減らすため労働の軽減措置などの考慮がなされるようになります。
言ってみると、腹帯は胎児が生存権を認められた証拠であり、帯祝いはその承認の儀式だあったとも考えられます。

ちょっと変わった帯祝い
北陸の一部では、腹帯は夫の褌が良いとされる地域もあり、現在でも、儀礼的に一度褌のように夫が腰に締めてから帯祝いを始めるそうです。
幸いというか、何というか私・家内どちらの家も、そういう習慣が無かったので、私は「褌」をしめなくて済みました。
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