暦と天文の雑学
http://koyomi8.com/reki_doc/doc_0742.html
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三伏の候・・・暑中見舞いの頃
一昔前の時候の挨拶で始まる暑中見舞いの定番の書き出しが
拝啓 三伏の候
だったそうです。暑中見舞いはおろか、年賀状さえ出さないずぼらな私がいうのもなんですが、近頃の暑中見舞いといえば、
暑中お見舞い申し上げます
と判で押した(現在は判で押すのではなくて、プリンタで印刷しますけど)ような書き出しで始まるものばかりでいささかつまらないです。ここは一つ、「三伏の候」なんてちょっとレトロな響きの言葉を使って、他の暑中見舞いとの差別化を図ってみるのもよいのではないでしょうか。
さて、このちょっとレトロな響きの「三伏」ですが、そもそも「三伏」ってなんでしょうね? ここからは暦の話として「三伏」について採り上げることにします。
2006/07/19 初出
2014/07/02 三伏の日付表の更新(2006~2015 → 2013~2022)
2020/07/15 三伏の日付表の更新(2013~2022 → 2019~2028)
2022/07/18 記事加筆修正・画像1枚追加
一昔前の時候の挨拶で始まる暑中見舞いの定番の書き出しが
拝啓 三伏の候
だったそうです。暑中見舞いはおろか、年賀状さえ出さないずぼらな私がいうのもなんですが、近頃の暑中見舞いといえば、
暑中お見舞い申し上げます
と判で押した(現在は判で押すのではなくて、プリンタで印刷しますけど)ような書き出しで始まるものばかりでいささかつまらないです。ここは一つ、「三伏の候」なんてちょっとレトロな響きの言葉を使って、他の暑中見舞いとの差別化を図ってみるのもよいのではないでしょうか。
さて、このちょっとレトロな響きの「三伏」ですが、そもそも「三伏」ってなんでしょうね? ここからは暦の話として「三伏」について採り上げることにします。
- 三伏の候とは?
三伏(さんぷく)という言葉は、暦注(れきちゅう)の一種で日本最古の具注暦(ぐちゅうれき)にも記載されています。三伏の時期は新暦でいえば7月中旬~8月上旬にあたり、夏の勢いが大変盛んで秋の気を伏する(降伏させる)日のことで、これが三度あるところから三伏といいます。
この三伏の時期は一年で一番暑い時期に当たりますから、夏の季語となり、酷暑の同義語としても使われるようになりました。そういうわけで、「三伏の候」と書けば酷暑の季節ということが伝わる、暑中見舞いにはぴったりの言葉となったわけです。
- 三伏の期間はいつからいつ?
三伏とは初伏・中伏・末伏(しょふく・ちゅうふく・まっぷく)に該当する日のことで、この初伏~末伏までの期間を三伏の候といいます。暦注としては既に書いたとおり、日本最古の具注暦にも書き込まれていたという大変に由緒正しいものです。
三伏日の撰日法(せんじつほう:どうやって計算するかという決まり)はどんなものかというと、いくつか流派があるので、本によっては日付が違うこともありますが、この「こよみのページ」では、一番普及していると思われる次の方式を採用しています。
- 初伏・・・夏至以後、三度目の庚(かのえ)の日
- 中伏・・・夏至以後、四度目の庚の日
- 末伏・・・立秋以後、最初の庚の日
ちなみに、この方式で近年の三伏日を計算してみたのが次の表です。
2021-2030年の三伏日 西暦年 初伏日 中伏日 末伏日 2021 7/11 7/21 8/10 2022 7/16 7/26 8/15 2023 7/11 7/21 8/10 2024 7/15 7/25 8/14 2025 7/20 7/30 8/09 2026 7/15 7/25 8/14 2027 7/20 7/30 8/09 2028 7/14 7/24 8/13 2029 7/19 7/29 8/08 2030 7/14 7/24 8/13
三伏の始まり(初伏日)は 7/11 ~ 7/21
三伏の終わり(末伏日)は 8/07 ~ 8/17
の間にあることになります。
ちなみに、この記事(初出)を書き上げたのが2006/7/19。この年は初伏が遅い年に当たっていて、初候は7/20でした。つまり、ぎりぎりになって慌てて書き上げたというわけですね。まあ、それでもなんとか三伏に入る前に記事がアップ出来てよかったよかったというわけでした。
- 三伏の意味するもの
撰日法に「○×以後の、△度目の庚の日」とあるのでピントきた人もいるかもしれません。そう、三伏日は陰陽五行説(いんよう ごぎょうせつ)から生まれた暦注の一つである。
五行説は森羅万象全ては「木・火・土・金・水」の五の性質(五行)の組み合わせによって説明出来るとする説です。古代の科学仮説ということも出来るでしょう。
五行説は、基本となる五性がそれぞれに絡み合って森羅万象の全てを生み出してゆくわけですが、その中でも「相性のよい性」と「相性のよくない性」があると考えられました。
相性がよい組み合わせの代表は「相生(そうじょう)」という関係です。例えば「木生火(木は火を生ず)」「火生土(火は土を生ず)」などです。木は薪となって燃えて火を生み出しますし、火が燃えると灰(土)が生まれるというわけです。ある性が別の性を生み出す元になる、こうした関係が相生です。
相性のよい相生の反対に相性の悪い関係の代表が「相剋(そうこく)」という関係です。「剋」とは「勝つ」とか「侵す」といった意味です。例えば「金剋木(金は木に勝つ)」「火剋金(火は金に勝つ)」などがあります。金属で作られた刃物で木は伐られてしまいますし、その堅い金属も火によって融かされてしまうという関係が相剋です。
この五行説の相生、相剋の関係を模式的に表したものが下の図です。この図を見ながら古代の人々が考えた相生、相剋の関係がどのようなものだったのかを想像してみるのも面白いと思いますので、お時間があれば考えをめぐらせてみてください。
五行説では季節にもそれぞれ五行が割り振られています。また毎日の「日」にも日に割り振られた十干(甲乙丙丁戊己庚辛壬癸)というか形で、五行と結びついています。この「季節の五行」と「日の五行」の組み合わせによって三伏という暦注が考え出されました。季節と十干の五行は次の表のようになっています。
五行説による
季節と十干の分類五行 木 火 土 金 水 季節 春 夏 ※ 秋 冬 十
干(兄) 甲 丙 戊 庚 壬 (弟) 乙 丁 己 辛 癸 ※土性は「土用」に配当される
夏は「火性」の季節
十干の「庚」は「金性」
となります。
夏が「火性」と考えられた理由は、言うまでもなくその暑さ(熱さ)からです。三伏の日というのはこの「火性」の季節である夏に登場する「庚の日」です。
「庚(かのえ)」は「金の兄(かのえ)」の意味で、金性です。後に続く「兄」は、五行説とよく結びついて陰陽五行説となる陰陽説から来るもので陽性を「兄」、陰性を「弟」とするもので、陰陽五行説ではこの「兄弟(えと)」は概ね、その程度の強弱を表すものと解釈されます。十干のうち金性のものは「庚」「辛」の2つですが、庚(金の兄)は辛(金の弟)に比べて、より強く金性を表す十干です。こうしてみてくると、三伏の日とは
火の性の気が激しい季節(夏)の
金の性の気が激しい日(庚の日)は
季節と日の性が「火剋金」という相剋の関係になる、相性が悪い日
ということになります。
また、ここで火性に押さえ込まれてしまう金性は季節では秋を表す性ですから、三伏の日は
夏の気が秋の気を押さえ込まれ、損なわれる日
という意味にもとらえられます。夏が秋を押さえ込む(夏に秋が伏する)日ということで「三伏日」というわけです。季節は暑い夏から徐々に秋へと変わってゆくはずなのですが、その秋を表す金性が火性によって損なわれてしまい、天地の平衡の崩れた暑い日になると考えられたようです。この三伏の日は、日の吉凶を占う暦注としてみると、その内容は
「旅行、種まき、婚姻を忌む日」
となります。もちろんこの辺りの意味も陰陽五行説から導き出されたもので、今では単なる迷信以外の何者でもありませんが、昔々の大昔、まだ陰陽五行説が科学だった時代にあっては、こんな暦注も「科学的な推測」と捉えられていたのでした。
- 季節の言葉としての「三伏の候」
暦注として見れば三伏はただの迷信ですが、迷信とはいえ長らく暦に書き続けられた結果、今では「三伏の候」といえば真夏のことさらに暑さの厳しい時期を指す夏の季語となり、時候の挨拶にも取り入れられる言葉となっています。
ただ暑いとか、暑中とか云わず、さりげなく「三伏の候」なんて言葉を織り込んでみると、ちょっとしゃれた感じがしませんか?
よし、「今年の暑中見舞いの書き出しは『三伏の候』でいこう」なんて気分になってきました。とはいいながら、この記事の始めに書いたとおり、私は年賀状すら書かない奴なので、暑中見舞いを書くことはありません。ああ、残念。
- 余 談
- 「兄弟」と書いて「えと」と読む
- 十干は、「甲→木の兄(きのえ)」「乙→木の弟(きのと)」のように読みます。このように陰陽五行説での意味で「兄弟」と書いた場合はこれを「えと」読みます。
十干は十二支と組み合わせて六十干支を作り、「丙午(ひのえうま)」「壬寅(みずのとのとら)」などと使うことも多く、このためか本来は「兄弟」と書いて「えと」と読んでいたのがいつの間にか「干支(えと)」として使われるようになってしまった。更に「干支(えと)」といえば十二支を指すように変化して
質問:あなたの「えと」は?
答え:「寅」です。
なんていうやり取りが普通になってしまいました。元々は「兄弟」だった「えと」という読み方が、現在では十二支(えと)となってしまったという、「えと」の「兄弟」から「十二支」への変遷の話でした。
2006/07/19 初出
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