暦と天文の雑学
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「成人の日」の話
1月の第2日曜日、「成人の日」です。
「成人の日」は昭和23(1948)年 7月に公布された「国民の祝日に関する法律」(通称、祝日法)に記載された最初の9日間の祝日の一つで、平成12(2000)年から1月の第2月曜日になるまでは毎年1月15日に行われていました。
※参考
「成人の日」の日付けは「平成10年法律141号」によって1月の第2日曜日に変更となりました(俗にいう「ハッピー・マンデー法」)。
さてさて、この「成人の日」という祝日にはどのような意味があるのでしょうか? たまにはそんなことを考えてみるのもよいでしょう。
「成人の日」の意味について、祝日法には次のように記載されています。
成人の日 一月の第二月曜日
おとなになつたことを自覚し、
みずから生き抜こうとする青年を祝いはげます。
これを見ると「おとなになつたことを自覚し、みずから生き抜こうとする青年」を祝う日だと言うことですから、「成人したら大っぴらに酒が飲めるぞ!」というだけの人を祝う必要はないようです。よかった、よかった。
ちなみに「おとなになったことを自覚し、 みずから生き抜こうとする青年を祝いはげます日」であるというこの日には、各地で成人式が行われます(地域の現状に合わせて成人式を他の時期にしている自治体もあります)。
◆成人とは
さて、成人の日は成人となった青年を祝い励ます日ですが、そもそも成人とはなんでしょうか。
昔の農村では一人前の男とは、「米四斗の俵が担げ、一日に一反の田起こし、田植え等が行えること」と極めて判りやすい定義があったそうです(※四斗・・・約60kg、一反・・・約1000平方メートル)。女性の場合は肉体的に非力ですからその基準は、男性の基準の7割とされたそうです。こうした条件をクリアして「一人前」と認められると、村や町の行事に対しても、それぞれの役割を担う存在となります。この一人前となった人がすなわち成人です。なかなか分かり易い、合理的な「成人の基準」です。
さすがに現在は「米俵を担いでみろ」とはいえませんので、代わりの基準として年齢が使われます。民法の四条には次のように記述があります。
第四条 年齢十八歳をもって、成年とする。
ここには「成年」とあります。一般的にはこの成年の年齢に達した人を「成人」といいますから「成人=18歳以上の人」ということになるでしょう。この年齢になると婚姻が認められ、選挙権が与えられます。ただ、成年の年齢が18歳となったのは令和4(2022)年4月1日から(平成30年6月13日「民法の一部を改正する法律」による改正)で、それまでは長らく成年年齢は20歳であったことと、現在でもいくつか20歳以上でなければ認められない事項(例えば養親としての縁組みや、飲酒・喫煙が認められる年齢など)も残っていることから、今でも成年年齢は20歳というのが一般的な感覚かも知れません。
ちなみに成人となれば飲酒や喫煙、結婚などに加えられた制限がはずれますが、その一方で、少年法等で保護されることもなくなり、何かあれば一人前の大人として大人の責任を問われる存在となります。権利が増えるということは責任も増えるということをお忘れなく。
◇成人の日の日付について
いわゆるハッピー・マンデー法の施行によって移動祝日化した祝日は元々の意味と日付の関連が不明瞭になってしまいました。今回採り上げた「成人の日」もこの移動祝日化した祝日の一つです。
ただ、「成人の日」に関しては移動祝日化する前の1月15日という日付も、なぜこの日でなければいけないかという理由ははっきりしない祝日ではありました。この点に関しては、祝日法公布時点(昭和23(1948)年)でも指摘されていました。
◆成人の日は元服の日?
はっきりした理由がわからない元々の「成人の日」の日付けですが、なにも理由がないというのもおかしな話ですので何かそれらしいものはないかなと考えたけっか、浮かんだのが「成人の日」という儀礼の意味合いの似た元服(げんぷく)と裳着(もぎ)という行事と小正月の日付けとの関係でした。
元服、裳着とは昔、貴族や武家の間で行われていたもので、社会に大人の仲間入りをしたと認められるための現代の成人式に通じる成人儀礼です。男性が行うものを元服、女性が行うものを裳着といいました。
元服の「元」は始めの意味で「服」は衣服。つまり始めて大人の衣服を身につける儀式(女性の裳着も同様)です。衣服を替えることによって、一見して成人か否かが判断出来ることになります。現在の成人式でも羽織袴で出掛ける若者が結構いますが、もしかしたらこれなどは元服の儀式の名残かも? (その外見だけ見れば成人か否かが判るというのは便利ですから、このまま羽織袴で暮らしてくれるなら、お酒や煙草を販売する店の方は助かるでしょうね。おっと、これは余談。)
元服や裳着の儀式は、現在の成人式のように二十歳になったら一律に行うようなものでなく人それぞれで、大体は十代の半ばの適当な年齢で行われていました。例えば、天皇の場合は11~15歳ほどの年齢で元服したとされます。元服によって変えるのは服装だけでなく髪型なども変えました。この元服の儀式は正月早々に行うことが多く、貴族なら正月五日、武家なら正月十一日までに行うことが通例だったようですので、元々の成人の日の1月15日という日付けはこれに影響されたものではないかと私は推測(憶測?)しています。
「元々の元服の日に近くかつ他の正月行事に埋もれない目出度い日。1月15日は小正月の日で目出度い日であり、元服等の儀礼が行われていた時期にも近い」
そんな理由が1月15日という成人の日の日付けにはあったのでは?
どうでしょうね。
◆「成人式」の始まりについて
「成人の日」といって思い出される行事といえば成人式。成人の日の話の最後はこの成人式の始まりについて書いておこうと思います。
現在のように地方自治体が中心となって行う成人式の始まりは昭和21(1946)年に埼玉県の蕨町(現蕨市)で行われたものが最初だといわれています。この年、蕨町が行う青年祭(11月22~24日)の幕開けの式典として行われた「成年式」がそれです。蕨市にはこの事実を記念した「成年式発祥の地像」があります。
当時の日本は敗戦後間もない時期でしたから、社会復興の原動力となるべき青年達を励まそうという意味で、青年祭(成年式を含む)は行われました。昨今の成人式を見ると、当初の目的からは大分外れてしまったものが多いようです。
ちなみに成人式の発祥の地となった蕨市では、こうした経緯から伝統を守って今も成人式ではなく「成年式」の名称を使っています。
【参考記事】
成人式発祥の地のまち蕨 (蕨市HP)
https://www.city.warabi.saitama.jp/1004289/1004495.html
ここまで「成人の日」にまつわるいろいろな話を書いてきましたが、成人の日は「おとなになつたことを自覚し、みずから生き抜こうとする青年を祝いはげます」目出度い祝日です。みんなで新成人を祝いしましょう。そして祝われる新成人は、大人になったことを自覚して立派に生きていってください。
余談士規七則に見る、成人とは?
元々成人とは社会の構成員としての義務を負う(「一人役」と呼ばれる共同体内での仕事や「兵役義務」といったもの)代わりに、成人としての権利(選挙権や、飲酒、喫煙、婚姻の自由など)を与えられたものでしたが、今は与えられる権利ばかりで、義務はどこかへ行ってしまったようです。
まあ、二十歳の頃の自分はどうだったかと考えれば、頼りなく見える新成人と大差なかったでしょうね。
最後に昔の人の考えた成人の要件を吉田松陰の士規七則の末文から拾ってみましょう。
士規七則、約して三端となす。曰く、
立志、以つて万事の源となす。
択交、以つて仁義の行いを輔(たす)く。
読書、以つて聖賢の訓(おしえ)を稽(かんが)ふ。
士、苟もここに得るあらば、また以つて成人となすべし
この成人の要件を自分は満たしているだろうかと、顧みることは成年年齢を遙かに過ぎた今でも、意味のあることだと思います。
※更新履歴
初出 2025/01/02

「成人の日」は昭和23(1948)年 7月に公布された「国民の祝日に関する法律」(通称、祝日法)に記載された最初の9日間の祝日の一つで、平成12(2000)年から1月の第2月曜日になるまでは毎年1月15日に行われていました。
※参考
「成人の日」の日付けは「平成10年法律141号」によって1月の第2日曜日に変更となりました(俗にいう「ハッピー・マンデー法」)。
さてさて、この「成人の日」という祝日にはどのような意味があるのでしょうか? たまにはそんなことを考えてみるのもよいでしょう。
「成人の日」の意味について、祝日法には次のように記載されています。
成人の日 一月の第二月曜日
おとなになつたことを自覚し、
みずから生き抜こうとする青年を祝いはげます。
これを見ると「おとなになつたことを自覚し、みずから生き抜こうとする青年」を祝う日だと言うことですから、「成人したら大っぴらに酒が飲めるぞ!」というだけの人を祝う必要はないようです。よかった、よかった。
ちなみに「おとなになったことを自覚し、 みずから生き抜こうとする青年を祝いはげます日」であるというこの日には、各地で成人式が行われます(地域の現状に合わせて成人式を他の時期にしている自治体もあります)。
◆成人とは
さて、成人の日は成人となった青年を祝い励ます日ですが、そもそも成人とはなんでしょうか。

さすがに現在は「米俵を担いでみろ」とはいえませんので、代わりの基準として年齢が使われます。民法の四条には次のように記述があります。
第四条 年齢十八歳をもって、成年とする。

ちなみに成人となれば飲酒や喫煙、結婚などに加えられた制限がはずれますが、その一方で、少年法等で保護されることもなくなり、何かあれば一人前の大人として大人の責任を問われる存在となります。権利が増えるということは責任も増えるということをお忘れなく。
◇成人の日の日付について
いわゆるハッピー・マンデー法の施行によって移動祝日化した祝日は元々の意味と日付の関連が不明瞭になってしまいました。今回採り上げた「成人の日」もこの移動祝日化した祝日の一つです。
ただ、「成人の日」に関しては移動祝日化する前の1月15日という日付も、なぜこの日でなければいけないかという理由ははっきりしない祝日ではありました。この点に関しては、祝日法公布時点(昭和23(1948)年)でも指摘されていました。
◆成人の日は元服の日?
はっきりした理由がわからない元々の「成人の日」の日付けですが、なにも理由がないというのもおかしな話ですので何かそれらしいものはないかなと考えたけっか、浮かんだのが「成人の日」という儀礼の意味合いの似た元服(げんぷく)と裳着(もぎ)という行事と小正月の日付けとの関係でした。
元服、裳着とは昔、貴族や武家の間で行われていたもので、社会に大人の仲間入りをしたと認められるための現代の成人式に通じる成人儀礼です。男性が行うものを元服、女性が行うものを裳着といいました。
元服の「元」は始めの意味で「服」は衣服。つまり始めて大人の衣服を身につける儀式(女性の裳着も同様)です。衣服を替えることによって、一見して成人か否かが判断出来ることになります。現在の成人式でも羽織袴で出掛ける若者が結構いますが、もしかしたらこれなどは元服の儀式の名残かも? (その外見だけ見れば成人か否かが判るというのは便利ですから、このまま羽織袴で暮らしてくれるなら、お酒や煙草を販売する店の方は助かるでしょうね。おっと、これは余談。)

「元々の元服の日に近くかつ他の正月行事に埋もれない目出度い日。1月15日は小正月の日で目出度い日であり、元服等の儀礼が行われていた時期にも近い」
そんな理由が1月15日という成人の日の日付けにはあったのでは?
どうでしょうね。
◆「成人式」の始まりについて
「成人の日」といって思い出される行事といえば成人式。成人の日の話の最後はこの成人式の始まりについて書いておこうと思います。

当時の日本は敗戦後間もない時期でしたから、社会復興の原動力となるべき青年達を励まそうという意味で、青年祭(成年式を含む)は行われました。昨今の成人式を見ると、当初の目的からは大分外れてしまったものが多いようです。
ちなみに成人式の発祥の地となった蕨市では、こうした経緯から伝統を守って今も成人式ではなく「成年式」の名称を使っています。
【参考記事】
成人式発祥の地のまち蕨 (蕨市HP)
https://www.city.warabi.saitama.jp/1004289/1004495.html
ここまで「成人の日」にまつわるいろいろな話を書いてきましたが、成人の日は「おとなになつたことを自覚し、みずから生き抜こうとする青年を祝いはげます」目出度い祝日です。みんなで新成人を祝いしましょう。そして祝われる新成人は、大人になったことを自覚して立派に生きていってください。
余談
まあ、二十歳の頃の自分はどうだったかと考えれば、頼りなく見える新成人と大差なかったでしょうね。
最後に昔の人の考えた成人の要件を吉田松陰の士規七則の末文から拾ってみましょう。
士規七則、約して三端となす。曰く、
立志、以つて万事の源となす。
択交、以つて仁義の行いを輔(たす)く。
読書、以つて聖賢の訓(おしえ)を稽(かんが)ふ。
士、苟もここに得るあらば、また以つて成人となすべし
この成人の要件を自分は満たしているだろうかと、顧みることは成年年齢を遙かに過ぎた今でも、意味のあることだと思います。
※更新履歴
初出 2025/01/02
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