暦と天文の雑学
http://koyomi8.com/reki_doc/doc_0930.html

土星の環が消える時
もし「望遠鏡で見たい天体ランキング」を作ったら先ず間違いなく上位(多分一位?)に入るであろう天体が、環のある惑星土星です。
現在では土星以外にも、木星・天王星・海王星が「環」を持っていることが知られています。要するに太陽系にある木星型惑星と呼ばれる巨大惑星にはすべて環が見つかっているのです。とは言いながら、土星以外の環は大型の望遠鏡での観測や惑星探査機などによる探査が可能となるまで発見されなかったことからも判るとおり暗く、その規模も土星のあの雄大な環とは比べものにならないものでしたから、今もって
環のある惑星
といえば、ほとんどの方の頭に頭に浮かぶ天体は土星でしょう。
●土星の環が消える?
この「環のある惑星」土星の環は15年ごとにその姿を隠してしまう「環の消失現象」をおこします。
これを書いているのは2009年 9月。この月の 4日にはその土星の環の消失現象が起こります。この時、土星がどんな風に見えるかを計算したのが右の図。環が細くて目立た無くなっています。
土星の環の消失現象は土星が太陽の周りを一回りするのに要する年数(公転周期)の半分毎に起こります。土星の公転周期は約30年ですのでその公転周期の半分の15年毎に地球から薄い土星の環を真横から見ることになるためです。
次に示した図がその様子を表しています。図の中央は太陽、その周りの青い小さな楕円が地球の公転軌道です。図中の橙色の破線のあたりに土星が来ると、環の消失現象が起こります。
図に挿入した土星の画像は、土星の位置によって環がどのように見えるかを示したものです。土星の画像は、望遠鏡で見たイメージに近く成るように、南北を反転しています(図の上が南)。
左の図は2000年 1月~2029年10月(30年間)までのデータで作った環の見かけの変化を示すGIF アニメーションです。画像は望遠鏡で眺めた状況に近い状態とするため上下(南北)を反転させました。土星の環の見え方の変化と、消失現象をイメージする助けになると思います。
さてこの土星の環ですが、幅は広いのですがその厚さは大変に薄いものです。よく見える2つの環の幅は
A環:約14600km , B環:約25500km
もあります。地球の直径が12800km程ですから、どちらも地球の直径よりも広い幅です。こんなに幅が広い環ですが、厚さはとても薄くて厚い部分でも数百m(おそらくは100m以下)だと考えられています。
たとえば、良く目にするA4のサイズの紙の幅がB環の幅だと考えると、A4の紙の幅は210mmですから、その厚さは
1/1000 mm以下 (B環の厚さを100mとして)
ということになります。もしこんなに薄い紙が本当にあったとして、これを真横から眺めたらどうなるでしょう。おそらく紙がそこにあるということさえ判らないと思います。この極薄の紙の様な土星の環も同じで環を真横から見ると、環は全く見えず、消えて無くなってしまった様に見えます。この現象が土星の環の消失現象です。
●地球から見た環の消失と、太陽から見た環の消失
土星の環の消失現象は、環を真横から見たときに起こると書きました。この「真横から見る」ものは何かといえば私たちで、その私たちが何処にいるかというとそれは地球の上です(気軽に宇宙旅行が出来る時代に成るまでは)。地球が環を真横から見る位置に来ると環の消失現象が起こります。
これはお解りいただけると思いますが、実はこれとは別の時にも消失現象が見られます。それは太陽から見て環が真横になった瞬間です。
左側に示した図は、この二つの消失現象を模式的に表したものです。
ご承知のとおり、地球や月、土星や木星などはそれ自身が光っているわけではなく、太陽の光を反射して光っています。土星の環もまた、太陽の光を反射して光っている訳ですから、もし太陽が真横から環を照らす位置に成ったとすると、薄い環はほとんど光を反射する部分がない細い細い光の線に成ります。この状態になるとやはり土星の環はほとんど見えなくなってしまい、広い意味での環の消失現象を起こします。
●1シーズンに地球からみた消失が起こる回数
1990~2050年までの間の土星の環の見かけの角度の変化を計算した結果のグラフを次に示します。
図には青の線と緑の線の 2本の曲線が描かれています。この線は、青色が太陽から見た角度で緑色が地球から見た角度を表しています。この曲線が環の角度が 0°となる箇所(グラフでは、ピンクの領域と白の領域の境界部分)で環の消失が起こります。
青線で表した太陽から見た角度の変化は滑らかな曲線で、太陽から見た環の消失現象は15年ごとに1度だけ起こることがわかると思います。これに対して緑線で表した地球から見た角度の変化には小さな凸凹が見られます。この凸凹は地球の公転によって土星を見る地球の位置が変化するために出来たものです。緑線の凸凹は細かくて見づらいので2009年、2025年、2039年付近のグラフを拡大して示します。
グラフからも解るとおり、今年2009年の環の消失現象は太陽から見た環の消失と地球から見た環の消失がそれぞれ1回づつ起こります(8/11と9/4)。2025年に起こる現象も順番は逆になりますが同じく1回づつ現象が起こります。
これに対して2038~2039年に起こる現象は太陽から見た消失現象は1回ですが、地球からみた消失現象は3回起こります。消失現象が終わったと油断しているとまた消失現象が起こる、忙しい年です。ちなみに前回の1995~1996年の消失現象も地球からみた消失が3回起こるタイプでした。
右に今後(2000~2099年)の土星の環の消失時期の一覧を掲載します。何せ環の消失は15年ごとに起こる現象ですので、次回でも2025年と随分先のことですので知ったところであまり役にも立たないかとも思いますが、何かの役に立つかも知れないので載せておきます。
なお、この表中の日付はグラフを作るために行った少々雑な計算の結果なので実際の消失日と3~4日程度の差があることがあります。その点に注意して目安として見てください。
最後は2000~2050年までの土星の環の見かけの状況を計算した画像です。西暦年を指定すると、その年の3ヶ月後と(1,4,7,10月)の環の状況が表示されます(望遠鏡でのぞいた像を想定して、上下を反転した像・・・上が南・・・となっています)。
今の環の状態はどんなだったかなというときにご利用頂ければ、参考になると思います。
※更新履歴
初出 2009/10/17
もし「望遠鏡で見たい天体ランキング」を作ったら先ず間違いなく上位(多分一位?)に入るであろう天体が、環のある惑星土星です。
現在では土星以外にも、木星・天王星・海王星が「環」を持っていることが知られています。要するに太陽系にある木星型惑星と呼ばれる巨大惑星にはすべて環が見つかっているのです。とは言いながら、土星以外の環は大型の望遠鏡での観測や惑星探査機などによる探査が可能となるまで発見されなかったことからも判るとおり暗く、その規模も土星のあの雄大な環とは比べものにならないものでしたから、今もって
環のある惑星
といえば、ほとんどの方の頭に頭に浮かぶ天体は土星でしょう。
●土星の環が消える?
この「環のある惑星」土星の環は15年ごとにその姿を隠してしまう「環の消失現象」をおこします。

土星の環の消失現象は土星が太陽の周りを一回りするのに要する年数(公転周期)の半分毎に起こります。土星の公転周期は約30年ですのでその公転周期の半分の15年毎に地球から薄い土星の環を真横から見ることになるためです。
次に示した図がその様子を表しています。図の中央は太陽、その周りの青い小さな楕円が地球の公転軌道です。図中の橙色の破線のあたりに土星が来ると、環の消失現象が起こります。

図に挿入した土星の画像は、土星の位置によって環がどのように見えるかを示したものです。土星の画像は、望遠鏡で見たイメージに近く成るように、南北を反転しています(図の上が南)。
環の見かけの変化 (2000~2029) ![]() |
土星の環の数
現在(2009年)、土星にはA~G環までの7つと、更により暗い4つの環の合計11が見つかっています。A~G環は、土星本星から近い順にD,C,B,A,F,G,Eとなります。小型の望遠鏡でもはっきりとその存在の解る明るい環はこのうちのA環とB環です。
ちなみにそれぞれの環の間には環を構成する物質の存在しない空間があり、発見者の名にちなんで「○○の間隙」などと呼ばれます。A環とB環の間にあるカッシニの間隙は小型の望遠鏡でもはっきりと見ることが出来ます。
現在(2009年)、土星にはA~G環までの7つと、更により暗い4つの環の合計11が見つかっています。A~G環は、土星本星から近い順にD,C,B,A,F,G,Eとなります。小型の望遠鏡でもはっきりとその存在の解る明るい環はこのうちのA環とB環です。
ちなみにそれぞれの環の間には環を構成する物質の存在しない空間があり、発見者の名にちなんで「○○の間隙」などと呼ばれます。A環とB環の間にあるカッシニの間隙は小型の望遠鏡でもはっきりと見ることが出来ます。
さてこの土星の環ですが、幅は広いのですがその厚さは大変に薄いものです。よく見える2つの環の幅は
A環:約14600km , B環:約25500km
もあります。地球の直径が12800km程ですから、どちらも地球の直径よりも広い幅です。こんなに幅が広い環ですが、厚さはとても薄くて厚い部分でも数百m(おそらくは100m以下)だと考えられています。
たとえば、良く目にするA4のサイズの紙の幅がB環の幅だと考えると、A4の紙の幅は210mmですから、その厚さは
1/1000 mm以下 (B環の厚さを100mとして)
ということになります。もしこんなに薄い紙が本当にあったとして、これを真横から眺めたらどうなるでしょう。おそらく紙がそこにあるということさえ判らないと思います。この極薄の紙の様な土星の環も同じで環を真横から見ると、環は全く見えず、消えて無くなってしまった様に見えます。この現象が土星の環の消失現象です。
●地球から見た環の消失と、太陽から見た環の消失
土星の環の消失現象は、環を真横から見たときに起こると書きました。この「真横から見る」ものは何かといえば私たちで、その私たちが何処にいるかというとそれは地球の上です(気軽に宇宙旅行が出来る時代に成るまでは)。地球が環を真横から見る位置に来ると環の消失現象が起こります。
これはお解りいただけると思いますが、実はこれとは別の時にも消失現象が見られます。それは太陽から見て環が真横になった瞬間です。

ご承知のとおり、地球や月、土星や木星などはそれ自身が光っているわけではなく、太陽の光を反射して光っています。土星の環もまた、太陽の光を反射して光っている訳ですから、もし太陽が真横から環を照らす位置に成ったとすると、薄い環はほとんど光を反射する部分がない細い細い光の線に成ります。この状態になるとやはり土星の環はほとんど見えなくなってしまい、広い意味での環の消失現象を起こします。
●1シーズンに地球からみた消失が起こる回数
1990~2050年までの間の土星の環の見かけの角度の変化を計算した結果のグラフを次に示します。

![]() |
![]() |
![]() |
グラフからも解るとおり、今年2009年の環の消失現象は太陽から見た環の消失と地球から見た環の消失がそれぞれ1回づつ起こります(8/11と9/4)。2025年に起こる現象も順番は逆になりますが同じく1回づつ現象が起こります。
これに対して2038~2039年に起こる現象は太陽から見た消失現象は1回ですが、地球からみた消失現象は3回起こります。消失現象が終わったと油断しているとまた消失現象が起こる、忙しい年です。ちなみに前回の1995~1996年の消失現象も地球からみた消失が3回起こるタイプでした。
2009/08/11S | 2009/09/04 | ||
2025/03/23 | 2025/04/26S | ||
2038/10/11 | 2039/01/07S | 2039/04/10 | 2039/07/03 |
2054/04/28 | 2054/09/10 | 2054/09/17S | 2055/01/26 |
2067/12/03 | 2068/01/27 | 2068/06/01S | 2068/08/18 |
2084/02/20S | 2084/03/05 | ||
2097/09/24 | 2097/11/03S | ||
※注意 1.日付の後に[S]とあるものは太陽から見た消失 2.日付には数日程度の誤差を含みます。 |
なお、この表中の日付はグラフを作るために行った少々雑な計算の結果なので実際の消失日と3~4日程度の差があることがあります。その点に注意して目安として見てください。
最後は2000~2050年までの土星の環の見かけの状況を計算した画像です。西暦年を指定すると、その年の3ヶ月後と(1,4,7,10月)の環の状況が表示されます(望遠鏡でのぞいた像を想定して、上下を反転した像・・・上が南・・・となっています)。
今の環の状態はどんなだったかなというときにご利用頂ければ、参考になると思います。
※更新履歴
初出 2009/10/17
■この記事を評価してください(最高5 ~ 最低1)
※2010.6.1~の記事の評価 , 閲覧数
暦と天文の雑学