お盆(盂蘭盆)
お盆(盂蘭盆)

 本日の暦と天文の雑学は、「盆と正月」と言われるように昔から正月と並んで年中行事の中でも一大イベントだった「盆」、「盂蘭盆」の話です。
盂蘭盆
「盆」の期間
 盆は元々旧暦の七月十五日を中心とした行事だったのですが現在は、
  1. 新暦7月15日前後・・・おもに東京近辺
  2. 旧暦7月15日前後・・・沖縄など
  3. 新暦8月15日前後・・・関西他(俗に「月遅れの7月15日」と称す)
  4. その他の日付
 現在は3番目にあげた月遅れの盆が一番盛んなようです。この時期が学齢期の子供たちにとっては夏休みに当たり、「家族で田舎へ」といった計画には都合が良いからかもしれません。
 その他の日付としては、「釜蓋朔日(かまぶたついたち)」といって7月1日(新暦or旧暦)とする地域もあります。また、7月7日を盆の始めとする地域もあります。7月7日を始めとするのは古い日本の習俗では七夕も盆と同じく「祖先を祭る行事」であったことから、性格のよく似た時期的に近接した2つの行事が融合した物と考えることが出来ます(七夕のはなしもお読みください)。

 現在の盆は13日~16日というのが一般的。中には13日~15日という地方もあるようですので一概にこれとは言えません。日付に関しては時代によっても多少変化したようで室町時代は14日~16日であったとも言われます。現在のようになったのは江戸時代頃からといわれます。
 日付に関しては始めと終わりが多少異なることはあっても15日を含むという点では変わりがありません。
 
盂蘭盆
 「お盆とは盂蘭盆のこと」と説明されることが多い盆ですが、この盂蘭盆という行事は何かというと、中国で成立したとされる盂蘭盆経という仏教の経典に書かれた先祖供養の行事のことです。
 盂蘭盆経によると、釈迦の弟子の一人目蓮が、その心眼によって自分の母親が死後、餓鬼道に落ちて苦しんでいる姿を見通しました。目蓮は師匠の釈迦に、母親を苦しみから救うためにはどうすればよいか教えを請うと、釈迦は
 「目蓮一人の力では足りないので、七月十五日に衆僧を集めて供養して、その功徳によって救い出しなさい」
と命じ、この通りにすることで目蓮の母親は苦しみから救われたとのこと。この時に目蓮が行った衆僧を集めて行った供養が、現在まで続く盂蘭盆会の始まりだというのです。
 なお、盂蘭盆とは梵語で逆さ吊りを表す言葉だそうで、前出の目蓮の母親が地獄に落ちて逆さ吊りにされ、責めさいなまれていて、これを救おうと下のが始まりだったので「逆さ吊り」を意味する盂蘭盆という言葉がこの先祖供養の行事の名となったというわけです。記録によると我が国の盂蘭盆の始まりは推古14年(西暦606年)に法興寺で催されたのが盂蘭盆会の法要が最初で、天平5年(西暦733年)からは宮中で行われる仏事となりました。
 
迎え火と送り火
大文字の送り火
大文字の送り火
 盆の入り(13日)の夕方、家の門口で苧殻(おがら)・・・皮をはいだ麻の茎のこと・・・を焚いて祖先の霊を迎えます。これが迎え火です。
 盆明け(16日あるいは15日)の夕方に火を焚いて祖先の霊を帰します。これが送り火で、盆送り、送り盆などとも呼ばれます。
 迎え火、送り火の習俗は江戸時代に盛んになったものです。
 川や海に灯籠を流す行為も、京都の夏の終わりを彩る大文字の送り火もまた、盆の送り火の一つです。家の門口で焚く送り火に比べると、大分スケールが大きいですけれど。
精霊棚・盆棚餓鬼棚
 盆の期間中に精霊棚(しょうりょうだな)、先祖棚盆棚などという棚を作って、位牌、線香、花、野菜や果物、団子などを供える習俗があります。
精霊棚(先祖棚、盆棚)
守貞漫稿の精霊棚 現代の盆棚
左上の図は江戸時代に書かれた守貞漫稿という本に描かれた精霊棚の絵です(守貞漫稿には、作者が描いたこうした絵が沢山あって、当時の風俗をよく伝えてくれています。大助かりです)。右上の写真は、こよみのページの読者、Y.Yさんのお宅に設えられた盆棚の写真です(2004/8/15の写真)です。
Y.Yさんからの写真の解説 
 今年(2004年)の我が家は新盆に当たり、上段の線香立てが2つに増えている点と、前にぼんぼりがある点が普段と違います。
 上段にランプとろうそくがありますが、ふつうはランプだけです。また、今年は都合がつきませんでしたが、ほおづきの間には、20cmくらいの杉の枝をぶら下げます。

 精霊棚は先祖を祭ったものですが、同時に餓鬼棚(がきだな)と呼ばれる無縁仏を供養する棚も有ったそうです。
 この棚は別に作るところもあり、また精霊棚の下に食べ物を供えるだけのところもあったそうです。
 今と違って昔は行き倒れて亡くなる人も多く、そういった祭られることのない身元のわからない霊魂は人々に様々な災難をもたらす物とおそれられたことが、餓鬼棚で無縁仏を弔うと言う習俗を生んだのでしょう。
 現在は精霊棚や餓鬼棚などを作るところは少なくなっていると思いますが、季節の野菜や果物、団子などを供える(ナスやキュウリで牛馬を作って供えるのもその変形)などの行為は、まだ多くの地方で行われています。
 ちなみに、茄子で作るのが「牛」で胡瓜で作るのが「馬」だとか。先祖の霊を迎えるに際しては、少しでも早くやってきて欲しいと、胡瓜の「馬」で迎え、盆が終わって霊を送る際は、名残惜しんで、ゆっくり送り出すため茄子の「牛」を作るのだそうです。
 
精霊流し
精霊流 先に書いた送り火の一種。船にしつらえた灯籠を川や海へ流しこの灯籠と一緒に盆に迎えた先祖の霊を送り出す行為が原型です。九州北部での精霊流しは有名です。
 場所によっては葦で大型の船を造って流すようなところも有るのですが、最近は海や川にあんまり物を流せないので途中で回収していることも多いようです。時代が変われば仕方が無いのでしょうが、ちょっと残念な気もします。
 精霊流しの際には、盆の間に供えた野菜や果物などのお供え物も流します。これは祖先の元へ供物を贈るという面と、死の世界と関わった穢れを水によって清めるという面をもったものでしょう。でもそのおかげで、昔の盆明けの浜辺はさながら八百屋の店先のようだったかもですね。
 
盆踊り
盆踊り 今は娯楽行事(あるいは観光用の行事?)となっている盆踊りも元々は、盆に返ってきた祖先の霊を迎え慰め、そして返すための行事でした。
 元々の盆踊りは縦に列をなして踊る形であったようですが、現在では輪になって踊る輪踊りの形のものが一般的です。輪踊りの場合、中心に設えられていたものは精霊棚だったようですが、やがて盆踊りが一種のお祭りのようになって、精霊棚は太鼓(あるいはスピーカー?)の載った櫓に取って代わられてゆきました。
 時代が変われば、盆踊りも様変わりしてゆくと云うことですね。

盆と藪入り
 現在もお盆の時期は故郷への帰省ラッシュの時期です。
 現在よりも休みの少なかった時代でも、盆には奉公人が休みをとって実家に帰ることが出来る時期で、これを「藪入り」と称しました。
 この時期はまた、他家に嫁いだ女性が実家に戻ることの出来る時期でもあり、自分と自分の家(先祖、ルーツ・・・)の繋がりを確認する時期だったんです。
 現在、お盆の時期は学校の夏休みの時期にも当たっていることも有り、家族そろって田舎の実家に帰るという、帰省ラッシュが夏の風物詩となっていますが、帰省ラッシュのルーツはこの「藪入り」の監修だったのでは無いでしょうか?

余 談
「お盆」は本当に盂蘭盆?
 お盆の解説に盂蘭盆経の話しを書きました(まあ、一般的な解説ということで)が、本当は違うんじゃ無いかなと思っております。
 お盆における迎え火や送り火、精霊流し、盆踊りなどの行事にはすべて「祖先の霊を迎える・送る」という意味合いが含まれており、さらに共通する行事が日本中の地域に広がっているのですが、こういった内容は盂蘭盆経の内容とは全く無関係(先祖を弔うという点で辛うじてつながっていますけど)。無関係の習俗がこんなに普遍的に広がるとは思えませんので、本当のところは盂蘭盆とは無関係の祖先崇拝の行事が古来から有り、あとからやってきた外来の行事で意味の似ている「盂蘭盆会」が古くからの行事に取り込まれたのではないでしょうか?
 一説によると「盆」は供物を載せる器の総称としての「盆」とか。私自身もこっちの説の方が正しいような気がしております。

河村瑞賢の金儲けの秘訣?
なす・きゅうり 江戸時代の豪商、河村瑞賢。まだ貧乏だった若い頃、盆明けの品川の浜辺を歩いていると精霊流しとともに流された野菜がたくさん流れ着いていたそうな。で、閃いた若い瑞賢氏、このナスやキュウリを拾って塩漬けし、これをもって工事現場で働く労働者に売って稼ぎました。これが後の豪商河村瑞賢の濫觴と言うところ。
 厳しい保健所の目が届かなかったのどかな江戸時代の話しでした。

十五日の月
 太陽暦では15日には何の意味もないですけれど、太陰暦の時代はこの日は満月。昔は明るい夜を提供してくれる満月の夜に様々な祭が催されていたようです。お盆もそうした古い祭りの一つのようです。
※記事更新履歴
初出 2001/08/10
修正 2004/07/21,8/15 記事追加(後日追記)
 〃 2014/07/13 画像追加
 〃 2022/07/05 記事加筆、修正
■この記事を評価してください(最高5 ~ 最低1)
  • 良→
  • やや良→
  • 普通→
  • やや悪→
  • 悪→

※2010.6.1~の記事の評価   , 閲覧数 
http://koyomi8.com/reki_doc/doc_0735.html
暦と天文の雑学
http://koyomi8.com/
こよみのページ