春だねぇ
(2005.3.18[金])
去年あたりだっただろうか、道路の歩道整備が行われ、歩道の外側の空き地に何本かの木が植えられた。街路樹らしからぬ葉をつけたその木が今年は、たわわに花をつけた。ミモザの花である。
一つ一つが小さなお日様みたいなミモザが歩道の脇で咲き出すと、寒々とした雰囲気の漂よっていたこの道が急に暖かくなったようだ。
春だねぇ・・・
ある日、ノックする音に気が付いてドアを開けた。だがそこには誰もいない。 おかしいなと思って視線を下げると小さい手が見え、頭が見えた。
たっちゃん
開いたドアの中をのぞき込むために上体を左に傾けながら、その頭の持ち主が言う。 そして、上体を傾けたままニコニコ笑いながら、何かを期待するように家の中をのぞき込んでいる。 立命(たつのり)に会いに来たのかと聞くと、
たっちゃん
とまたそれだけ答えて、ニコニコと中をのぞき込んでいる。
友達が来てるよ呼ぶと、トントントンと足音をたてて立命の裸足の足が廊下を駆けて来た。裸足で寒くないのかなと思う間に玄関にたどり着くと、
もえかちゃんだ
と一言。そして下唇を上の歯で噛むような口をしてニターッと笑う。絶対変な顔だが、本人にとっては得も言われぬ至福の表情なのだろう。
おさんぽいこ
ともえか(萌香? 萌花?)ちゃんが言うと、立命はニターッと変質者かと思われるような笑顔を作って靴を履いた。 もえかちゃんの家は、300m程向こう。三歳児が一人で来るには遠い距離だと思って外を見ると、ペコリと挨拶を返してくる人がいる。もえかちゃんのお父さんらしい。
靴を履き終えた立命が、玄関を出ると二人は親のことなど気にする素振りさえ見せず「おさんぽ、おさんぽ」と言いながら手をつないで歩き出す。 放ってもおけず、もえかちゃんのお父さんと一緒に後を付いて行く。
前を行く二人は、大人達の造った道など気にもとめず、草の生えた空き地や宅地造成途中の埃っぽい土の上を横切って、最短距離でもえかちゃんの家の方向に歩いて行く。
おさんぽ、おさんぽ
その声と、後ろ姿が妙に楽しそうである。
春だねぇ・・・
ミモザの春は私の実見。立命(タツノリ)の春は、家内の報告及び、いくらかの想像を交えて構成致しました。 by かわうそ
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霧の中
(2005.3.2[水])

寒い朝、外に出ると既に日が昇っているはずなのにあたりは夜明け前の薄闇の中にあった。 濃い霧があたりを覆い、朝の光を覆い隠している。
三寒四温といいたいが、まだ四寒三温といった塩梅の季節。 昨夜は夜更けから空気の冷たさが増してゆく気配があった。 目覚めた朝には、夜の間に積もった冷たさで、外は凍えるよう。 数日前には春らしい暖かさを感じたと思ったばかりなのに。
深い霧の朝、薄闇に騙されているかのように街もまだ夜明け前の眠りの中にいるようだ。 表通りを走る車の音も聞こえない。 音さえも霧に覆われて消えてしまたかのようだ。
東の方を見れば深い霧を漸く通り抜けた、力無い太陽の姿が微かに見える。 やがて太陽が力を増し、霧の力を追いやれば、景色にも様々な色が戻り、 その中には春の色も見つかるかもしれないが、今はまだ、 白練の霧と梢の影が作る冬の色の景色が続く朝だった。
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