フェンスの向こうに朱い色があった。夏になると彼方こちらの草むらから顔お出し、一面の緑の中に朱い色を落とす鬼百合の花が咲いたのである。フェンスの向こうには狭い畑地を挟んで雑木の山が広がっている。梅雨の間たっぷりと水を吸い、そして今は梅雨明け間もない夏の陽射しをたっぷり受けて木の葉の緑は一年で一番深い色合いである。みっしりと緑の詰まったフェンスの向こうの風景の中に一点の朱い色を落として、今年も鬼百合の花が咲いていた。近寄ると咲いたばかりの鬼百合の花に、黒いアゲハがとりついていた。花の時間は短い。アゲハは花をのんびり眺めている時間なんて無いと言わんばかりに羽を小刻みに動かしながら忙しく動き回っていた。
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