鼻
(2005.2.12[土])
「タツ金、退院しました」
写真の貼付されたメールが送られてきた。 画像を開くと、ぶすっとした大きな顔が写っていた。 退院直後である、きっと疲れて不機嫌だったのだろう。
タツ金は和歌山で飼われている金魚の一匹。 「トウサン・カアサン・トモノリ・タツノリ」 の四匹の金魚が飼われている。我が家は四人家族で、数が同じであったので上記の名前がつけられた。とは言いながら、
「トモノリ、ごはんだよ」
と呼んだときに、金魚と人間の両方が寄ってくるようになると困る。えさの内容は金魚と人間では違うのだから。そのために、普段は「トモ金、タツ金」と呼んで人間と区別をつけている。
この四匹の金魚のうちで、タツ金は病弱である。時々目の周りや体にもやもやとしたカビのようなものが生えて、弱ってくる。 現在は飼い主の妻が綿棒でそのカビをとってやっているが、具合が悪そうな時には薬入りの青い水の入った容器に一匹だけ移されて、数日を過ごす。いわゆる入院である。
今回は「ブルーレットの水」と呼ばれる薬入りの水で三日を過ごした後の姿である。 不機嫌そうな顔でこっちを向いているタツ金の顔には、つらい闘病の跡を物語るように薬で青く染まった鼻の穴が見える。
「薬で鼻が青くなってるね」
最初の入院の時にも、同じように鼻の穴が青く染まっていた。
「やっぱり、ずっとブルーレットに浸かっていると、鼻が青くなるんだね」
と話をしたのだが、何かおかしい。
「鼻が青くって、金魚にも鼻があった?」
そうだ、タツ金は金魚である。魚類である。鼻と言えば人間にあっては臭いを感じる器官であるがそれ以前に、呼吸のための器官でもある。 魚類であるタツ金は、鼻で息をするはずがない。あの青く染まった「鼻の穴」は一体? 今はタツ金の病状よりも気になる鼻の穴。携帯電話のカメラで写された写真ではその詳細がよくわからない。
帰ったらどうなっているか、よーく見てみようと思う。 鼻の謎を解くための十分な時間を得るためにも、タツ金、長生きしておくれ。 何はともあれ、
「退院おめでとう」
である。
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答えはどこに
(2005.2.6[日])
光が射していた。立春の日の朝、 冷たい大気を通って、陽の光が射していた。
正しい答えを教えてください
こよみのページを開いていると、いろいろな質問のメールが届く。 多くのメールには「答えを教えてください」と書かれている。時間がとれずになかなか返事が出来ないこともあるが、それでも出来る限り質問には答える。
月齢はどうやって求めるのか 来年の旧正月はいつか 旧暦の方が日本の自然に合うのに、なぜ新暦を使うのか おなじ日でも暦注により吉凶が異なる。どちらが正しいのか
簡単に答えられるものもあるし、答えるには時間がかかるものもあるが、暦についての質問ならばそのほとんどにそれなりの回答は用意できる。それでも時として、
それはあなたが判断するべきことで、人に答えを求めるものではない
としか答えようのないメールがある。 どんなことにも、訊ねれば得られる答えがある思っているのだろうか。
A型なんですか。やっぱりね。A型の人は、几帳面で・・・
会って間もない人に血液型ひとつで蕩々と「私の性格」を解説されたことがある。 自分の性格を60文字で書き表せと言われたら、当の私は頭を抱えてしまうに決まっているのにである。 本当に血液型と性格に何らかの相関があったとしても、多種多様な人間の性格をA/B/O 式による4種類に分類するのは乱暴すぎる。無理に分類したとすれば、それぞれの型の間には広大なグレーゾーン出来てしまうだろう。
しかし、「A型の人は」と解説してくれる人達は、グレーゾーンにはお構いなしでA型かB型か、白か黒かと出来合いの答えを語り出す。
「私」ではなく、そうして得られた出来合いの答えを通して「私」を見ているのかもしれない。
答えを教えてください
「これが答えです」とさえ言ってしまえば相手は満足なのでは無いだろうかと思うことがある。 「答えです」と言われることで、安心が得られるのだろう。 それが正しいものだとか、自分の求める答えなのかとか、そんなことには実は関心が無いのかもしれない。
答えの判らない問いもある。 答えの得られない問いもある。 ひとつだけの正解がない答えもある。
緑の葉の生まれる傍らで、霜に打たれて枯れてしまった草の葉に朝の日が射していた。 陽を受けて白く光る草の葉は、何を意味しているのか。 その答えはいったいどこにあるのだろうか。
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