田の水、温む
(2008.4.28[月])
「お兄ちゃんを迎えに行こう」
そう言って、タツと一緒に駅に向かった。 駅までは近道を通れば大人の足で 5分。小学一年生のタツの足なら10分と言うところだ。 次に電車が駅に着くまであと 7分。 ちょっと間に合いそうにないか。
駅までは田んぼの間の農業道路が近道。 区画整理された田んぼの間を縦横に走る舗装道路。 田んぼの間の道としては味気ない道だが、車の往来はほとんどなく歩きやすい道である。 それに味気ない舗装道路と道路の間には、まだ味のある田んぼのあぜ道も残っている。
タツの兄ちゃんは朝から電車で10分程離れた友達の家に遊びに出かけていた。 夕方には帰ってくると言っていたから、次に駅に着く電車に乗っているはず。 日に何本かしか電車が止まらない田舎の駅だから、連絡がなくても乗る電車はわかる。 タツの足に合わせて、駅までの近道を10分。さらに途中であぜ道道へとそれて道草を喰ってしまったから、駅の大分手前を歩いている間に電車は駅に着いてしまった。 ちょっと遅れすぎたか。 駅の方からは電車に乗っていたとおぼしき人の乗った自転車が走り出てきた。
まあ家に帰るには、どうせこの道を通るはずだから、このまま歩けば兄ちゃんにはそのうち会える。 そのままタツと二人で歩き続け、タツの兄ちゃんに出会えないまま家を出てから15分後に駅についてしまった。 心配になって家に電話すると、兄ちゃんは既に家にいた。 何の事はない、遊びに行った友達の家の人に車で送ってもらったそうだ。
「兄ちゃんは家にいるって」
というと、「エーッ」と声をあげたタツだけれど、そんな声をあげたくせに表情はちっとも残念そうでなかった。
タツと二人で駅に向かってきた道を、またタツと二人で引き返す。 ブラブラと二人で歩いていくと、舗装道路とあぜ道が交差する場所で、タツがあぜ道を指している。
「こっち行こう」
夕暮れの田んぼとあぜ道。 舗装された近道より、回り道のあぜ道に惹かれるタツと二人で道草喰い喰い歩いて帰る。 タツも私と同じで、道草喰いに育って行くようだ。
二人の足音に驚いて蛙たちが田んぼに逃げ込む。 蛙たちが逃げ込む先の田んぼの水に目をやれると、一日働いたお日様が逃げ出した蛙と同じ田んぼの水に、ちょうど飛び込むところだった。 お日様が飛び込んで、田んぼの水はまた少し温んで明日を迎えるのだろう。
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