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【進むには名を求めず】
 進むには名を求めず、退くには罪を避けず。唯だ民を是保つ『孫子・地形篇』

 軍を進めるにあたって、指揮者は自分の功名を求めてはならないし、退却に
 あたってその責任を逃れようとしてはならない。
 進むも退くも、ただ人民の安全を保つと言うことを唯一の目的とすべきもの
 である。  《中国古典名言事典》


 「孫子」は紀元前 5世紀頃に成立したと言われる兵法書。著者は春秋時代の
 呉に仕えた孫武(そんぶ)だと言われます(孫武一人の作ではないとの説も
 あります)。
 単なる戦争の現場での戦術論に留まらず、国家レベルの戦略にまで踏み込ん
 だ戦争論の書として、評価が高く

  「孫子以前に兵書無く、孫子以降に兵書無し」

 とまで言われる本です。


 「進むには名を求めず」は、その孫子の中の「地形篇」にある言葉です。こ
 の地形篇は、戦いの場の地形によってどのように戦うべきか、あるいは戦わ
 ざるべきかといった論をまとめた部分で、この言葉は地形を見て戦ってはな
 らない場所では、君主が戦えと言っても戦ってはならないし、戦うべきとこ
 ろでは君主が留めても戦わなければならないことを述べた一節に登場します。

 人の上に立った人物には、進むべきか退くべきかその決断を求められる時が
 あります。それは戦争という場に限らないところでしょう。その決断を下す
 時、成功したときの名声や、失敗したときの責任問題などに惑わされずに判
 断を下せるか。時と所が変わっても、変わらない問題です。

「進むには名を求めず、退くには罪を避けず」とは言うは易く行うは難い言葉
 です。孫子はこの言葉に続いて、こうしたことができる将を「国の宝なり」
 と言っています。それだけ得難いと言うことでしょう。

 最近連日新聞の紙面を賑わせる大臣の方々の行いを見るにつけ、名を求めず、
 罪を避けずという人はまことに得難いものなのだなと思う今日この頃です。


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